1.改善の滞り・マンネリ化を 動機付け で解消!
改善活動の展開において現場がヤル気になったのに、マネジメント側でブレーキをかけてしまうことがよく起こります。そうすると、 改善活動がたちまち滞るどころかマンネリ化が始まります。今回は、マンネリ化に悩む、ある企業様で実際に起こったお話です。改善はテクニックだけでなく「 動機付け 」がいかに大切かがわかります。
2.研修前のどよ~んとした雰囲気
業務改善のテクニックとメンタルについて、社内研修の依頼をいただいた時のお話。長年続けている改善活動に陰りが感じられ、マンネリ化が顕著となり、なんとかしなければ!と社内研修開催に至ったときのことでした。50名程度も入るような大きな会議室に集まったのは、リーダーと管理職クラス。受講しなければならないという使命感?緊張感?からか、開催前の会場は「どよ~ん」とした雰囲気でした。
(1)会場内に要注意人物がいる?
研修を主催する人事の方からは「今日は、要注意人物がいるんです。」と、研修前に穏やかでない話がありました。それは、今日の研修会場には、長年現場を仕切ってきた50代後半の男性管理職が参加していて、その彼が要注意人物だ、と言うのです。
その要注意人物とは、学校を卒業してから現場一筋に何から何まで経験し、現場の作業の効率化や問題解決に多大なる貢献をし続けているという偉大な(?)存在だというのです。経営者からの信頼も厚く、管理職を15年も続けている、只者ではない存在とのことでした。
(2)パワハラ的な態度ですって
しかし、この管理職の方は「パワハラ」的な態度を部下にとり続け、現場が怯えて何も言えない雰囲気を作りだしている、というのです。具体的には、なにか提案をしても頭ごなしに否定する態度を取っているようなのです。そして、彼のパワハラに何人もの社員が自ら会社を去った、、、との話をされました。経営者も、幾度と無く注意をしているそうなのですが、その態度は一向に改善されず、研修当日に至ったとのこと。
「今日の研修中に、その威圧的な雰囲気をだされたら、参加者への影響が心配で心配で・・・・とにかく、彼は人の話を聴いてくれないんです。」
人事部門の方の顔も曇った感じで、その不安な感情がひしひしと私に伝わってきました。
(3)そして研修中
その研修は、「新5S思考術」について説明し、どのように実践を展開するか?という内容でした。そして、なぜその実践が効果を出すのかについてお話をするとともに、どうやって部下や後輩の動機付けをしたら良いのか?について、ワークセッションを取り入れながら進みました。
3~5名毎のグループに分かれ、職場のあるべき姿や現在のギャップなど、研修で得た知識と自分自身の経験を融合しながら、未来の職場を描いていきます。笑顔や笑い声もでていて、とても良い雰囲気でワークセッションが続いていました。ただし、1つのグループを除いて・・・・・
そのチームとは、予想通り”要注意人物”の参加するチームで、何か会話が始まっても、次の会話に繋がらず、途切れ途切れ。といった雰囲気が、さらに悪い雰囲気を作り出している様子でした。
3.コンテンツを急遽変更!
あまりにも少ない会話量。私は、単位時間あたりの『会話出現数』という指標を使って「会話の多い・少ない」を比較しています。例えば、3分毎に各チームを回り、黙っているか?話しているか?をチェックしました。言葉を音声に出しているか否かを確認します。
すると、 ”要注意人物”の参加するチーム では、9分を過ぎても会話が出現せず、これは介入が必要だと考え、急遽、人事担当の方と打ち合せをヒソヒソとおこない、セミナーコンテンツに変更を加えることとしました。
4.言葉の科学、LABプロファイル®で解説
グループディスカッションをいったん中断して「言葉の科学」として知られるLABプロファイル®注をコアとした『心理学あるある』について解説を始めました。
その内容とは
- 口角の角度を意識的に変えるだけで、楽しさが増大する!
