今回は、サプライチェーンマネジメントによる経営へのインパクトについて考察します。
多くの専門家がサプライチェーンを語り、拙著「サプライチェーンマネジメント」(工業調査会)を1998年4月に発刊して以降、まさに「サプライチェーン時代」が到来したような観があります。
日本語の読める海外の専門家や、国内のジャストインタイムやロジスティクスの分野で実績のある専門家と親交をとることができ、時代の要請とサプライチェーンマネジメントの持っている可能性の広がりを改めて認識しています。ひとつの事実は、経済の平時ではなく戦時であるという時代背景において、サプライチェーンマネジメントが注目されていることです。
そもそも兵站(へいたん)という戦争用語であるロジスティクスはサプライチェーンマネジメントの一部であり、兵器・食料を前線に補給することを指します。戦争資源、経営資源をスピーディーに補給(サプライ)することで、競合相手に対して優位になることをその目的としています。ビジネス戦争において、たとえ前線に需要と同期化した販売力があっても、製品が供給されなければ勝つことはできません。
兵力だけでなく武器弾薬、食料など戦闘資源の調達が、戦場のオペレーション(作戦)とシンクロナイズして素早く動員できれば、戦場で移動する敵に対し、戦力的に優位な状況を素早く作ることができます。販売力があっても製品がなければ、製品があっても競合に比べて優位となる鮮度がなければキャッシュフローにならないことは、兵士がいても武器や食料がなければ戦力にならないことと同じです。
今も昔も顧客の立場にたって業務を開発することが、成長経営の原点となるコア・コンピタンスです。競争力の源泉がプラント稼動までのリードタイムであるならば、大胆にどこからでもプロセスをアウトソーシングすればよく、独自のプロセスにこだわる必要はありません。コア・コンピタンスを別のスキル(スピード)と認識するならば、プロセス設計を含めてバーチャル・コーポレーションのパートナーとしてプロセス(ライセンス)の提供者を構成し、瞬時にダイナミックなプロジェクトを組織化します。
戦争で勝ち残るには、現実の敵情に基づく戦争資源の同期的供給が必須であり、大本営にいて現場を見ない参謀が作る机上での作戦は意味がありません。ビジネスで企業の生き残りにつながるのは、最終顧客デマンドに同期化するサプライチェーンのオペレーションであり、供給者側の勝手な都合ではありません。
「孫子の兵法」からきた、風の如く速く、林の如く静かに、火の如く侵略し、山の如く動かない「風林火山」は、敵の動きに対する兵力資源のロジスティクスシンクロナイゼーション(同期的供給)をシンボリックに表現している、と読めます。
エンジニアリング会社の業務の本質(コア・コンピタンス)は、化学装置プラントの設計から稼動までの生産システムとしてのロジスティクスと見なした方が、過去の成長と現在の苦境を理解できるのではないかと言う分析を別報で述べました。すなわち世界的供給能力過剰をもたらし、エンジニアリング業界全体の苦境を招いているのは、日本での重化学工業の成長時代から海外での新産業振興国家群の拡大のなかで、コア・コンピタンスを見直すこともなく成長できた結果なのです。納期と品質に問題のある海外からの機器調達を余儀なくされ、リスクある低価格受注となった過当競争が、多くのプロジェクトの結果的な採算割れを起こしています。
顧客がプラントを稼動してキャッシュフローをあげるスピードは、プロジェクトマネジメントの目的の最重要指標です。顧客のビジネスモデルまでをも考慮に入れたビジネスを、設計(エンジニアリング)するという事業領域の拡大が、このような経営のコンセプトや指標の定義によって図れます。売るための設備投資を提案して、結果的に過剰設備をもたらして顧客の損益分岐点を上げるだけのハード指向の従来型のビジネスが存続するはずがなく、顧客が設備投資し...