1. 製造業共通の課題「熟練者の技能の伝承」
製造業の共通の課題、ベテラン社員の知識やノウハウの有効活用。その解決のため、技能伝承のあるべき姿はどのようなものでしょうか。
1.1 技能伝承とは
技能伝承とは、企業が保有する重要な技術やノウハウを社内で引き継ぐ取り組みです。
ビジネスの継続には、企業に蓄積された知識を効果的に管理し、後継者に引き渡し・共有することが必要。この取り組み、すなわち技能伝承は、人材の退職や異動に左右されない企業の安定的な体制を築くために不可欠です。
技能伝承の完成形は「伝承者と継承者が同じことができる状態」です。考え方や行動が一致し、再現性のある状態です。そうした伝承を実現するには、暗黙知的な作業を形式知的な作業へと移行させ、共有知として活用することがカギとなります。
1.2 製造業における、熟練者からの技能伝承の課題
製造業に多く存在する職人的な技能・ノウハウは、企業の持続的な成長に欠かせない資産ですが、現状では次のような課題が存在しています。
- 熟練者の知識やノウハウが属人化され、有効に活用しきれていない
- 高い専門性のエキスパートへの日常的な問い合わせが絶えず、業務時間を圧迫する
- 経験の浅い担当者が、必要な情報を探す際に適切な相手や場所がわからず時間がかかる
製造業ではこうした課題を解決してスムーズな技能伝承を図ることが、急務です。
2. AIによるナレッジシェアシステム
数々のロングセラー商品を擁する森永製菓株式会社では、長年の商品研究開発の技術やノウハウを蓄積しシェアする取り組みを進めています。その中で、FRONTEOのAIソリューション「匠KIBIT」を導入し、人材育成、安定的な生産活動、そして企業内の組織知形成を目指して行くことになりました。
2.1 森永製菓が目指す姿と解決すべき課題
多様な人材の活躍を重要視し、人材育成、多様性の促進、良好な職場環境づくりに注力する森永製菓ですが、次のような課題に直面していました。
- 技術やノウハウの分散:担当者が照会すべき熟練者や内容がわからず、情報の取得に手間取る
- 業務の属人化:熟練者個人に業務や情報が集中
- 教育時間や問い合わせによる技術者の業務負荷:問い合わせが熟練者へ集中・重複し、負荷が高い上に非効率
- 技能伝承の非効率性:担当者が問題に直面しても、熟練者から即時に適切なサポートが得にくい
2.2 熟練者の暗黙知を後継者へ受け渡すAI「匠KIBIT」の運用イメージ
こうした課題の解決のため、森永製菓は2024年から技能伝承をサポートするAIソリューション「匠KIBIT」の導入を開始しました。「匠KIBIT」では、技術者の技術や幅広い知識を一元的にデータベースに蓄積し、後継者へスムーズに引き継げるようになっています。
「匠KIBIT」へ状況と質問を文章で問い合わせると、迅速に適切な対処法が抽出されます。また、データベースに存在しない場合は、AIが有識者を選定して回答を依頼。その回答は新たなデータとして蓄積され、将来の利用に備えます。これにより、熟練者の暗黙知がスムーズに後継者へ受け渡され、製造業務が円滑に運営し続けられるようになります。
2.3 技能伝承の強力な味方、AI「KIBIT」の効果
製造業の技能伝承のためのAIソリューション「匠KIBIT」は、次のような効果で、人材育成の促進はもちろん、企業の生産性向上に大きく寄与します。
- 技術やノウハウをデータベースに収集、蓄積:複雑な分類やタグ付けなしで、取り込んだデータから適合度の高い情報をAIが表示
- 技術者の業務負荷の削減:AIの自己学習機能によって、質問に応答させる情報の精度が向上
- 従業員全体の知識の底上げ、業務標準化:口頭や実践でしか伝えられない暗黙知を、AIが言...
◆関連解説記事:【2分でわかる】AI:artificial intelligence
3. 製造業が技能伝承に取り組む際の方法とポイント
AIの活用に限らず、ナレッジ活用の導入を成功させるには、経営層のサポートや社内文化の醸成も欠かせません。また製造業とひと口に言っても、各業務に合った活用法の検討が肝要です。
3.1 ナレッジ活用へのステップ
ナレッジ活用の導入には、現状の課題の把握、目的や効果の明確化、システムの導入、社員の教育と意識改革、運用ルールの策定が必要です。特に初期ステップの、実際の業務に即した課題の洗い出しと目的の明確化が重要になります。
3.2 ナレッジ活用を成功させるポイント
管理職など現場の立場によっては、技能の継承より目の前の業務遂行を優先したくなるかもしれません。しかしナレッジ活用を成功させるためには、組織の方針や目標に沿った取り組み方はもちろん、責任者・経営層からのサポートとともに情報共有を促す文化の醸成が不可欠です。運用ルールの明確化や使いやすいシステムを心がけ、関係者の協力を得ながら進めることが成功のポイントです。