クリーン化による強い現場づくりとは

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1. 強い現場とは

 クリーン化   苦戦を強いられる日本の製造業にとって、最大の資産は「人」です。決められた事を決められた通りやる「あたりまえ」の製造は既に我々の強みではありません。他に真似の出来ない高精細・高密度・高機能など、業界で一歩進んだ付加価値の高い製品製造こそが必要でしょう。ここにおいて工程内の目に見えない微細な異物の排除が重要な要素となります。これ等を実現する現場の強化を意識的に推進する必要があります。
 

 【 強い現場 = 自ら問題を発見し是正する意志とスキルを持った主体的・能動的な現場

 

2. クリーン化技術の位置付け

 一般にクリーン化(異物対策・清掃)は5Sの一部と捉えられ、現場の活動に委ねられます。しかし、微細・精密加工業、電気・電子製品製造や食品・医療など異物の影響が大きい業界では、異物対策は品質を左右し収益にも繋がる重要な活動です。数mm以上の目に見える異物に対しては、一般室で5S活動で対応されるでしょう。然し、数10μm以下では異物の視認が困難となり、異物の存在の認識が難しく、異物の挙動がサイズの大きな異物とは異なる為、教育も含めた意識的なクリーン化活動が必要となります。
  目に見えない異物の対策として、外部からの異物侵入を防ぎ清浄な空気を供給する設備を備えたクリーンルームが用いられます。更に高精細な異物対策を必要とする場合には、スーパークリーンルームが用いられますが、建設及び運用に大きな費用の掛かる点が問題となります。この為、必要な個所のみを清浄な環境にするミニエンバィロメント(注1)が適用されています。このほかミニマルファブ(注2)などの検討も進んでいます。
 

3. クリーン化活動の基本

 微細な異物のクリーン化推進には、次の「クリーン化四原則」が適用されます。
  (1) 異物を清浄域に持ち込まない(人・設備・材料・外気等の流入に伴う異物の持ち込み)
  (2) 異物を清浄域で発生させない(製造プロセスそのものや設備の摩耗、人からの発塵等)
  (3) 異物を清浄域で溜め込まない(異物が溜る箇所を作らない)
  (4) 異物を排除する(気流のフィルトレーション及び清掃による異物の排除)
  ここで、(1)(2)により増加する異物数より、(4)排除する異物数が少なければ、清浄域内の異物数は増加して行き、クリーン度を維持できなくなります。
 

4. 目に見えない異物の特徴

 物体が小さくなると、比表面積(体積に対する表面積の比)が急激に大きくなり、重力に比して気流との粘性力・静電気力など表面にかかわる力の影響が大きくなります。特に物体の自由落下においては空気との粘性力と重力がバランスし落下速度が一定となる、ストークス則の終末速度が知られています。ストークス則の終末速度を超える上昇気流があると物体は落下せず、気流に引かれて上昇します。例えば、顕微鏡レベルでは巨大に見える50μmの鉄球は凡そ0.5m/sec(時速2km=通常歩行の半分ほどの風速)の上昇気流で舞い上がります。50μmの鉄球は僅かな上昇気流でも浮き、飛散する事を認識する(させる)事が重要ですが、顕微鏡で見た「巨大な鉄の塊」が気中を浮遊する事は感覚的に納得する事が難しいでしょう。 
 見えない異物の存在、及び気中での浮遊状況を認識・納得させる為には、異物を可視化する事が効果的です。懐中電灯で見えるのはたかだか数十μmほどの大きさですが、目に見えなかった異物の存在を視認させる簡便且つ安価で、有効な方法です。また、異物が飛散する状況を可視化する為に、レーザー光を使った可視化実験を動画に撮影し、見せる事も納得性を上げる上で有効です。
 

5. クリーン化による強い現場づくり

 クリーン化を推進するには、異物の存在と挙動を認識し、愚直な清掃活動と共に清掃方法や清掃道具の改善など常に身の回りの問題点を発見、仲間と共有し、共に是正する意志・意欲を持った主体的能動的な活動が重要です。これは正に小集団活動であり、改善活動です。これ等の活動は自ら生残り、勝ち残っていく「強い現場」を構築するプロセスそのものです。この中でも知恵を出す(創造)活動がポイントとなりますが、組織的に知恵出しの場(例えばSECIプロセス(注3)を推進する場)を設定する事が重要です。その為にも「クリーン化」活...

