意匠法講座:第5回 意匠の類似

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 1.意匠

 
 意匠とは、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいいます(意匠法第2条第1項)。したがって、「美感」が意匠の創作の結果物ということです。なお、以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」といいます。
 
 第1回で記したように、意匠法は意匠の創作を保護するものです。その結果物が美感ということになると、意匠の創作の価値は「美感」で判断することになります。そこで、意匠法では、意匠の類否は「需要者に起こさせる美感」で判断するものとされています(24条2項)。「類似」は登録の可否、侵害の成否を判断する要の概念です。
 

2.意匠の類似

 
 意匠が類似するとは、物品が同一又は類似であることを前提として、形態が同一又は類似であって、その結果「美感」が共通すること、とされています。意匠の類似の前提として物品の類似が要求されることから、自動車の意匠権を保有している者が同じ形態のミニチュアカーの製造販売を意匠権に基づいて差し止めることができない、ということになります。
 
(1)物品の同一・類似
 
 物品が同一であるとは、物品の用途・機能が共通していることをいい、物品が類似するとは、物品の用途が共通し機能が異なることをいう、とされています。例えば、ボールペンとシャープペンシルは「書く」という用途が共通するので類似物品です。
 
 現実の侵害事件においては、登録意匠とイ号物件(侵害疑義品)とは同一物品である場合がほとんどであり、物品の類否が争われることは殆どありませんが、登山用の「カラビナ」とキーホルダー的に使用される「カラビナ」とは、形態が共通していても「物品」が異なるので非類似と判断された裁判例があります。
 
 なお、意匠法は「意匠の類似」というのみで、その要件として「物品の類似」は規定していません。ちなみに欧州共同体意匠規則においては、製品(欧州共同体意匠規則では「物品」ではなく「製品」といいます。ロゴマークなども含める趣旨。)の名称は効力に影響しないものとされています(規則20条)。しかしながら、デザインの手法を考えると、「物品」の枠は外せない、と考えています。
 
(2)形態の同一・類似
 
 形態が同一であるとは、形態の構成要素が共通していることをいい、形態が類似するとは、形態の構成要素に差異はあるが全体として観察したときの美感が共通していることをいいます。意匠の類否はあくまでも全体観察により決められます。一般的には、次の2点と判断されることとなります。
 
・対比する二つの意匠が「共通点による美感」>「差違点による美感」である場合は「類似」
 
・対比する二つの意匠が「共通点による美感」<「差違点による美感」である場合は「非類似」
 
(3)共通点・差違点のウエイト付け
 
 「共通点による美感」と「差違点による美感」の大小を判定するためには、それぞれが全体観察においてどの程度のウエイトをもって評価されるべきであるかを決定しなければなりません。共通点、差違点を分析した後に当該意匠の類否判断の要となる構成要素が特定されます。この構成要素が意匠の要部と呼ばれるのです。
 
 一般に、当該意匠分野に詳しい者が観察すれば、彼等は周辺意匠についての知識を持っているので、「共通点はさして新しい形態ではない」と考えて細部の形態に注目して判断する傾向となり、共通点が意匠の全体の骨格をなすよく目に付く部分であっても、その共通性は比較的低く捉えられ、差違点が高く評価されることになります。他方、当該意匠分野の知識に乏しい者が観察すると、全体の骨格をなす「共通点」に目がいき、細部の差異は低く評価される傾向となります。
 
 意匠の類否論における「創作説」「混同説」のいずれに立つかにより、評価のウエイト付けが変わることとなります。この乖離をなくすために、意匠法では「需要者」(取引者又は一般需要者)の観点から判断することとしています。
 
 現実の紛争では、形態が同一であることは殆どなく、形態の類否が最大の争点となります。そのなかで、最大の争点は「要部の認定」です。一般には、周辺意匠を参照しつつ登録意匠独自の形態を抽出して、その形態を「要部」と認定します。その要部にウエイトを置いて全体として観察し、取引者・需要者の観点から美感の異同を判断することになります。
 

3.特許庁における判断手法

 
 特許庁においては一般的に図1、図2のような認定が行われています。
 
     意匠法         意匠法
         図1.出願意匠                図2.公知意匠

       

①基本的構成態様(意匠全体の骨格となる態様)の把握
 
上記においては、斜めに配設した左右のフレームに足載せ板、座面、テーブルを取り付け位置調節可能に取り付けた点
 
②具体的態様の把握
 
・フレームの具体的な形状
・足載せ板、座面、テーブル、背もたれなど各要素の具体的な形状
 
③共通点、差違点の抽出
 
・基本的構成態様は共通する
・具体的態様は全て異なる
 
④共通点のウエイト付け
 
・共通点である基本的構成態様は、両意匠のみの特徴か、それとも他にもあるか
(この段階で...

