革新的テーマを創出するために 「自社技術を市場にアピールする」

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1.オープンイノベーション時代の自社技術・他社技術

 オープンイノベーションは単なる流行ではなく、既に企業のコアコンセプトとして確固たる地位を確立しています。ますます複雑化し、変化の速い時代の中で、外部技術を積極的に取り入れることは理にかなっており、自社の研究者・技術者に限らず、世界中に存在する多数の研究者・技術者の頭脳を使うことは、合理的な判断と言えます。

 シュンペーターは「イノベーションは新結合」と言っています。つまり、既存の自社と他社の技術を組み合わせ、スパーク(新結合)させることで、革新的なテーマを生み出すことができ、スパークの原料を世界に広く求めることで、スパークの起こる可能性を大きく高めるのです。

 

 

2.革新的テーマを生み出すために、自社技術を市場にアピールする

 技術は組織の奥ノ院である研究開発部門で創出され、しかもできるだけ外部に知られないようにこっそり利用されがちです。しかしこの状態では、自社の組織外の技術との間でスパークを起こすのは難しいでしょう。まずは自社が主体的に自社保有技術を市場にアピールし、その存在を多くの人たちに知らしめることが必要です。そして更に一歩進めて、彼らの頭を刺激して、新しいスパークを引き起こさせなければなりません。

 

3.自社技術紹介の場の設定

 では、どのように自社の技術を市場に知らしめ、更に外部の人たちの頭の中でスパークを起こすのでしょう。近年技術紹介の場を設ける方法が注目を浴びており、そのような方法をとる企業が少しづつ増えています。例えば最近、富士フイルムが「オープンイノベーションハブ」をオープンしました。ここでは、自社のコア技術を紹介するとともに、自社技術全体に通じた技術者を配置して、ビジネスパートナーとの間で共創を実現しようとするものです。

 このような場の源流は、住友3MのCTC(カスタマーテクニカルセンター)です。CTCは、同社のビデオテープ工場の跡地の有効利用法として、顧客との共創に向けて自社のプラットフォーム技術紹介の場として作られました。現在では世界中に30ヶ所以上も設けられています。

 

4.技術紹介の場を機能させる工夫

 しかし、自社の技術を紹介する場を単に作るだけでは、革新的なテーマを創出することはできません。次のような工夫が必要です。

(1)その技術で『何ができるか』を示す

 単に自社の持つ要素技術を並べるだけでは、顧客は刺激を受けません。多くの顧客は技術そのものにはあまり関心がなく、その技術で「何かできるか」に関心があるのです。したがって、実際に「その技術で何かできるか」の紹介の場でなければなりません。たとえば過去にその技術を使った新たな用途の事例などを、顧客に分かり易い手段で示しましょうす。

 ただし多くの場合あまり沢山の用途実績はないかもしれません。その場合、用途は仮説であっても良いでしょう。その代り自社のコア技術で「何ができるのか」を明確にしておく必要があります。そして、その技術の用途仮説を顧客に問うのです。これは技術紹介の場に限らず、革新的なテーマを創出する上で重要な作業です。どのようにやるかについては、また別の機会に紹介します。

(2)『瞬時に』顧客の心を捉える

 数多くの自社技術を紹介するのであれば、顧客がその技術に触れるのはほんの数秒にすぎないかもしれず、その短い瞬間に顧客の心をつかまなければなりません。したがって技術の見せ方やその説明には工夫が必要です。実際の用途例があれば、それを示すことはもちろん、実際の用途例がない場合や新たな用途を紹介する際は、一瞬で理解できるものを用意すべきです。文章での説明、図、動画は顧客の心をつかんだ後でなければ、効果はありません。特に図についていうと、相手もその道の専門家ですが、その意味を理解するにはそれなりの時間が必要です。上で触れた住友3MのCTCにおいては「見て、聞いて、触れて、感じて、発見してください。あなただけのソリューション」(住友3M「カスタマーテクニカルセンターのご案内」より)とあるように、3Mの技術を五感で理解する工夫がなされています。

(4)双方向でコミュニケーションする

 また説明は、技術者自らがやりましょう。展示品の紹介内容を暗記しているだけの説明者では、意味がありません。その道の専門家を相手に限られた時...