- 伝えたいことが伝わらない心理
- 言い合いになる心理
- その他
です。これらの話しを始めて、 ”要注意人物” を観察してみると「あれ?改善の話よりも真剣に聞いてくれるじゃん!」と、ちょっとビックリしました。
注.LABプロファイル®:脳のプログラムに該当するプログラムは、メタプログラムと呼ばれていますが、67個のプログラムがその研究からわかっています。また、文献よっては、メタ・メタ・プログラムというさらに詳細に分けられた研究結果も発表されていて、その数は、なんと!154個にもなります。ロジャー・ベイリーは、これらを日常で実用的に使うためにはという考えで整理を進め、14個のメタプログラムを理解し応用することで、相手のモダリティーやサブモダリティー形成にストレス無く対話を進めることができるようにしました。この、実用的で効果的な知識体系が LABプロファイル® です。 LABプロファイル® は、言葉の魔術を使いこなす、シェリー・ローズ・シャーベイにより、書籍「影響言語で人を動かす」で全世界に発信されています。
(1)ぶつかり合いの心理
『心理学あるある』 の「3.言い合いになる心理」という現象をLABプロファイル®で説明すると
- ① 他人からの意見や影響を受けず、自分でものごとを決めたいと思う同士は、衝突する。
- ② 説明中に、「全体象把握型」と「詳細探索型」が話し合うと、衝突する。
- ③「目的達成型」と「問題回避型」が話し合うと、衝突する。
このような心理がぶつかり合いながら、会話がうまく進まないと説明をしたのでした。
(2)やっとこさっとこ
”要注意人物”の参加するチーム には、私が付きっきりになり、ワークセッションを進めました。途中、予定外のコンテンツを組み込んだため、なんとか時間を取り戻さなければなりませんでしたが、なんとか予定通りの時間に研修を終えることができました。
最後に研修の感想をグループ毎に語ってもらおうとフリートークをお願いすると、『えっ?ええ?ええええ?』という様なことが起きたのです。
なんと、 ”要注意人物” とされていた方から「すいません。もっと、心理の話しを聞きたいです。私も、悩みというか困っているんです。話が通じなくて。」と質問が投げかけられたのです。周囲も「まさか、あの人が?」といった感じでした。
5.私も悩んでるんです。
その質問は「どうしたら、私の話していることが周囲に伝わるでしょうか。」といった内容でした。
「現場には、多くの危険を回避したり、品質の劣化を防止しながら、最高の生産性を確保しなければならないので、私の知っていることや経験したことを伝えたのですが伝わらないんです。」とも言われていました。周囲の人は「要注意人物が話を聞いてくれない。」と悩んでるし、”要注意人物”も同じ悩みを抱えていることがわかり「なるほど、話がかみ合わないワケだ。」と原因が解ったのでした。
原因さえ解れば、アドバイスしやすくなりますし、双方の「良さや悪さ」も言葉で伝えることができます。さっそく、双方の意見や仕事に対する価値観の違いについて説明をはじめました。
6.自分のタイプを知りましょう。
【”要注意人物”(以下Aさん)へのアドバイス】
- ① Aさんは、強い問題回避型の思考を持っている。
- ② Aさんは、周囲の意見より自分の考えで、物事を決定する思考も持っている。
- ③ これらは、前向きな改善提案さえも問題が発生するという前提で、偏った話の聴き方・解釈をしてしまう。
- ④ まずは、話を受け入れる。問題点がある場合、相手に問題点を伝え、相手に解決策を考えさせること。
- ⑤ どんな質問でも、心よく受け入れること。
【周囲の方へのアドバイス】
- ① Aさんのダメだしを回避しようと、問題回避と問題回避がぶつかり合って、話が進まなくなることを理解する。
- ② 問題回避のぶつかり合いを回避するには、どのようにAさんの話を聞けば良いのか、考えてみる。
- ③ 質問があるときには「質問があります!」と投げかけること。
このように双方の「対話のタイプ」を特定しながら、それぞれの特徴を解説し、相手の悪さも・自分の悪さも理解させるコーチングを施しました。
7.動機付け – その後のAさん達は
数ヶ月後、様子をうかがおうと人事担当の方にメールをすると、嬉しくなるような返事を頂くことができました。「Aさんの、人の話を聴くという姿勢が180度変わりました!」とあり「周囲も、話しやすくなった。」という言葉が増えてきているとのことでした。
このケースでは、改善が滞り始めたので研修をしてほしいというリクエストでしたが、よくよく見聞きしてみると、改善テクニック...
このAさんの例では、周囲の意見より自分の考えで物事を決定するというメンタルモデルをお持ちでしたので、「自分の考えで物事を決定するのも良いですが、周りの意見も聴いてみて決定してみてはいかがですか?」 とアドバイスをすることによって、今までのご自身になかった新しいメンタルモデルに変わったので、周囲も善い方向に変化していったのです。
ここで重要なことは、自分からメンタルモデルを変えていったということです。おそらく周囲のメンタルモデルだけが変わったとしても、Aさん自身のメンタルモデルが根本的に変わらなければ影響は少なかったと思われます。自分からメンタルモデルを変えたことによって、それに伴って周囲も変わっていったのです。
原因はAさん側にあるのであって、周囲ではなかったのです。Aさん自ら自分に原因があると気付き、それを変えたことによって、周りも変化していったのです。改善活動を進めたときに滞りを感じ始めたときは、自身のメンタルモデルにも目を向けていきたいものです。
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