ベテランから若手への伝承は、ときに企業の存続にも影響を与えます。少子高齢社会において高齢者と若手、中堅社員はどのように事業継承に対応すべきなのでしょうか。企業を活性化し伝承を進めるための組織的な取り組み方について、連載で解説します。
1. 企業を取り巻く伝承の実態:先送りされた伝承
多くの企業で、中長期目標の一つに伝承を挙げていますが、思うように進んでいないのが実状です。少子高齢化のなかで、働き方改革やIT導入による分業化などで業務が効率化され、伝承に割ける時間的余裕がなくなり、今まで再雇用や雇用延長で対応してきたのです。つまり目先の売り上げや利益を重視し、伝承が先送りにされてきました。
また、伝承を積極的に進めている企業でも、熟練者の経験や知識を全て伝承しようとするあまり、伝承者・継承者・伝承推進者の思いが異なり、スムーズに進んでいないケースもあります。
例えば、2007年当時、先進的な企業として取り上げられていた企業でも、いまだに同様の課題を抱えています。伝承者は全てを伝えたい、しかし継承者は全てを同時には受け入れられない。そうなると伝承推進者が、伝承すべき経験や知識を識別すべきなのですが、その方法が分からないなど、様々な問題を抱えて現在に至っています。
特に中小企業の場合、属人的な経験や知識が喪失すれば企業存続のリスクとなり、死活問題として捉えるべきなのですが、有効な対策がとられていない実態があります。
少子高齢社会では、労働の中核となる労働生産人口が激減します。そのため積極的に高齢者雇用を進め、熟練者が持つ経験や知識を活用していくことが必要になります。しかし、雇用延長や再雇用などによる高齢者雇用の多くは労働力としての活用であり、後世へ経験や知識を伝承する役割を与えている例は少ないのです。また、体力が落ちる高齢者に付加価値を発揮してもらえるような労働環境の整備や、中堅社員と若手の役割分担の見直しを行っている例は極めて少ないのです。
2. なぜ伝承は進まないのか
では、伝承がうまく行われないのはなぜか、その理由を整理してみます。
(1)教え合う環境の崩壊
伝承が進まない原因の一つには、教え合う環境の崩壊があります。わが国の高度経済成長期には、小集団活動に代表されるように通常業務や改善活動などを通じ、先輩・後輩や同僚間で自然と教え合う環境ができていました。しかし、欧米型のビジネススタイルを取り入れたことにより、終身雇用や年功序列の崩壊、また、能力主義に代表される個人評価に重点が置かれるようになりました。そのような働き方や労働意識が変化して、評価の対象となる経験や知識などを共有することが少なくなったのです。このようなことから、本...