1.オープンイノベーション時代の自社技術・他社技術

 オープンイノベーションは単なる流行ではなく、既に企業のコアコンセプトとして確固たる地位を確立しています。ますます複雑化し、変化の速い時代の中で、外部技術を積極的に取り入れることは理にかなっており、自社の研究者・技術者に限らず、世界中に存在する多数の研究者・技術者の頭脳を使うことは、合理的な判断と言えます。

 シュンペーターは「イノベーションは新結合」と言っています。つまり、既存の自社と他社の技術を組み合わせ、スパーク(新結合)させることで、革新的なテーマを生み出すことができ、スパークの原料を世界に広く求めることで、スパークの起こる可能性を大きく高めるのです。

 

 

2.革新的テーマを生み出すために、自社技術を市場にアピールする

 技術は組織の奥ノ院である研究開発部門で創出され、しかもできるだけ外部に知られないようにこっそり利用されがちです。しかしこの状態では、自社の組織外の技術との間でスパークを起こすのは難しいでしょう。まずは自社が主体的に自社保有技術を市場にアピールし、その存在を多くの人たちに知らしめることが必要です。そして更に一歩進めて、彼らの頭を刺激して、新しいスパークを引き起こさせなければなりません。

 

3.自社技術紹介の場の設定

 では、どのように自社の技術を市場に知らしめ、更に外部の人たちの頭の中でスパークを起こすのでしょう。近年技術紹介の場を設ける方法が注目を浴びており、そのような方法をとる企業が少しづつ増えています。例えば最近、富士フイルムが「オープンイノベーションハブ」をオープンしました。ここでは、自社のコア技術を紹介するとともに、自社技術全体に通じた技術者を配置して、ビジネスパートナーとの間で共創を実現しようとするものです。

 このような場の源流は、住友3MのCTC(カスタマーテクニカルセンター)です。CTCは、同社のビデオテープ工場の跡地の有効利用法として、顧客との共創に向けて自社のプラットフォーム技術紹介の場として作られました。現在では世界中に30ヶ所以上も設けられています。

 

4.技術紹介の場を機能させる工夫

 しかし、自社の技術を紹介する場を単に作るだけでは、革新的なテーマを創出することはできません。次のような工夫が必要です。

(1)その技術で『何ができるか』を示す

 単に自社の持つ要素技術を並べるだけでは、顧客は刺激を受けません。多くの顧客は技術そのものにはあまり関心がなく、その技術で「何かできるか」に関心があるのです。したがって、実際に「その技術で何かできるか」の紹介の場でなければなりません。たとえば過去にその技術を使った新たな用途の事例などを、顧客に分かり易い手段で示しましょうす。

 ただし多くの場合あまり沢山の用途実績はないかもしれません。その場合、用途は仮説であっても良いでしょう。その代り自社のコア技術で「何ができるのか」を明確にしておく必要があります。そして、その技術の用途仮説を顧客に問うのです。これは技術紹介の場に限らず、革新的なテーマを創出する上で重要な作業です。どのようにやるかについては、また別の機会に紹介します。

(2)『瞬時に』顧客の心を捉える

 数多くの自社技術を紹介するのであれば、顧客がその技術に触れるのはほんの数秒にすぎないかもしれず、その短い瞬間に顧客の心をつかまなければなりません。したがって技術の見せ方やその説明には工夫が必要です。実際の用途例があれば、それを示すことはもちろん、実際の用途例がない場合や新たな用途を紹介する際は、一瞬で理解できるものを用意すべきです。文章での説明、図、動画は顧客の心をつかんだ後でなければ、効果はありません。特に図についていうと、相手もその道の専門家ですが、その意味を理解するにはそれなりの時間が必要です。上で触れた住友3MのCTCにおいては「見て、聞いて、触れて、感じて、発見してください。あなただけのソリューション」(住友3M「カスタマーテクニカルセンターのご案内」より)とあるように、3Mの技術を五感で理解する工夫がなされています。

(4)双方向でコミュニケーションする

 また説明は、技術者自らがやりましょう。展示品の紹介内容を暗記しているだけの説明者では、意味がありません。その道の専門家を相手に限られた時間で『スパーク』を起こすためには、こちらもその道のプロが双方向でコミュニケーションをする必要があります。また、相手から得られた情報は今後のテーマ創出に向けて大変大事な情報です。それらの情報を受信し、蓄積する場として活用しなければなりません。

(5)技術紹介の前プロセスも重要

  技術紹介の場に、新しい顧客を連れてくることが鍵になります。なぜなら、従来のような既存顧客との間でのコラボレーションだけではなく、広く自社技術を紹介し、『スパーク』の可能性を上げることが、目的だからです。となれば既存顧客の技術者や研究者は当然ながら、世界中の技術者・研究者に足を運んでもらわなければなりません。

 そのためには、様々な活動を通じて自社の技術紹介の場をアピールすることが必要です。自社のウェブサイトでの技術紹介やソーシャルメディアやメールマガジンを使った情報発信以外に。新規顧客開拓活動や展示会、学会発表、自社の要素技術研究会等、広報全体と整合をとり、戦略的に活動を進めることが重要です。

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


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