原価と利益の関係性とは

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1.赤字でも受注するか?

 今回は、飛行機チケットを販売する会社の経営者という想定から入りましょう。飛行機を飛ばすときの条件を以下のように設定します。

  • (1)乗客数に関係なく発生する費用:100万円 (パイロットの人件費、燃料費、管理費など)
  • (2)乗客1人あたりに発生する費用:1万円 (食事代、飲み物代など)
  • (3)飛行機の乗客定員:100

  この条件で、飛行機チケットの販売価格を考えでみます。まず、(1)の100万円を定員100名で賄うので、1人あたり1万円の費用負担となります。それに(2)の1万円を加えて、2万円が飛行機を飛ばすための乗客1人あたりの原価です。これに利益1万円を加え、飛行機チケットを3万円で販売することにしました。

 ここで50人分の飛行機チケットが売れ、50人分の飛行機チケットが売れ残っているとしましょう。そんなときに、20人分の飛行機チケットを購入したいという人が現れました。しかし、この方は団体旅行の幹事さんで、予算の関係上1万5千円以上は出せず、急いでいるので即決してほしいと言っていました。

 さて、1人あたりの原価(2万円)を下回る1万5千円という価格で販売するか、それともお断りするか。どちらを選択するのがいいでしょう?

 

2.材料費を超えれば利益が出る

 多くの製造業の見積方法は、材料費+加工賃+利益となり、この材料費+加工賃が、1個あたりの原価です。このとき、「1個あたりの原価を下回る価格で販売すると利益が出ない」と考えている管理者は多いのではないでしょうか?しかし、それは思い込みです。

 材料費は現金がそのまま外へ出ていくため、材料費を下回る価格で販売すると確かに赤字になります。しかし、加工賃の実体は人件費であり、毎月の給与という形で発生する固定的な費用です。売上から材料費を除いた付加価値額が、固定的な費用を超えた時点からは、材料費を超える金額がすべて利益になります。だから、材料費さえ超えていれば、原価を下回って販売しても利益が出るのです。

 この原理を先の飛行機チケット販売の例で説明しましょう。原価を下回る1万5千円で販売する場合と販売しない場合で、それぞれ売上、費用、利益を計算してみると、以下のようになります。 

 

15千円で販売する場合

15千円で販売しない場合

売上

180万円

50人×3万円

20人×1.5万円

150万円

50人×3万円

 

費用

170万円

100万円

70人×1万円

150万円

    100万円

50人×1万円

利益

10万円

0

 原価を下回る価格で販売するほうが、利益が増える結果になりました。

 同様に、受注が減少して社内に余裕があるのなら、販売価格を下げて新規受注できるものは受注するほうが、全体として利益を確保できるという選択もあるのです。

 

3.利益を出すための活動

 この原理を自社工場に適用しようとすると、実行する上で困難な理由ばかり思いつき、何も変わらないことが多いものです。一方で、「この原理を自社工場に応用するとしたら、どんな方法が考えられるだろうか」という可能性に焦点をあてる方もいます。こう考えることで、前向きな良いアイデアが多く出てくるようになります。

 1つ事例を挙げましょう。鉄道関連の部品を製造する鉄工所では、従来の見積書を見直し、加工賃を大幅に下げることで、毎月注文をもらえる大型の新規案件を受注しました。現在の受注状況や将来性、工場の体制などを徹底的に分析した上での決断です。見積提出後、競合他社と比較して価格が安いため、発注担当者が興味と不安を持って連絡してきました。そこで...

1.赤字でも受注するか?