1. 強い現場とは

 クリーン化   苦戦を強いられる日本の製造業にとって、最大の資産は「人」です。決められた事を決められた通りやる「あたりまえ」の製造は既に我々の強みではありません。他に真似の出来ない高精細・高密度・高機能など、業界で一歩進んだ付加価値の高い製品製造こそが必要でしょう。ここにおいて工程内の目に見えない微細な異物の排除が重要な要素となります。これ等を実現する現場の強化を意識的に推進する必要があります。
 

 【 強い現場 = 自ら問題を発見し是正する意志とスキルを持った主体的・能動的な現場

 

2. クリーン化技術の位置付け

 一般にクリーン化(異物対策・清掃)は5Sの一部と捉えられ、現場の活動に委ねられます。しかし、微細・精密加工業、電気・電子製品製造や食品・医療など異物の影響が大きい業界では、異物対策は品質を左右し収益にも繋がる重要な活動です。数mm以上の目に見える異物に対しては、一般室で5S活動で対応されるでしょう。然し、数10μm以下では異物の視認が困難となり、異物の存在の認識が難しく、異物の挙動がサイズの大きな異物とは異なる為、教育も含めた意識的なクリーン化活動が必要となります。
  目に見えない異物の対策として、外部からの異物侵入を防ぎ清浄な空気を供給する設備を備えたクリーンルームが用いられます。更に高精細な異物対策を必要とする場合には、スーパークリーンルームが用いられますが、建設及び運用に大きな費用の掛かる点が問題となります。この為、必要な個所のみを清浄な環境にするミニエンバィロメント(注1)が適用されています。このほかミニマルファブ(注2)などの検討も進んでいます。
 

3. クリーン化活動の基本

 微細な異物のクリーン化推進には、次の「クリーン化四原則」が適用されます。
  (1) 異物を清浄域に持ち込まない(人・設備・材料・外気等の流入に伴う異物の持ち込み)
  (2) 異物を清浄域で発生させない(製造プロセスそのものや設備の摩耗、人からの発塵等)
  (3) 異物を清浄域で溜め込まない(異物が溜る箇所を作らない)
  (4) 異物を排除する(気流のフィルトレーション及び清掃による異物の排除)
  ここで、(1)(2)により増加する異物数より、(4)排除する異物数が少なければ、清浄域内の異物数は増加して行き、クリーン度を維持できなくなります。
 

4. 目に見えない異物の特徴

 物体が小さくなると、比表面積(体積に対する表面積の比)が急激に大きくなり、重力に比して気流との粘性力・静電気力など表面にかかわる力の影響が大きくなります。特に物体の自由落下においては空気との粘性力と重力がバランスし落下速度が一定となる、ストークス則の終末速度が知られています。ストークス則の終末速度を超える上昇気流があると物体は落下せず、気流に引かれて上昇します。例えば、顕微鏡レベルでは巨大に見える50μmの鉄球は凡そ0.5m/sec(時速2km=通常歩行の半分ほどの風速)の上昇気流で舞い上がります。50μmの鉄球は僅かな上昇気流でも浮き、飛散する事を認識する(させる)事が重要ですが、顕微鏡で見た「巨大な鉄の塊」が気中を浮遊する事は感覚的に納得する事が難しいでしょう。 
 見えない異物の存在、及び気中での浮遊状況を認識・納得させる為には、異物を可視化する事が効果的です。懐中電灯で見えるのはたかだか数十μmほどの大きさですが、目に見えなかった異物の存在を視認させる簡便且つ安価で、有効な方法です。また、異物が飛散する状況を可視化する為に、レーザー光を使った可視化実験を動画に撮影し、見せる事も納得性を上げる上で有効です。
 

5. クリーン化による強い現場づくり

 クリーン化を推進するには、異物の存在と挙動を認識し、愚直な清掃活動と共に清掃方法や清掃道具の改善など常に身の回りの問題点を発見、仲間と共有し、共に是正する意志・意欲を持った主体的能動的な活動が重要です。これは正に小集団活動であり、改善活動です。これ等の活動は自ら生残り、勝ち残っていく「強い現場」を構築するプロセスそのものです。この中でも知恵を出す(創造)活動がポイントとなりますが、組織的に知恵出しの場(例えばSECIプロセス(注3)を推進する場)を設定する事が重要です。その為にも「クリーン化」活動は知恵出しも含めた強い現場づくりの有効な手段となります。
 
 以上クリーン化による強い現場づくりをまとめると次の4点になります。
(1)「強い現場づくり」それが日本の現場の生きる道
(2) 異物対策は5Sの一部だが、微細な異物を問題とする事業においては歩留や品質、ひいては収益に直接影響を与える。 
(3) 強い現場を作る為に、クリーン化活動は有効な手段。しかし、見えない異物を見える化し、納得性を上げないと対策は進まない。 
(4) 技術力をつける。クリーン化も技術!評価・分析力、知識の入手・蓄積と活用・・・・そして教育と仕掛けが重要。
 
注1:「ミニエンバィロメント」mini-environment:室内に局所的に正常な空間を作るクリーンルーム方式。
注2:「ミニマルファブ」コストを最小にした極小規模の半導体製造工場を作ること。ウエハサイズを φ0.5インチとすることで設備やインフラを大幅に縮小出来る。
注3:「SECIプロセス」知識創造のモデルのひとつ。知の創造をスパイラルに進めていく。

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この記事の著者

熊田 成人

QCDの全てをバランスさせる信念で、千葉県を中心に中小製造業のモノづくり革新をお手伝いしています

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