2050年のカーボンニュートラルに向かって世界は大きく動き始めました。欧州はグリーンディールを推進し始め、水素戦略を前面に掲げています。日本は遅ればせながら2050年までのカーボンニュートラルを宣言しました。日本では世界との約束として、2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す長期的目標を掲げています。日本においては、二酸化炭素排出量の低減についてはいち早く取り組んでおり更なる対応については、炭素循環や炭素貯留がカーボンニュートラルの方法と考えられます。炭素循環をより推進するためには太陽光や風力などを用いた再生可能電力からのCO2フリーの水素の製造とCO2フリー水素を用いた燃料と化学品の製造技術を確立しなければなりません。
地球温暖化対策と経済成長を両立させつつ、高い目標を達成するには、二酸化炭素の排出量を削減するだけでなく、石油や石炭など化石燃料への依存度を低下させるなどの脱炭素化を目指し、そのための技術開発を早急に進めていかなくてはなりません。その一環として、政府においても、カーボンリサイクルの技術ロードマップが策定され、2050年までの計画が掲げられているのです。このような背景を踏まえて、今回は、カーボンリサイクルの概要を解説します。
【この記事でわかること】
- カーボンリサイクルとは
- カーボンリサイクルの仕組みと活用
- カーボンリサイクル、今後の展望
1. カーボンリサイクルとは
カーボンリサイクルは地球温暖化の一番の要因となっている二酸化炭素を炭素資源と位置づけ、再利用していくことを目指します。炭素資源を再利用することで、二酸化炭素の排出量を抑え、環境保護を目指そうとする取り組みです。
【カーボンリサイクルの研究分野】
- バイオ燃料研究 → 燃料
- CO2原料の人工光合成研究 → 化学品
- CO2吸収型コンクリート研究 → コンクリート
- 低濃度CO2回収研究 → 分離回収
2. カーボンリサイクルの仕組みと活用
カーボンリサイクルの仕組みは、CO2が資源になるのです。すなわち発電や製造過程で発生するCO2を回収してリサイクルするものです。これによりCO2排出量の削減をすることにつながるのですが、技術面・コスト面において活用できる段階ではありません。
経済産業省のロードマップでは、カーボンリサイクル活用に向けての3フェーズが記載され、実現に向けた開発等がおこなわれています。以下は、各フェーズです。
【フェーズ1:カーボンリサイクルの技術開発(現状)】
2030年までに二酸化炭素を分離・回収する技術を確立することを目指します。
【フェーズ2:普及する技術の低コスト化(2030年頃)】
カーボンリサイクル製品の低価格化を推進して利用促進や普及に取り組む段階です。
【フェーズ3:さらなる低コスト化と、カーボンリサイクルで製造されるものへの消費拡大(2050年以降)】
カーボンリサイクル製品のさらなるコスト低下推進、製品への利用を拡大。二酸化炭素のリサイクル用途を拡大。
3. カーボンリサイクル、今後の展望
日本では先端素材の開発促進を目指した大規模国家プロジェクトが多くあり、特許分析ではカーボンリサイクルに関して、高い競争力を持つ日本企業が複数存在します。機能性ポリマー技術、ナノカーボン技術、有機無機ハイブリッド技術などで先進的研究が行われています。
このような背景から、カーボンリサイクル分野で日本が強みを生かして世界に発信するには、開発素材において研究機関でその素材の需要を分析し、実用化に取り組むことが重要です。それが結果的に、日本発の先端素材として環境立国化を後押しするのです。
カーボンリサイクルの技術ロードマップでは、炭素回収・利用・貯蔵技術の中で、回収炭素を加工し、鉱物化や素材や燃料として利用する貯蔵(CCUS)を二酸化炭素排出量削減の大きな柱として、位置づけており、CCUSがコスト競争力を持つかどうかの壁となります。
大気中や化石燃料の燃焼中に分離した二酸化炭素の貯蔵(CCUS)以外にも、他の炭素関連材...
一方、多くのカーボンリサイクル技術は、化学反応のプロセスで水素が必要となりますので、水素製造のコスト削減が欠かせません。水素生成のプロセスで二酸化炭素を発生させないことが必要ですが、それは、生成プロセスで二酸化炭素を発生させてしまっては、本末転倒となるからです。また、炭素そのものを得るための炭素回収・貯蔵技術のコスト削減も不可欠です。
日本政府は、二酸化炭素排出量削減のために石炭火力発電にCCUSやCCS技術を組み合わせて発電する戦略を重視していますが、CCUSのコスト削減のためには、安価な水素を得るため二酸化炭素排出量がゼロの電力が必要となることが明らかです。