1. 技術伝承の背景
2007年ごろから団塊の世代の定年退職が始まり、多くの企業ではあわてて技術伝承に取り組んできました。幸い、年金の支給年齢が65歳まで引き伸ばされ、定年延長や再雇用制度導入などで、その対応が猶予されてきました。その団塊の世代は、今年3月までで退職しています。多くの企業では、技術や技能をマニュアル化、ビデオ収録化、若手の育成等を通じて、デジタル化や可視化してきました。昨今の展示会では、それらのノウハウを販売している企業も数社存在しています。
筆者も、ナレッジマネジメントと称して、成功事例、失敗事例をウェブでの技術のデータベース化を、賞金付のインセンティブを与えたりして、収集してきたこともあります。それらは、果たして上手くいったと言えたでしょうか。その反省も踏まえて総括してみます。
図1 技術・技能伝承が必須の金型
2. 技術伝承の方法
技術者や技能者の場合、人を育てるには3~6年の年月を要します。大手企業の中には、工作機械メーカーや精密機械メーカーのように、特別の学校や研修プログラムを設けて、技術伝承を実施してきたところもあります。また、ものづくりに特化した大学まで出現したりしています。最近では、技術のデータベースをクラウド化し、全技術者に共有化を図っている企業もあります。筆者の取引先の中にも、技術・技能伝承に熱心な企業もありましたが、必ずしも上手くいったわけではないようです。上手くいった企業の特徴は、やはり人への伝承とデジタル化をセットで行った場合のようです。
3. 技術流失、人材流失の現実
ところで、日本のメーカーの中には、競って資産を身軽にして、ものづくりをアウトソーシングしてしまっているところも存在していました。ことのつまりは、中国や台湾、東南アジアなどに技術移転してしまい、生産コストの安い国を探してジプシーのような状況に陥ってしまった企業さえ出現しています。それと同時に、日本企業から図面やノウハウが技術流出し、先端技術も容易にコピーされる状況になっています。日本企業のリストラによる人材流失も加速度を増加させています。その典型的な事例が、韓国、台湾、中国でしょう。ものづくり全般と人材が技術移転してしまい、ほとんどの技術が、それらの国で開発可能となり、日本企業の脅威となっています。
4. 真似のできない技術伝承システムの構築
例えば、組み立て産業では、金型技術やナノ技術がコア技術のひとつですが、まだまだ自社でまかなえる企業は数少ないようです。日本のものづくりは、金型やナノ技術のようなコア技術に人材を投入、ス...