5Sの心を実現するための仕組みづくりとは

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  5S
 
 5Sの対象は、モノですが、そのモノに対して全員参加で整理、整頓、清掃を行っていくことで、気くばりの心、思いやりの心など、本質的な心の部分に踏み込んでいき、そのことが、全てのイノベーション活動を着実に推進する思考の変革につながります。しかし、5Sの心は、簡単に工場に定着するものではありません。
 
 今回は、継続した5Sの心を実現するための仕組みづくりと進め方を、クリーン化の現場診断・指導を通じての経験や各企業の事例を紹介しながら解説します。
 

1. 5Sの対象は人とモノ

 5Sの最後は躾です。人とモノ両面での対応が必要です。ある会社訪問時、6Sと掲示があったので6つ目は何かを聞いたところ、「躾は非常に難しい。常日頃からの習慣化が大切」と考え習慣化を加えたとの説明でした。ただし“しつけ”が“押しつけ”になると、やらされ感が増幅し、上司の顔色を窺うようになってしまい定着は難しいでしょう。

2. 5S:イベントの活用と成功体験

 別な会社では“爽健美活動”というのをやっていました。
 
 日常的な活動以外にも夏は海水浴場のゴミ拾い、近くの城址の清掃なども積極的にやっているとのことでした。その中に、“トイレをピカピカに磨き上げよう”という活動があって、実際にその会社のトイレを見せてもらうと綺麗さにびっくりしました。自分の顔が映るくらい床が磨かれていました。
 
 休日に会社に出てやる。その時便器も3時間くらい磨くのだそうです。
 
 リーダーが終わりにしようというと、特に若い人ほどもっとやらせてほしい。気が済まないと言ってなかなかやめないのだそうです。この活動を通じ、やらされ感、受け身ではなく、何かを悟るというか、ある境地のようなものに遭遇するのではないかと感じました。
 
 この会社では、白黒トーナメントというイベントをしていました。従業員に白い布を持たせ、トーナメント方式でそれを一番汚してきた人を表彰するというものです。
 
 表彰時どうしてこんなに汚すことができたかコメントする。自分は気流の流れを見てこんなところが汚れるだろうと推測したとか、布で床を拭くことで綺麗になったつもりだったがやるほど汚れる。今までの清掃が本物ではなかったとか、色々な気づきを話すのです。
 
 それを聞いた人達が着眼点やノウハウとして共有します。表彰された人はまた褒められたいという気持ちを潜在的に持つので、日常的に現場に目を向けることになります。つまり、褒められたという成功体験とその継続に繋がるわけです。
 

3. 5S:褒めること

 中国の工場での事例です。廊下の掲示が感動するほど綺麗なところがありました。
 
 当時の総経理に聞いたところ、掲示は用紙の大きさを統一し、縦横きちんと揃えて貼ることを1年近く言い続けた結果こういう掲示ができるようになったそうです。これにより予想外の波及効果があったのです。それは水平、垂直、直角の考え方が従業員に浸透したのです。そして工場内ではその考え方から外れているものは異常と判断し、上司に報告して来るようになったのです
 
 例えば、電気のコードが今まで水平だったのに今日は垂れているとか、設備のカバーが斜めになっている、製品置き場がずれている。運搬台車がぶつかったのではないかなどと報告して来るのです。
 
 この時は、どんな内容であっても大袈裟に褒める。すると喜んだりまた褒められたいという気持ちになり、更に沢山の報告が出て来ます。大勢の目を活用することで、管理監督者の工場巡回で発見するよりもはるかに沢山の気づきがあるのです。5Sだけでなく、災害の未然防止や設備異常の早期発見に繋がるとのことでした。
 

4. 5S:自分の問題として引き寄せる

 クリーン化ではなぜを考えることが重要だと言い続けてきました。なぜ防塵衣を着るのか。防塵衣にはなぜ着脱順序があるのかと言うように、一つ一つになぜがあります。
 
 5Sもそれを進めると何が良くなるのか。それは自分たちにどう跳ね返ってくるのかを理解してもらう。つまりなぜを考えることでひとごとではなく、自分の問題として引き寄せることができると思います。
 
 例えば歩留まりが上がる、作業ミスが減るという表面的なことだけでなく、それによりどう利益が出るのか、自分達が楽になるかなど掘り下げて考えられるように導きましょう。
 

5. 5S:管理監督者の率先垂範

 指示、命令は一方的で受け身、待ちになります。管理監督者の率先垂範や一緒にやることに効果があります。やらせておいて、一方では会議で参加しないということがあると上手く行きません。管理監督者は兎角理論、理屈で考えがちですが、一緒に汗を流し苦労を分かち合うことが大切です。
 
 国内のある工場では、設備の保全を定期的に実施、グリスやこびりついた汚れを毎回時間をかけ除去していました。そこに、ひょっこり工場長が入ってきて、こんなに苦労しているのか、ちょっと俺にもやらせろと言いながら自分も手を汚して作業に参加しました。作業者も日頃...
 
