♦ 更衣室の「なぜ」を理解し工場のクリーン化推進
クリーン化では、なぜを考えることが大切です。例えば、なぜ更衣室があるのか、なぜ防塵衣を着用するのか、なぜ防塵衣には着脱順序があるのか、というように沢山の“なぜ”があります。これら一つひとつのなぜを考えながら行動したいものです。
1. 更衣室はゴミの関門
クリーンルームを持つほとんどの企業にはルールや規則があると思いますが、その理由が理解されていないと、折角ルールがあっても徹底して守るまでには至らず効果は薄くなります。管理職の方も「ルール通りにやりなさい」だけでは、従業員も上司に従うという意識だけで、遵守率は高くなりません。なぜを理解させルールを定着させることで、クリーン化本来の目的である歩留まり向上にも繋がります。
今回は、“なぜ更衣室があるのか”について説明します。セミナーや社員教育等でこのことを質問すると「着替えるところです」という答えが圧倒的に多いです。出勤すれば社服、帰宅時は私服に着替えますので、そのイメージはあってもそれ以上深く考える人は少ないようです。
クリーンルームを持っている現場では、出勤してから製造現場に入るまでに、2つの更衣室で着替える場合が多いと思います。まず出社して、最初の更衣室(一次更衣室)では、私服から社服に着替えます。私服には埃、花粉、雨水等のほか、海沿いの地域では塩分なども付着します。専門的な話ですが、半導体では塩分によりアルミ(電気が流れる配線)腐食等の品質問題が起きます。私の住む小淵沢では、冬になると道路に撒かれた融雪剤の粉も飛散し、衣服に付着します。一次更衣室では、これらのゴミを屋内に持ち込まない為の着替えが目的の一つです。
多くの場合、個人に割り当てられたロッカーは幅が狭いため、着替え時私服と社服が接触し、僅(わず)かですが私服のゴミが社服に転写します。ただ、大体の汚れはロッカーに置いてくるということです。
次の更衣室(二次更衣室)では社服を脱ぎ、防塵衣に着替えます。ここでは、社服のゴミを防塵衣に付着させないために、相互の距離を離すのが一般的です。高い清浄度が要求されるところでは、下着も着替えています。そして防塵衣を着用し、エアシャワーを浴びてからクリーンルームに入ります。
出社してからクリーンルームに入るまでの人の汚れ状態を観察すると、更衣室を通過する度に段々綺麗になって行く、つまり更衣室はゴミ、汚れを希釈するところ。製造現場へのゴミ、汚れの持ち込みを減らすための関門の役割を果たしています。
2. 「現場にゴミを持ち込まない」を共通認識に
セミナー等の終了後の理解度調査、あるいはアンケートに「更衣室がなぜあるか理解できた。今までなぜ更衣室があるのか考えたこともなかった」といったことを書いてくれる方も時々います。また「平日に出勤する場合は、上司がいるのできちんと着替えていました。でも休日に出勤する時は上司がいないので、一次更衣室は通過し、直接二次更衣室に入り、防塵衣に着替えてクリーンルームに入っていました。私はゴミを持ち込むような悪いことをしていました」という方もいました。
単にルールや規則だけで縛っても、そのなぜが理解されないと、上司の顔色を伺い行動するということが起きてしまいます。法律でいうと、法の目を潜(くぐ)ることと同じです。
かなり昔の話ですが、ある半導体の工場で春になると歩留まりが落ち夏、秋、冬は回復するのですが、また春になると歩留まりが落ちる、これが何年も繰り返し続いていた事象がありました。この原因が長い間究明できなかったのですが、分析技術の進歩に伴い半導体工場に絶対にないはずの農薬成分が検出され、これが原因であることが分かったそうです。
その工場は当時二交代勤務を行っていました。午前中は在宅、午後から出勤し午前中から出勤していた人と交代するという勤務体系です。その午前中は家にいるはずの人が、春は自宅の畑で肥料を撒き、その服装のままで...