 今回は、飛行機チケットを販売する会社の経営者という想定から入りましょう。飛行機を飛ばすときの条件を以下のように設定します。

  • (1)乗客数に関係なく発生する費用:100万円 (パイロットの人件費、燃料費、管理費など)
  • (2)乗客1人あたりに発生する費用:1万円 (食事代、飲み物代など)
  • (3)飛行機の乗客定員:100

  この条件で、飛行機チケットの販売価格を考えでみます。まず、(1)の100万円を定員100名で賄うので、1人あたり1万円の費用負担となります。それに(2)の1万円を加えて、2万円が飛行機を飛ばすための乗客1人あたりの原価です。これに利益1万円を加え、飛行機チケットを3万円で販売することにしました。

 ここで50人分の飛行機チケットが売れ、50人分の飛行機チケットが売れ残っているとしましょう。そんなときに、20人分の飛行機チケットを購入したいという人が現れました。しかし、この方は団体旅行の幹事さんで、予算の関係上1万5千円以上は出せず、急いでいるので即決してほしいと言っていました。

 さて、1人あたりの原価(2万円)を下回る1万5千円という価格で販売するか、それともお断りするか。どちらを選択するのがいいでしょう?

 

2.材料費を超えれば利益が出る

 多くの製造業の見積方法は、材料費+加工賃+利益となり、この材料費+加工賃が、1個あたりの原価です。このとき、「1個あたりの原価を下回る価格で販売すると利益が出ない」と考えている管理者は多いのではないでしょうか?しかし、それは思い込みです。

 材料費は現金がそのまま外へ出ていくため、材料費を下回る価格で販売すると確かに赤字になります。しかし、加工賃の実体は人件費であり、毎月の給与という形で発生する固定的な費用です。売上から材料費を除いた付加価値額が、固定的な費用を超えた時点からは、材料費を超える金額がすべて利益になります。だから、材料費さえ超えていれば、原価を下回って販売しても利益が出るのです。

 この原理を先の飛行機チケット販売の例で説明しましょう。原価を下回る1万5千円で販売する場合と販売しない場合で、それぞれ売上、費用、利益を計算してみると、以下のようになります。 

 

15千円で販売する場合

15千円で販売しない場合

売上

180万円

50人×3万円

20人×1.5万円

150万円

50人×3万円

 

費用

170万円

100万円

70人×1万円

150万円

    100万円

50人×1万円

利益

10万円

0

 原価を下回る価格で販売するほうが、利益が増える結果になりました。

 同様に、受注が減少して社内に余裕があるのなら、販売価格を下げて新規受注できるものは受注するほうが、全体として利益を確保できるという選択もあるのです。

 

3.利益を出すための活動

 この原理を自社工場に適用しようとすると、実行する上で困難な理由ばかり思いつき、何も変わらないことが多いものです。一方で、「この原理を自社工場に応用するとしたら、どんな方法が考えられるだろうか」という可能性に焦点をあてる方もいます。こう考えることで、前向きな良いアイデアが多く出てくるようになります。

 1つ事例を挙げましょう。鉄道関連の部品を製造する鉄工所では、従来の見積書を見直し、加工賃を大幅に下げることで、毎月注文をもらえる大型の新規案件を受注しました。現在の受注状況や将来性、工場の体制などを徹底的に分析した上での決断です。見積提出後、競合他社と比較して価格が安いため、発注担当者が興味と不安を持って連絡してきました。そこで、試作品を直ぐに提出し、発注担当者にモノづくりの現場を見てもらいました。これにより、品質に問題がないことを証明して、正式受注の運びとなりました。

 また身近な例として、ある大手コーヒーチェーン店では、コーヒー1杯の価格が300円です。しかし、1杯注文したら、2杯目は100円で購入できます。これは私の推測ですが、この価格設定は本テーマの原理を応用しています。つまり、2杯目の価格は、原料であるコーヒー豆の仕入れ価格を上回れば利益が増えるということです。1人の顧客がコーヒーを1杯飲もうと、2杯飲もうと、販売スタッフは時間給のアルバイト店員だから人件費は変わりません。だから、通常料金の3分の1である100円という価格でも全体として利益が増えると考えられます。

 新しい手法や発想を知ったときに、それを現状の知識レベルで評価するのではなく、可能性を模索する視点で新しいアイデアを打ち出していく。これこそ、管理者に必要な能力の1つではないでしょうか。

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この記事の著者

近江 良和

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