  5S
 
 5Sの対象は、モノですが、そのモノに対して全員参加で整理、整頓、清掃を行っていくことで、気くばりの心、思いやりの心など、本質的な心の部分に踏み込んでいき、そのことが、全てのイノベーション活動を着実に推進する思考の変革につながります。しかし、5Sの心は、簡単に工場に定着するものではありません。
 
 今回は、継続した5Sの心を実現するための仕組みづくりと進め方を、クリーン化の現場診断・指導を通じての経験や各企業の事例を紹介しながら解説します。
 

1. 5Sの対象は人とモノ

 5Sの最後は躾です。人とモノ両面での対応が必要です。ある会社訪問時、6Sと掲示があったので6つ目は何かを聞いたところ、「躾は非常に難しい。常日頃からの習慣化が大切」と考え習慣化を加えたとの説明でした。ただし“しつけ”が“押しつけ”になると、やらされ感が増幅し、上司の顔色を窺うようになってしまい定着は難しいでしょう。

2. 5S:イベントの活用と成功体験

 別な会社では“爽健美活動”というのをやっていました。
 
 日常的な活動以外にも夏は海水浴場のゴミ拾い、近くの城址の清掃なども積極的にやっているとのことでした。その中に、“トイレをピカピカに磨き上げよう”という活動があって、実際にその会社のトイレを見せてもらうと綺麗さにびっくりしました。自分の顔が映るくらい床が磨かれていました。
 
 休日に会社に出てやる。その時便器も3時間くらい磨くのだそうです。
 
 リーダーが終わりにしようというと、特に若い人ほどもっとやらせてほしい。気が済まないと言ってなかなかやめないのだそうです。この活動を通じ、やらされ感、受け身ではなく、何かを悟るというか、ある境地のようなものに遭遇するのではないかと感じました。
 
 この会社では、白黒トーナメントというイベントをしていました。従業員に白い布を持たせ、トーナメント方式でそれを一番汚してきた人を表彰するというものです。
 
 表彰時どうしてこんなに汚すことができたかコメントする。自分は気流の流れを見てこんなところが汚れるだろうと推測したとか、布で床を拭くことで綺麗になったつもりだったがやるほど汚れる。今までの清掃が本物ではなかったとか、色々な気づきを話すのです。
 
 それを聞いた人達が着眼点やノウハウとして共有します。表彰された人はまた褒められたいという気持ちを潜在的に持つので、日常的に現場に目を向けることになります。つまり、褒められたという成功体験とその継続に繋がるわけです。
 

3. 5S:褒めること

 中国の工場での事例です。廊下の掲示が感動するほど綺麗なところがありました。
 
 当時の総経理に聞いたところ、掲示は用紙の大きさを統一し、縦横きちんと揃えて貼ることを1年近く言い続けた結果こういう掲示ができるようになったそうです。これにより予想外の波及効果があったのです。それは水平、垂直、直角の考え方が従業員に浸透したのです。そして工場内ではその考え方から外れているものは異常と判断し、上司に報告して来るようになったのです
 
 例えば、電気のコードが今まで水平だったのに今日は垂れているとか、設備のカバーが斜めになっている、製品置き場がずれている。運搬台車がぶつかったのではないかなどと報告して来るのです。
 
 この時は、どんな内容であっても大袈裟に褒める。すると喜んだりまた褒められたいという気持ちになり、更に沢山の報告が出て来ます。大勢の目を活用することで、管理監督者の工場巡回で発見するよりもはるかに沢山の気づきがあるのです。5Sだけでなく、災害の未然防止や設備異常の早期発見に繋がるとのことでした。
 

4. 5S:自分の問題として引き寄せる

 クリーン化ではなぜを考えることが重要だと言い続けてきました。なぜ防塵衣を着るのか。防塵衣にはなぜ着脱順序があるのかと言うように、一つ一つになぜがあります。
 
 5Sもそれを進めると何が良くなるのか。それは自分たちにどう跳ね返ってくるのかを理解してもらう。つまりなぜを考えることでひとごとではなく、自分の問題として引き寄せることができると思います。
 
 例えば歩留まりが上がる、作業ミスが減るという表面的なことだけでなく、それによりどう利益が出るのか、自分達が楽になるかなど掘り下げて考えられるように導きましょう。
 

5. 5S:管理監督者の率先垂範

 指示、命令は一方的で受け身、待ちになります。管理監督者の率先垂範や一緒にやることに効果があります。やらせておいて、一方では会議で参加しないということがあると上手く行きません。管理監督者は兎角理論、理屈で考えがちですが、一緒に汗を流し苦労を分かち合うことが大切です。
 
 国内のある工場では、設備の保全を定期的に実施、グリスやこびりついた汚れを毎回時間をかけ除去していました。そこに、ひょっこり工場長が入ってきて、こんなに苦労しているのか、ちょっと俺にもやらせろと言いながら自分も手を汚して作業に参加しました。作業者も日頃は上下の距離を感じている偉い人が気軽に声をかけてくれて一緒に油だらけになって清掃しながら、もっと楽になる方法はないのかなどと気軽に問いかけられ、工場長との心の距離が接近しました。そのメンバーも自分達の苦労を知って貰った喜びに加え、もっと効率良い方法はないか考えるきっかけになったそうです。
 
 私も現場を這いずり回っているうちに、クリーン化の目的は、などと考える以前にクリーン化の心に触れた気がする時があります。理論、理屈は後回しでもっと綺麗にしたいと純粋に思うことがあります。人はこれではいけないと思えば、行動を起こす動物ですが、そこに気づかせる地道な活動が大切だと感じます。
 

6. 5Sの心を実現し継続させる

 5Sの心を実現しても、それをどう継承させていくかが重要です。浸透、定着には時間がかかりますが、手を抜くと衰退したり、運が悪いとあっという間に崩れます。こうなると元に戻すことがなかなか難しいでしょう。早めに把握して手を打つことです。継続には、色々なイベントをやってみるのも一つの方法です。
 
 どの企業を訪問しても、色々な工夫、イベントをやっていますので同じ悩み、課題を抱えている企業は多いと思います。その現場に合った方法を模索して下さい。
 

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この記事の著者

清水 英範

在社中、クリーン化25年の経験、国内海外のクリーン化教育、現場診断・指導多数。ゴミによる品質問題への対応(クリーン化活動)を中心に、安全、人財育成等も含め多面的、総合的なアドバイス。クリーンルームの有無に限らず現場中心に体質改善、強化のお手伝いをいたします。

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