品質問題やクレームをなくすには

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  生産マネジメント
 
 近年、ものづくり分野で沢山の品質問題、クレームが発生しています。最近の発生だけでなく、潜在化していたものが表面に出て来たものも多いようです。ものづくりに関わっていた者としては心が痛みます。
 
 顧客第一主義、品質第一などが言われて久しいですが、今になっては表面的な言葉であって、実態はそれらが形骸化しているように思えます。今回は、品質問題やクレームをなくすにはをテーマにして、何のためにその商品を作るのか、その商品をどんなお客様に売ろうとしているのか、などについて考えます。
 
 ひとたび品質問題やクレームを出してしまうと、例え大企業であっても信頼を失い、経営基盤がぐらつくことも珍しくはありません。これはものづくりの分野だけでなく、他分野、多方面に及んでいます。
 
 本来は、悪い情報ほど早く出すことが重要なのですが、その相手やお客様を思う気持ちよりも自己保身的な部分が優先し、心理的には後出し、後送りになってしまうのではないでしょうか。そして結果的にボヤが大火に至るということです。
 

1. 品質管理の勉強会

 もう45年以上も古い話です。私が入社した頃、当時の課長が時間外に定期的に品質管理の勉強会を開いてくれていました。その最初の話で、いまだに印象深く残っている話があります。
 
 「 FM カーは買うな! 」という話です。
 
 聞いた時よりももっと古い話ですから50年以上経つのかも知れません。米国では、金曜日には、明日はもう休暇だとソワソワする。また月曜日には、遊び疲れて、どちらにしても仕事には集中できない。たとえ話かも知れませんが、F(金曜日)とM(月曜日)に作った車はネジがしっかり締めてないとか、部品がきちんと取り付けてないかも知れない。つまり品質が確保されていないかもしれないという話です。
 
 課長がこれを最初の話題に選んだのは、ものづくりでの品質の作り込みが如何に重要なことかを言おうとしたのでしょう。当時は、インパクトがありました。恐らく最初に印象深い話をして、聞く耳を持ってもらうとか、品質のことを考えたり興味を持ってもらうということを狙ったのでしょう。
 

2.  心を込めて品質を作り込むとは

 遭遇した事例を紹介しながら、私の考えを記してみます。
 
 入社時は高級時計の組み立て部門にいました。このラインの女性作業者の話です。10人ほどのメンバーで順次後送りしながら組み立てを行っていました。腕時計は地板と呼ばれる基になる部品があり、そこに歯車をはじめ様々な部品を組付けていきます。地板の歯車の真が入る部分に赤い石(人工ルビー)が組み込んであります。
 
 この丸い石には中心に穴が開いていて、歯車の真を差し込みますが、摩耗を低減させるために油を付けています。この女性の作業者は、石の穴の周囲に油が付けられて流動されて来たものに、いくつかの歯車を組み込む工程を担当していました。作業中に油の位置が中心から少しずれているものを発見しました。上司はそれを見て、これは“規格内だからOK”と言ったところ、その女性は、“規格に入っていればそれでいいのですか。私は満足しません”と言ってその油を丁寧に拭き取り、自分でやり直していました。この言葉は、私の心に今も鮮明に残っています。
 
 当時は、“心を込めて品質を作り込む”ことが合言葉のようになっていました。そしてそれにふさわしい作業を心がけていたので、自分の仕事に自信と愛着を持っていたのです。プロ意識を持ち、絶えず高い技術、技能を身に着け成長していく姿です。標準書に書かれた品質だけでなく、心の品質です。
 
 最近は品質問題やクレームをなくすにはどうすればいいのかと、質問されたり話題になります。これには特効薬や明解な回答はないと思います。私は、「ものづくりの根底には、自社製品、自分の仕事に愛着、誇りを持って品質の作り込みをするということがすごく大切なこととして存在する」と考えています。時々、心を込めて自分が満足できる品質の作り込みをしているか自問したり、考えて見ませんか。
 
 私は、「品質は人の質、人の質は心の質」だと考えています。この程度で良いと思えばその程度の品質になってしまいます。そうして作ったものを自信を持って市場に送り出していけるでしょうか。それを自分が買うのかも知れません。相手の立場、お客様を思う気持ちを大切にしたいところです。
 

3. 日本のものづくり品質

 日本のものづくり品質の良さ、強さは、次の2点だと言われてきました。
 
  • 工程で品質を作り込む  
  • 作業者の品質意識が高い 
 
 プロ意識、誇りを持って仕事をする。つまり“心の品質レベルを高める”ことで品質問題やクレームは減るのではないでしょうか。“心の...
 
