前回の社会人基礎力とは、社会人基礎力の意味に続けて解説します。2002年から経済産業省が「起業家教育」を学校教育へ導入を始め、その後2006年に「社会人基礎力」を発表しました。文部科学省は2000年前より進路指導の見直しを行い「キャリア教育」を導入しました。
1.「キャリア教育」とは
2006年頃に国立教育政策研究所がまとめた「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み」~職業的(進路)発達にかかわる諸能力の育成の観点から~ が、非常に参考になります。この枠組みには「職業的発達にかかわる諸能力」を「4領域8能力」としています。こちらを詳しく見ていきたいと思います。
(1)【4領域】
- ▶人間関係形成能力:他者の個性を尊重し、自己の個性を発揮しながら、様々な人々とコミュニケーションを図り、協力・共同してものごとに取り組む
- ▶情報活用能力:学ぶこと・働くことの意義や役割及びその多様性を理解し、幅広く情報を活用して、自己の進路や生き方の選択に生かす
- ▶将来設計能力:夢や希望を持った将来の生き方や生活を考え、社会の現実を踏まえながら、前向きに自己の将来を設計する
- ▶意思決定能力:自らの意思と責任でよりよい選択・決定を行うとともに、その過程での課題や葛藤に積極的に取り組み克服する
いかがでしょうか、この4領域は、当時小学校から高校の総合学習の時間に教員が指導を行って「職業観・勤労観」を育むことを目的としていました。今、企業が社員に求めているものと、この4領域、ズレがないと思います。学校教育で取り組もうとしていましたが、新しい取り組みは、特に企業での勤労経験のない教員には難しかったかもしれません。また無理があったかもしれません。企業人も学校教育に深く関わりを持ち始めたのも、この頃だと推測します。そして、この4領域は、さらに1領域ごとに2つの能力で構成されています。
(2)【人間関係形成能力】
- ▶自他の理解能力:自己理解を深め、他者の多様な個性を理解し、互いに認め合うことを大切にして行動していく能力
- ▶コミュニケーション能力:多様な集団・組織の中で、コミュニケーションや豊かな人間関係を築きながら、自己の成長を果たしていく力
(3)【情報活用能力】
- ▶情報収集・探索能力:進路や職業等に関する様々な情報を収集・探索するとともに、必要な情報を選択・活用し、自己の進路や生き方を考えていく能力
- ▶職業理解能力:様々な体験等を通して、学校で学ぶことや、今しなければならないことなどを理解していく能力
(4)【将来設計能力】
- ▶役割理解・認識能力:生活・仕事上の多様な役割や意義及びその関連性を理解し、自己の果たすべき役割等についての認識を深めていく能力
- ▶計画実行能力:目標とすべき将来の生き方や進路を考え、それを実現するための進路計画を立て、実際の選択行動等で実行していく能力
(5)【意思決定能力】
- ▶選択能力:様々な選択肢について比較検討したり、葛藤を克服したりして、主体的に判断し、自らにふさわしい選択・決定を行っていく能力
- ▶課題解決能力:意思決定に伴う責任を受け入れ、選択結果に適応するとともに、希望する進路の実現に向け、自ら課題を設定してその解決に取り組む能力
詳細は以上です。この内容、4領域8能力が基礎学力と共にベースとなって、その上で専門知識、そしてさらに「社会人基礎力」という構図が好ましいのではと思います。以前は、子ども達が先の4領域8能力を学ぶ世界がありました。それは、近所の子ども達との間のコミュニティです。小学校でしたら、1年生から6年生までの6学年、そこに幼児も含まれば10学年ほどのコミュニティがあったわけです。
そこで、今課題となっている「多様性」やそもそもの「自己理解」「他者理解」「相互理解」、そして「役割理解」といった各種理解や能力開発が行われてきたわけです。自然と身についたわけです。ところが、そのような体験で学ぶ機会が減ったことから、社会人になって学び直しが必要となってきたわけです。
「社会人基礎力」の3つの能力「一歩前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」は、非常に的を得ています。「考え抜く力」は、「考える」ではなく、あくまでも「考え抜く」ことが大切です。このような基礎力を今さらながらですが、社会人であろうが、学び直しを行うことが重要です。みなさんは、どう思いますか?