 1.意匠

 
 意匠とは、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいいます(意匠法第2条第1項)。したがって、「美感」が意匠の創作の結果物ということです。なお、以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」といいます。
 
 第1回で記したように、意匠法は意匠の創作を保護するものです。その結果物が美感ということになると、意匠の創作の価値は「美感」で判断することになります。そこで、意匠法では、意匠の類否は「需要者に起こさせる美感」で判断するものとされています(24条2項)。「類似」は登録の可否、侵害の成否を判断する要の概念です。
 

2.意匠の類似

 
 意匠が類似するとは、物品が同一又は類似であることを前提として、形態が同一又は類似であって、その結果「美感」が共通すること、とされています。意匠の類似の前提として物品の類似が要求されることから、自動車の意匠権を保有している者が同じ形態のミニチュアカーの製造販売を意匠権に基づいて差し止めることができない、ということになります。
 
(1)物品の同一・類似
 
 物品が同一であるとは、物品の用途・機能が共通していることをいい、物品が類似するとは、物品の用途が共通し機能が異なることをいう、とされています。例えば、ボールペンとシャープペンシルは「書く」という用途が共通するので類似物品です。
 
 現実の侵害事件においては、登録意匠とイ号物件(侵害疑義品)とは同一物品である場合がほとんどであり、物品の類否が争われることは殆どありませんが、登山用の「カラビナ」とキーホルダー的に使用される「カラビナ」とは、形態が共通していても「物品」が異なるので非類似と判断された裁判例があります。
 
 なお、意匠法は「意匠の類似」というのみで、その要件として「物品の類似」は規定していません。ちなみに欧州共同体意匠規則においては、製品(欧州共同体意匠規則では「物品」ではなく「製品」といいます。ロゴマークなども含める趣旨。)の名称は効力に影響しないものとされています(規則20条)。しかしながら、デザインの手法を考えると、「物品」の枠は外せない、と考えています。
 
(2)形態の同一・類似
 
 形態が同一であるとは、形態の構成要素が共通していることをいい、形態が類似するとは、形態の構成要素に差異はあるが全体として観察したときの美感が共通していることをいいます。意匠の類否はあくまでも全体観察により決められます。一般的には、次の2点と判断されることとなります。
 
・対比する二つの意匠が「共通点による美感」>「差違点による美感」である場合は「類似」
 
・対比する二つの意匠が「共通点による美感」<「差違点による美感」である場合は「非類似」
 
(3)共通点・差違点のウエイト付け
 
 「共通点による美感」と「差違点による美感」の大小を判定するためには、それぞれが全体観察においてどの程度のウエイトをもって評価されるべきであるかを決定しなければなりません。共通点、差違点を分析した後に当該意匠の類否判断の要となる構成要素が特定されます。この構成要素が意匠の要部と呼ばれるのです。
 
 一般に、当該意匠分野に詳しい者が観察すれば、彼等は周辺意匠についての知識を持っているので、「共通点はさして新しい形態ではない」と考えて細部の形態に注目して判断する傾向となり、共通点が意匠の全体の骨格をなすよく目に付く部分であっても、その共通性は比較的低く捉えられ、差違点が高く評価されることになります。他方、当該意匠分野の知識に乏しい者が観察すると、全体の骨格をなす「共通点」に目がいき、細部の差異は低く評価される傾向となります。
 
 意匠の類否論における「創作説」「混同説」のいずれに立つかにより、評価のウエイト付けが変わることとなります。この乖離をなくすために、意匠法では「需要者」(取引者又は一般需要者)の観点から判断することとしています。
 
 現実の紛争では、形態が同一であることは殆どなく、形態の類否が最大の争点となります。そのなかで、最大の争点は「要部の認定」です。一般には、周辺意匠を参照しつつ登録意匠独自の形態を抽出して、その形態を「要部」と認定します。その要部にウエイトを置いて全体として観察し、取引者・需要者の観点から美感の異同を判断することになります。
 

3.特許庁における判断手法

 
 特許庁においては一般的に図1、図2のような認定が行われています。
 
     意匠法         意匠法
         図1.出願意匠                図2.公知意匠

       

①基本的構成態様(意匠全体の骨格となる態様)の把握
 
上記においては、斜めに配設した左右のフレームに足載せ板、座面、テーブルを取り付け位置調節可能に取り付けた点
 
②具体的態様の把握
 
・フレームの具体的な形状
・足載せ板、座面、テーブル、背もたれなど各要素の具体的な形状
 
③共通点、差違点の抽出
 
・基本的構成態様は共通する
・具体的態様は全て異なる
 
④共通点のウエイト付け
 
・共通点である基本的構成態様は、両意匠のみの特徴か、それとも他にもあるか
(この段階で、同種の意匠が時系列的にどうのように変化してきたかを資料に基づき判断する)
→他にもある
→基本的構成態様の共通性のみで類似と判断することはできない
 
⑤差違点のウエイト付け
 
・差違点は目に付くか
・差違点が総合して別異な印象を与えるものとなっているか
→肯定されれば、差違点は高く評価され、「非類似」と判断され 否定されれば、「ありふれた態様といえども要部となる」として「類似」と判断される
 
 本件においては、基本的構成態様は共通するが、この基本的構成態様は従来からあり、具体的態様が「要部」としてとらえられるので、具体的態様で異なる両意匠は非類似と判断されています。
 
 

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この記事の著者

峯 唯夫

「知的財産の町医者」として、あらゆるジャンルの相談に応じ、必要により特定分野の専門家を紹介します。

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