  生産マネジメント
 
 近年、ものづくり分野で沢山の品質問題、クレームが発生しています。最近の発生だけでなく、潜在化していたものが表面に出て来たものも多いようです。ものづくりに関わっていた者としては心が痛みます。
 
 顧客第一主義、品質第一などが言われて久しいですが、今になっては表面的な言葉であって、実態はそれらが形骸化しているように思えます。今回は、品質問題やクレームをなくすにはをテーマにして、何のためにその商品を作るのか、その商品をどんなお客様に売ろうとしているのか、などについて考えます。
 
 ひとたび品質問題やクレームを出してしまうと、例え大企業であっても信頼を失い、経営基盤がぐらつくことも珍しくはありません。これはものづくりの分野だけでなく、他分野、多方面に及んでいます。
 
 本来は、悪い情報ほど早く出すことが重要なのですが、その相手やお客様を思う気持ちよりも自己保身的な部分が優先し、心理的には後出し、後送りになってしまうのではないでしょうか。そして結果的にボヤが大火に至るということです。
 

1. 品質管理の勉強会

 もう45年以上も古い話です。私が入社した頃、当時の課長が時間外に定期的に品質管理の勉強会を開いてくれていました。その最初の話で、いまだに印象深く残っている話があります。
 
 「 FM カーは買うな! 」という話です。
 
 聞いた時よりももっと古い話ですから50年以上経つのかも知れません。米国では、金曜日には、明日はもう休暇だとソワソワする。また月曜日には、遊び疲れて、どちらにしても仕事には集中できない。たとえ話かも知れませんが、F(金曜日)とM(月曜日)に作った車はネジがしっかり締めてないとか、部品がきちんと取り付けてないかも知れない。つまり品質が確保されていないかもしれないという話です。
 
 課長がこれを最初の話題に選んだのは、ものづくりでの品質の作り込みが如何に重要なことかを言おうとしたのでしょう。当時は、インパクトがありました。恐らく最初に印象深い話をして、聞く耳を持ってもらうとか、品質のことを考えたり興味を持ってもらうということを狙ったのでしょう。
 

2.  心を込めて品質を作り込むとは

 遭遇した事例を紹介しながら、私の考えを記してみます。
 
 入社時は高級時計の組み立て部門にいました。このラインの女性作業者の話です。10人ほどのメンバーで順次後送りしながら組み立てを行っていました。腕時計は地板と呼ばれる基になる部品があり、そこに歯車をはじめ様々な部品を組付けていきます。地板の歯車の真が入る部分に赤い石(人工ルビー)が組み込んであります。
 
 この丸い石には中心に穴が開いていて、歯車の真を差し込みますが、摩耗を低減させるために油を付けています。この女性の作業者は、石の穴の周囲に油が付けられて流動されて来たものに、いくつかの歯車を組み込む工程を担当していました。作業中に油の位置が中心から少しずれているものを発見しました。上司はそれを見て、これは“規格内だからOK”と言ったところ、その女性は、“規格に入っていればそれでいいのですか。私は満足しません”と言ってその油を丁寧に拭き取り、自分でやり直していました。この言葉は、私の心に今も鮮明に残っています。
 
 当時は、“心を込めて品質を作り込む”ことが合言葉のようになっていました。そしてそれにふさわしい作業を心がけていたので、自分の仕事に自信と愛着を持っていたのです。プロ意識を持ち、絶えず高い技術、技能を身に着け成長していく姿です。標準書に書かれた品質だけでなく、心の品質です。
 
 最近は品質問題やクレームをなくすにはどうすればいいのかと、質問されたり話題になります。これには特効薬や明解な回答はないと思います。私は、「ものづくりの根底には、自社製品、自分の仕事に愛着、誇りを持って品質の作り込みをするということがすごく大切なこととして存在する」と考えています。時々、心を込めて自分が満足できる品質の作り込みをしているか自問したり、考えて見ませんか。
 
 私は、「品質は人の質、人の質は心の質」だと考えています。この程度で良いと思えばその程度の品質になってしまいます。そうして作ったものを自信を持って市場に送り出していけるでしょうか。それを自分が買うのかも知れません。相手の立場、お客様を思う気持ちを大切にしたいところです。
 

3. 日本のものづくり品質

 日本のものづくり品質の良さ、強さは、次の2点だと言われてきました。
 
  • 工程で品質を作り込む  
  • 作業者の品質意識が高い 
 
 プロ意識、誇りを持って仕事をする。つまり“心の品質レベルを高める”ことで品質問題やクレームは減るのではないでしょうか。“心の品質レベルを高める”とは、“見えない付加価値をつける”と言い換えても良いかも知れません。
 
 最近は国内空洞化に伴い、様々な技術も海外に出て行っています。いろいろなものが出て行くと、あとは何が残るのだろうか。強みは何かと時々考えてしまいます。国内のものづくりにはこのような“心で品質を作り込む部分”しか残らないのではないかというところに辿り着きます。
 
 あるいは、これが海外と比較しての唯一の差別化の部分のようにも思います。そういうものが失われ、心の空洞化が拡大、浸透してきて、やがて置き換わってしまうのかも知れないとさえ思います。そして日本のものづくり基盤が軟弱になって行くことに繋がるのではないでしょうか。
 
 心で品質を作り込むことが日本のものづくり企業の最後の砦、ゆえに会社に行って標準通りに仕事をして、給料をもらっての繰り返しではなく、心の付加価値を考えることも大切だと思います。
 
 刀工は、日本刀を作る時、刀に魂を入れるなどと言います。私たちも心を込めたものづくりを探求し、品質向上、クレーム撲滅に貢献しましょう。そして、ものづくり基盤の体質を強くすることに再び注力しましょう。
 

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この記事の著者

清水 英範

在社中、クリーン化25年の経験、国内海外のクリーン化教育、現場診断・指導多数。ゴミによる品質問題への対応(クリーン化活動)を中心に、安全、人財育成等も含め多面的、総合的なアドバイス。クリーンルームの有無に限らず現場中心に体質改善、強化のお手伝いをいたします。

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