今日のテーマは新規事業の評価について書きます。新規事業がうまく行かないな、とお感じの方にはお役に立つ内容だと思います。どこの会社でも、新規事業マネージャーは(経理マネージャーのような)伝統あるポジションではなく新設のポジションであることが多いと思います。伝統あるポジションであれば結果を出すためのプロセスはある程度見通せる一方、新規事業ではそうではありません。新設のポジションであるがゆえに「何をすればいいのか分からない」とか「さじ加減が難しい」などとお感じの方は多いのではないかと思います。技術の仕事を長年続けてきても、新規事業で勘が働くものではありませんよね。
そこで今日ご紹介したいのは、新設組織の新規事業担当に着任したA部長です。新規事業に求められるものと現場での動きのギャップに苦しみ、どのように成果を出せば良いのか悩んでいたA部長。その悩みとはどのようなものだったのでしょうか?私がA部長と話をしたのはA部長の着任から2年後のことでした。会社は新規事業の設立のために、部門横断的な取り組みができるような横串組織を作りA部長はその横串組織の責任者でした。部門横断的な取り組みをする背景には部門の縦割りの弊害があり、縦割りにより事業ごとの戦略がうまくまとまっていないのではないか、という問題意識があったそう。
一連の組織変革にも関わったA部長には、横串を刺す組織変革により一定の成果がでるのではないかという期待があったようです。しかし、1年経過して期待していたほどの成果はなかったとのこと。A部長によると、会社としては従来の縦割りではない、事業ごとの戦略が立つことを期待していたそうですが、出てきたのはほぼ代わり映えのない「戦略」というのは名ばかりの現状維持計画だったそうです。
1. 実践的な技術戦略:「戦略」とは?
その中身とは、要するに「来期は小改善テーマをやります」というものです。あまりにも代わり映えしない内容に、経営陣は目が点になったといいます。そのために、会社ではコンサルタントを利用することになり、その結果私が関わるようになったという訳です。打合せで上記の経緯をお聞きしたのですが、その時お聞きしたのが新規テーマの評価に関するA部長の質問でした。
質問は「新規テーマの評価についてはどのようにしたら良いでしょうか?」というものでした。ここで私は違和感を感じました。それまでの打ち合わせの内容はテーマの「評価」というよりも「創出」に問題があることであり、A部長もそれを話題にしていたからです。「わざわざ分かりきったこの質問をするのはなぜだろう?」と私は考えざるを得ませんでした。
「今は評価というよりも創出に問題があるのではないでしょうか、評価は後で考えることでも良いと思います」私はこう回答しながらもA部長の質問の背景を想像しました。A部長は私の回答をどこか予想通りといったような表情で聞いていたように感じられました。自分の知らないことを質問しているようには見えなかったのです。私は思いました。「この質問はアリバイ作りだな」と。どういうことかと言えば、A部長が上司に常々言われていることが、そのままこの質問なのだろうと思ったのです。というのは、上司に言われることは予め解決しておくのが部下というもの。A部長の上司はB役員なので、B役員がそのようなことを話されているのだろうと思ったのです。
2. 実践的な技術戦略: 下衆の勘繰りを裏付ける状況証拠が
私の邪推は当初は下衆の勘繰りではありましたが、その後勘ぐりが確信に変わりました。その後実施した調査で、研究開発に携わる技術者に話を聞いたのですが、異口同音にそのことを連想させることを聞くことができたのです。
話が横道に逸れますが、実はこの手の話はコンサル「あるある」なのです。概ね、コンサルに依頼する以上なにか問題はあるわけです。どんな問題も突き詰めれば必ずトップの責任です。しかし、自分の責任であることを知った上で問題解決を依頼する場合もあれば、知らずに問題解決を依頼する場合もある訳です。前者の場合は経営者の腹は据わっていますので派手な外科手術でもやり遂げます。しかし、後者の場合は話が違います。そもそも「自分に問題はない」とトップが考えているため診断内容もオブラートに包む必要があるわけです。誰も自分を傷つけることは望みませんからね。
話を戻します。B役員は現場に戦略を出してもらうことを要求していました。自分には問題がないと考えていたので、その後、現場から戦略が上がるだろうと期待してのことです。しかし、現場では評価基準に合わせて無難な戦略を立案して上げていくという忖度した行動になっていたのです。当然ながら、それは組織変革してもそれは変わらず。役員の評価基準に合わせて行動していたのでした。
そして、やはりA部長のご質問意図はB役員へのアリバイ作りでした。あとで聞くと、コンサルに聞いておくように言われた、とのことでした。
3. 実践的な技術戦略: B役員の受け止め方は
その後、どのようになったのかをご説明します。インタビューでは、B役員の評価に合わせて忖度したテーマを作っていることが浮かび上がりました。オブラートに包む必要があるとは言え診断は診断。トップの耳が痛い内容でもある程度問題を明確にする必要はあるわけです。報告書では「評価が先に立つ社風のために評価に合わせたテーマしか出てこない」ことをオブラートに包みつつも言及しました。受け取りようによってはB役員を批判するように受け取られかねない内容です。
こうした報告への反応には一般的に2パターンあります。一つは、報告書の内容を無視するパターン。会社では問題は先送りされ何も起こりません。余談ですが、この場合コンサルの継続はなくなります。そのため、コンサルタントとしては書くのは慎重になります。
もう一つはトップが問題を真摯に受け止めて改善するものです。問題が自分にあることに気づいていなかっただけであり、指摘されると「よくわかった。よく教えてくれた」という反応になります。B役員がどちらだったかと言えば、幸いなことに後者でした。問題を先送りするようなことはせずにすぐに改善することになったのです。
その経緯は以下のようなものでした。ご報告の際にはA部長だけでなく、B役員も参加されていました。腹の据わった方だったようで、報告書を読むやいなや「そうかそうか、俺が悪かったっていう話か、ワハハ」と大笑いされました。コンサルの私は「いやそこまで言ってませんけど(笑)」などと応じ、耳が痛い報告内容である一方で、和やかな雰囲気で報告を終えられたのを記憶しています。
B役員にとっては「評価を考える自分自身が悪い」という都合の悪い報告書内容だったのですが、理解し...