TRIZ(トゥリーズ)というツールの名前はどこかで聞いたことがあると思います。ウィキペディアの定義によれば、「ソビエト連邦発の問題解決理論・全体最適化理論・システム思考・クリエイティブシンキングである。ロシア語の Teoriya Resheniya Izobretatelskikh Zadatch (Теория решения изобретательских задач) の頭字語である。英語では Theory of solving inventive problems または Theory of inventive problems solving と呼ぶ。 同じく問題解決理論・全体最適化理論・システム思考である 制約条件理論 TOC と併用するのが良い」(原文の引用)。何やら難しいように思えますが、実はとても簡単で便利なツールです。
TRIZ についてネットで調べれば、多くの説明が見つかると思いますので、ここでは簡単に「問題(対立する命題)があった時、その解決方法を示唆してくれるツール」としておきます。ロシアの特許技術者 Genrich Altshuller (1946) が 250 万件以上の特許を分析し、特許にはパターンがあることを発見しました。それが TRIZ の始まりです。
パターンとは、すべての特許はたった 40 種類の発明原理から成っており、それら原理はたった 39 種類の矛盾するパラメータの組合せ(例えばパラメータ A を増やしたいけれども、そうするとパラメータ B が減ってしまうというような矛盾)からできているというものです。簡単に言えば、一般的に”問題”と言われるものは、「あちらを立てれば、こちらが立たず」という矛盾であり、この”あちら”がパラメータ A、”こちら”がパラメータ B になります。そして矛盾には 40 の解決方法がある、というものです。
パラメータ A(あちら)とパラメータ B(こちら)は同じ 39 種類のパラメータで、その組合せは 39 x 39 の矛盾マトリックスという表にまとめられています。その表の中に 40 種類の発明原理が収められているので、パラメータ A と B の組合せから、表の中から発明原理を見つけるというのが TRIZ の仕組みです。
「39 x 39 組合せの中から 40 もの発明原理を見つける」と書くと大変そうに思えますが、ネット上には様々なオンライン TRIZ ツールがあるので、それを利用するのが簡単だとと思います。
技術開発の現場では、しばしば TRIZ を使います。DfSS のプロジェクトでは特に Analyze(分析)フェーズで設計コンセプトを探索する際に使います。DfSS にとっては TRIZ は数あるツールの一つで、これといって特別な存在ではありません。
今回は、事務部門でのドキュメント処理の効率化という DMAIC (リーンシックスシグマ)プロジェクトに TRIZ を使ってみました。
その事務部門は、会社の公文書の承認手続を行っており、承認のための必要事項をチェックしています。その際、多くの誤りを見つけるために処理が滞り、またチェックではじかれた文書は著者に戻されるため、文書の手直し・やり直しに多大な時間が割かれることが大きな問題になっていました。つまり「公文書の作成の容易化と承認手続処理の生産性向上」がプロジェクトに課せられた課題となっていました。そこで試しに TRIZ ツールに、以下のような組合せを入力してみました。
「39 生産性の向上」と「32 製造の容易性」
「39 生産性の向上」と「33 操作の容易性」
「39 生産性の向上」と「34 修理の容易性」
つまり、「文章の正確性を高めて承認プロセスを効率化させたいのだけれども、一方で文書の記述も簡単で、文書管理も容易で、しかも修正も簡単に行えるようにしたい」という虫のいい要求です。
その要求に対し、TRIZ ツールは以下のような発明原理を返してきました。
- 1 分割原理
- 2 分離原理
- 7 入れ子原理
- 10 先取り作用原理
- 25 セルフサービス原理
- 28 機械的システム代替原理
- 32 変色利用原理
これを基に、問題解決のためのアイデアをチームで考えました。チームの議論から出てきた案は、次のようです。
- すべてを網羅した一種類のフォームを使うのではなく、用途別に必要な項目だけを記述する簡易フォームを各種用意する。フォーム各種は色も変える。
- 記述説明書とフォームを別に用意するのではなく、フォーム自体に記述説明を載せる。フォームの裏面を記述説明書として使っても良い。
- フォームが完成してから承認処理に入るのではなく、フォーム記述中に文書管理部門のチェックを受けて、手直し・やり直しを防ぐ。
- Q&A やジョブエイドなど、フォーム記述の関...