食品製造メーカー、品質トラブルによる利益損失と経営に与えるダメージとは

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食品製造メーカー、品質トラブルによる利益損失と経営に与えるダメージとは

【目次】

     

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    食品製造メーカーにとって、製品品質保証はその事業の基盤であり、お客様の信頼を得るために不可欠な要素です。しかし、品質トラブルによって利益を失い、最終的には倒産の危機に直面する企業も少なくありません。今回は「品質トラブルによる利益損失と経営に与えるダメージとは」を解説します。

     

    1. 中小食品企業の倒産事例

    今回の記事では、日本の中小食品企業で発生した具体的な倒産事例を3つ紹介し、その背景から得られる教訓について考察します。この内容を通じて、中小食品企業の経営者の皆さまが品質保証の重要性を再認識する機会になれば幸いです。

     

    (1)金属異物混入による被害

    ① 具体的内容と問題点

    愛知県の老舗菓子メーカー、愛知製菓株式会社(仮名)は、その手作り感が魅力の和菓子で地元住民に愛されていました。しかし、2018年5月に発生した異物混入事件が企業の運命を大きく変えました。この事件は、製造ライン上に金属片が混入するという重大な品質トラブルでした。

     

    金属異物は、製造ライン上の老朽化した機械部品でした。機会の老朽化とともにメンテナンスが不足していたため、生産中に機械の一部が破損し、その破片が製品中に入ってしまいました。製品が市場に出回った際にお客様から金属片の混入が報告され、多くのクレームが企業に寄せられました。

     

    ② 経営への影響

    この異常事態に対応するため、愛知製菓は直ちに製品回収を決定しましたが、その対応費用は莫大な額にのぼりました。製品回収に必要な経費が想定以上に膨らみ、具体的には回収にかかる物流費や、人件費、広告費などで約2億円のコストが発生しました。さらには、原因究明および対策のために生産できない期間中の売上減少や、回収した製品の廃棄費用なども加わり、最終的な損失額は約3億円と見積もられました。

     

    さらに消費者からの信頼を失ったことが深刻な問題でした。主要な取引先からの契約が次々とキャンセルとなり、新規の受注先も大幅に減少しました。売上は前年同期比で約50%減少し、経営再建が困難な状況に追い込まれました。最終的に、愛知製菓株式会社は2018年8月に倒産に至りました。

     

    ③ 教訓と改善策

    この異物混入事件から得られる教訓は明確です。それは、製造ラインの定期的なメンテナンスと設備更新の重要性です。製造機器は長期間使用することで劣化し、その結果、異常が発生しやすくなります。定期的なメンテナンス(設備保全)の計画を設定し、設備の点検・修理・交換がこのような問題を防ぐことためのポイントとなります。

     

    また、従業員教育の重要性も見逃せません。異物混入を防止するための知識とスキルを従業員全員に提供し、異常が発生した際に迅速に対応できるような体制を整えることが不可欠です。職場での衛生管理や、製造工程のチェックポイントを増やすことにより異常を早期に発見し、トラブルを未然に防ぐこともできます。

     

    さらに、危機管理体制の構築も重要です。万が一品質トラブルが発生した場合に迅速かつ的確に対応できるよう、事前にリスクマネジメント計画を策定しておきましょう。これにより、消費者の信頼を保持し経営へのダメージを最小限に抑えることが可能になります。

     

    以上のように、品質管理の徹底と従業員教育、そして危機管理体制の強化が、企業...


    食品製造メーカー、品質トラブルによる利益損失と経営に与えるダメージとは

    【目次】

       

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      食品製造メーカーにとって、製品品質保証はその事業の基盤であり、お客様の信頼を得るために不可欠な要素です。しかし、品質トラブルによって利益を失い、最終的には倒産の危機に直面する企業も少なくありません。今回は「品質トラブルによる利益損失と経営に与えるダメージとは」を解説します。

       

      1. 中小食品企業の倒産事例

      今回の記事では、日本の中小食品企業で発生した具体的な倒産事例を3つ紹介し、その背景から得られる教訓について考察します。この内容を通じて、中小食品企業の経営者の皆さまが品質保証の重要性を再認識する機会になれば幸いです。

       

      (1)金属異物混入による被害

      ① 具体的内容と問題点

      愛知県の老舗菓子メーカー、愛知製菓株式会社(仮名)は、その手作り感が魅力の和菓子で地元住民に愛されていました。しかし、2018年5月に発生した異物混入事件が企業の運命を大きく変えました。この事件は、製造ライン上に金属片が混入するという重大な品質トラブルでした。

       

      金属異物は、製造ライン上の老朽化した機械部品でした。機会の老朽化とともにメンテナンスが不足していたため、生産中に機械の一部が破損し、その破片が製品中に入ってしまいました。製品が市場に出回った際にお客様から金属片の混入が報告され、多くのクレームが企業に寄せられました。

       

      ② 経営への影響

      この異常事態に対応するため、愛知製菓は直ちに製品回収を決定しましたが、その対応費用は莫大な額にのぼりました。製品回収に必要な経費が想定以上に膨らみ、具体的には回収にかかる物流費や、人件費、広告費などで約2億円のコストが発生しました。さらには、原因究明および対策のために生産できない期間中の売上減少や、回収した製品の廃棄費用なども加わり、最終的な損失額は約3億円と見積もられました。

       

      さらに消費者からの信頼を失ったことが深刻な問題でした。主要な取引先からの契約が次々とキャンセルとなり、新規の受注先も大幅に減少しました。売上は前年同期比で約50%減少し、経営再建が困難な状況に追い込まれました。最終的に、愛知製菓株式会社は2018年8月に倒産に至りました。

       

      ③ 教訓と改善策

      この異物混入事件から得られる教訓は明確です。それは、製造ラインの定期的なメンテナンスと設備更新の重要性です。製造機器は長期間使用することで劣化し、その結果、異常が発生しやすくなります。定期的なメンテナンス(設備保全)の計画を設定し、設備の点検・修理・交換がこのような問題を防ぐことためのポイントとなります。

       

      また、従業員教育の重要性も見逃せません。異物混入を防止するための知識とスキルを従業員全員に提供し、異常が発生した際に迅速に対応できるような体制を整えることが不可欠です。職場での衛生管理や、製造工程のチェックポイントを増やすことにより異常を早期に発見し、トラブルを未然に防ぐこともできます。

       

      さらに、危機管理体制の構築も重要です。万が一品質トラブルが発生した場合に迅速かつ的確に対応できるよう、事前にリスクマネジメント計画を策定しておきましょう。これにより、消費者の信頼を保持し経営へのダメージを最小限に抑えることが可能になります。

       

      以上のように、品質管理の徹底と従業員教育、そして危機管理体制の強化が、企業の信頼と利益を守る鍵です。過去の品質トラブル事例を教訓として、自社の品質管理体制を見直し、持続的な発展を目指しましょう。

       

      (2)アレルゲン表示ミスによる健康被害

      ① 具体的事例と問題点

      和歌山県に本社を構える紀ノ川株式会社(仮名)は、地元産の果物を使用したジャムやピューレ製品で人気を博していました。しかし、2019年10月に発覚したアレルゲン表示ミスが、企業に致命的な打撃を与えることになりました。

       

      この事件は、同社が発売したフルーツジャムのパッケージにおいて、ナッツアレルギーに関するアレルゲン情報が欠落していたことが発端です。ナッツアレルギーを持つ多くのお客様がアレルギー反応による健康被害を訴える事態となりました。

       

      アレルゲン表示ミスの原因は、パッケージデザインの変更時に、アレルゲン表示が正確に反映されなかったことです。表示デザインのチェック体制が不十分で、確認作業が徹底されていなかったことが問題点として挙げられます。

       

      ② 経営への影響と損失額

      アレルゲン表示ミスにより、紀ノ川株式会社は直ちに製品回収を行いました。その費用は約1億円にのぼり、さらに多額の賠償金や訴訟費用が発生しました。回収にかかる物流費、人件費、広告費なども追加され、総損失額は約1.5億円と見積もられました。

       

      また、この事件によりお客様の信頼を大きく失ったことが深刻な問題となりました。企業イメージが著しく損なわれ、多くの主要取引先からの契約解除が相次ぎました。これに伴い売上は前年同期比で約60%減少し、経営は一気に悪化しました。結果として、紀ノ川株式会社は2019年12月に倒産に追い込まれました。

       

      ③ 教訓と改善策

      この事件から得られる教訓は、アレルゲン情報の正確な表示と厳格なチェック体制の整備の重要性です。アレルゲン情報は、お客様の健康に直結する重要な情報であり、その管理には細心の注意が必要です。

       

      まず、製品パッケージのデザイン変更時には、アレルゲン情報が確実に正確に記載されていることを確認するためのダブルルート体制を導入することが重要です。具体的には、デザインを担当する複数の部署や担当者がそれぞれ別のルートでチェックし、誤りがないことを確認します。

       

      次に、アレルゲン管理の専門知識を持つ人材を育成する必要があります。従業員に対して定期的にアレルゲン管理に関する教育を行い、最新の法律やガイドラインに従って製品を管理することが求められます。また、パッケージデザインの変更時には、必ず法的専門家からのアドバイスを受け、表示内容が適正かどうかを確認するルールを設けます。

       

      さらに、お客様からのフィードバックを迅速に収集し、それに基づいて改善を図る体制を整えることも重要です。製品に関するクレームが発生した場合には、迅速かつ的確に対応し、再発防止策を講じることが求められます。同様の問題を避けるためには、製品表示のチェック体制を強化し、アレルゲン管理に対する従業員教育を徹底することが不可欠です。

       

      (3)微生物汚染による健康被害

      ① 具体的内容と問題点

      三重県に本社を構える坂井食品株式会社(仮名)は、2000年に設立され、冷凍野菜や冷凍果実の製造・販売で成功を収めていました。しかし、2020年9月に発生したリステリア菌汚染事件が、致命的な打撃を企業にもたらしました。

       

      この事件の発端は、冷凍食品にリステリア菌が混入していることが消費者から報告されたことでした。リステリア菌は特に妊婦や高齢者、免疫力が低下している人々に危険を及ぼす細菌であり、感染すると重篤な健康被害を引き起こします。この菌の汚染が確認されるや否や、多くの消費者が食中毒症状を訴え、緊急に病院へ搬送されました。

       

      汚染の原因は、製造工程での衛生管理が不十分だったことでした。特に、冷蔵設備の不適切な温度管理と清掃の不徹底が原因となり、リステリア菌の繁殖を許してしまいました。これにより、製品が市場に出回り、多数の被害者を生み出してしまったのです。

       

      ② 経営への影響と損失額

      リステリア菌汚染により、坂井食品株式会社は直ちに製品回収を開始しました。その回収にかかる物流費、人件費、広告費などを総合すると約2億円にのぼると見積もられました。また、健康被害を受けたお客様に対する賠償金等も発生し、さらに企業の経営を圧迫しました。

       

      この事件により、消費者の信頼を大きく失い、企業のイメージが著しく損なわれました。市場での信用失墜により主要取引先からの契約解除が相次ぎ、新規の注文が大幅に減少しました。結果として、売上は前年同期比で約70%減少し、営業利益が大幅に赤字となりました。最終的に、坂井食品株式会社は2020年11月に資金繰りが行き詰まり、倒産に至りました。

       

      ③ 教訓と改善策

      この事件から得られる教訓は、食品製造工程において厳格な衛生管理を徹底する必要性です。特に、温度管理と清掃は非常に重要です。冷凍食品の製造においては、適切な温度管理が菌の繁殖を防ぐための鍵となります。定期的な設備の清掃と点検を行い、適切な温度管理を徹底することで、このようなリスクを最小限に抑えられます。

       

      また、従業員に対する衛生管理の教育を強化することが不可欠です。全従業員が衛生基準をしっかりと理解し、日常業務で実践できるようにするために、定期的な研修やトレーニングを実施します。特に、清掃手順や異常時の対処法について徹底的に教育し、現場での実践を重視します。

       

      さらに、危機管理体制の強化も重要です。品質トラブルが発生した際に迅速かつ適切に対応できるよう、リスクマネジメント計画を策定します。具体的には、異常が発生した場合の報告手順や対応方法を明文化し、全従業員が理解し、実行できるようにします。これにより、被害の拡大を防ぎ、経営へのダメージを最小限に抑えることが可能となります。

       

      この事例を教訓に、改めて自社の品質管理体制を再確認し、消費者に安心・安全な製品を提供できるよう努める必要があります。

       

      2. まとめ

      食品品質トラブルが企業の倒産に繋がることは、経営にとって重大な問題です。品質トラブルが発生すると、製品回収や賠償金支払い、消費者の信頼喪失などにより、企業は多額の経済的損失を抱えます。例えば、事例1~3のように、製品回収にかかる物流費、人件費、広告費などが発生し、これに賠償金訴訟費用が加わることで、総損失額は数億円に達することもあります。また、主要取引先からの契約解除や売上の急減少も経営を圧迫し、最終的には倒産に追い込まれることも珍しくありません。

       

      過去の事例から学ぶべき重要な教訓は、徹底した仕組み(ルール)の整備と人材育成の重要性です。製造ラインの定期的なメンテナンスや設備の点検を行うことで、異物混入や衛生管理不備によるリスクを低減することができます。また、パッケージのアレルゲン表示や製品ラベルのチェックには、複数の担当者が関与するダブルチェック体制を導入することが不可欠です。

       

      品質保証体制を強化することが、企業の信頼と利益を守る柱です。お客様に安心・安全な製品を提供して利益を最大化しましょう。

       

      【出典】「祐」食品技術士・労働衛生事務所HPより、筆者のご承諾により編集して掲載。

       

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      この記事の著者

      増田 祐一

      食品品質保証レベルの強化のための仕組みの整備と人材教育を社内で実践指導しています(HACCP、ISO9001、ISO22000指導可)。また、五ゲン主義による品質課題解決を得意としています。

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