【SDGs取組み事例】SDGs理念の下、企業と住民が地域課題解決に向け連携 太陽工業株式会社(長野県諏訪市)

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♦「真善美」の考えが人を育む 

太陽工業の社員食堂で開かれたこども食堂

【目次】

    国内製造業のSDGs取り組み事例一覧へ戻る

    SDGs対応が取り引きや会社選びの基準に

     太陽工業(長野県諏訪市・小平直史社長)は自動車関連、オーディオ、医療機器部品などの設計・製造はじめ、最先端技術を用いた金属精密プレス加工、表面処理など、精密加工メーカーとして国内外で事業を展開しています。

     同社がSDGsの取り組みを始めたのは2019(令和元)年。それまでの国内企業は世界的認証が得られることから、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)取得を目指す傾向が続いていたが、近年は企業が社会の一員として、法令順守をはじめ環境対策や労働安全、人権擁護(ようご)、社会貢献などを目標とし、株主や従業員、地域社会などのステークホルダー(利害関係者)に対する説明責任を果たして、企業価値を高めることが世界的に求められる風潮に変わってきています。

     同社も戦略の中で「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)としての持続的成長」を掲げ、社会貢献活動を模索する中、長野県が行っていたSDGs登録制度を知り、参加を決めたといいます。同社経営企画部の林道明部長は「特に海外企業と新規取引が始まる際、技術情報より先にSDGsに対する活動などについて求められる機会が増えた」といい、さらに就職活動でも「企業がどのような社会貢献を行っているかといった点を企業選びの基準とする学生が増えてきた。世の中の価値観が変わってきている」と話します。

    資格認定制度を設け社内に周知

     現在、同社では17の目標の内「11・住み続けられるまちづくりを」と「12・つくる責任つかう責任」、「4・質の高い教育をみんなに」を軸に取り組んでいますが、開始当初はSDGsを社員に理解してもらうため、社内研修会や資格認定制度を設け、今では92人が合格(2月2日現在。80点以上が合格)し、家庭などで余っている食材を寄付するフードドライブへの参加をはじめ、社内SDGsアイデアコンテストや地域清掃活動(クリーンウォーク、諏訪湖清掃)などを行っています。同社も「まずは製造業である以上、より小さい環境影響でより大きな価値を創造することを重視している。単に“二酸化炭素を減らしましょう”ではなく、限りある資源を使って、いかに生産性良く価値あるものを作っていくかという考えを念頭に、環境効率の指標を設定し検証しながら、環境負荷を抑えるために厳しい数値を掲げ取り組んでいる」といいます。

    SDGs社内研修会㊧と諏訪湖畔で行われた清掃活動(同社提供)

    【写真説明】SDGs社内研修会㊧と諏訪湖畔で行われた清掃活動(同社提供)

    参加者が楽しみ共感得る「学びの場」に

     次のステージとして同社が臨んだのは「地域課題の解決」。高齢化が進む中、若者が都会に移住してしまうといった“子どもの枯渇”は採用担当の林部長としても大きな懸念材料だったことから、生徒学生らに地域やものづくりの魅力を伝え「地元で働きたい」という意識を持ってもらうため、学校教育へ参画することに決めたそうです。そんな中、家庭など様々な事情から起こる不登校や引きこもりといった社会問題があることを知った同社は、市内で不登校相談や食事・食料支援などを行うNPO「みんなのお家すまいる」と協働し、子どもや親をはじめ、社員や地域住民が参加する「学びの場」を提供し、人材育成や地域課題の解決を目指すことになりました。

     まず、昨年11月に「こども食堂」を開催。イベントには社員や児童・生徒とその親、高校生ボランティアら約100人が参加。同社は社員食堂を提供し、エシカル食事会のほか工場見学、ものづくり・お菓子作り体験などを行ったそうです。食事会では、同法人に食材などを寄付している企業などから提供された材料を使い、カレー作りに励んだほか、金切りばさみを使ったストラップ作りなどを楽しみました。

     イベントを通じ、参加した親からは「うちの子でも、できそうだと感じ、希望が持てた」、「製造業に対する見方が変わった」、「子どもが登校するようになった」などの意見が寄せられ、同社も「働くためには勉強が必要と自覚してもらえるなど、きっかけづくりの一つとなった。参加した全員が楽しみ、共感し合う『学びの場』となった」と手応えを感じているようです。

    昨年11月、参加者全員で楽しんだ「こども食堂」のカレー会㊧と工場見学(同社提供)

    【写真説明】昨年11月、参加者全員で楽しんだ「こども食堂」のカレー会㊧と工場見学(同社提供)

    同社がイベント会場として提供している「テクノロジーセンター輝」(同)

    【写真説明】同社がイベント会場として提供している「テクノロジーセンター輝」(同)

    社員の考え方や価値観に変化

     また、イベントを振り返り「地域課題に協力できたという気持ち以上に、社員が地域の課題を知り活動したことで、考え方や価値観に変化がみられ、主体的に動くようになってきた。参加したことで推進する側と参加者がともに学べる、ただのボランティアではなく“SDGsの理念の下に集まった仲間”という、日頃の業務だけでは体験できない学びの機会が得られた」といいます。

     イベント以外で「『4・質の高い教育をみんなに』に今、一番注目している」という同社では市と連携し、市内の中・高校や短大に出向き、授業の中で地域の魅力やキャリア教育、仕事で得た経験談などを紹介しています。このような活動の結果、授業を受けた生徒が同社に入社したり、インターンシップにもつながるなど「理想的な形」(同社)になってきているそうで、同社も「生徒・学生が進路活動の際『自分たちが暮らす地域に、このような活動を推進している企業がある』と選択肢の一つに加えてもらえればうれしい」と話しています。

     

    企業と住民が一つとなり新しい価値創造

     現在、長野県が設けた「SDGs推進企業登録制度」に参加する企業、法人、団体、個人事業主の数は547(2月16日現在)に上り、同制度に対する関心の高さがうかがえます。同社も「例えば、長野県は自動車の横断歩道停車率が全国1位であったり(諏訪地区であれば)、日本三大奇祭の一つとされる御柱祭は地域住民が一つとなって取り組むなど、人に対する思いやりや人助けのほか、地域の子どもや伝統を守ろうといった意識が強い。このような考えはSDGsの掲げる『誰一人取り残さない』という理念に近く、県民性を反映しているかもしれない」とみています。

     ゴールとなる2030年までに向けた目標について「SDGsの多岐にわたる切り口から自社の活動に当てはめると、弊社として何をすれば課題解決につながるのかが分かってくるため、そこから新しい価値ビジネスを展開したい。その課題解決の積み重ねは結果としてESG経営の実現にもつながってくる。会社をはじめ地域の同志が連携し、ワンチームとして価値を創(つく)っていく、これこそがVUCA時代に打ち勝つ唯一の方法だと確信している」と話しています。

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    ♦「真善美」の考えが人を育む 

    太陽工業の社員食堂で開かれたこども食堂

    【目次】

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      SDGs対応が取り引きや会社選びの基準に

       太陽工業(長野県諏訪市・小平直史社長)は自動車関連、オーディオ、医療機器部品などの設計・製造はじめ、最先端技術を用いた金属精密プレス加工、表面処理など、精密加工メーカーとして国内外で事業を展開しています。

       同社がSDGsの取り組みを始めたのは2019(令和元)年。それまでの国内企業は世界的認証が得られることから、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)取得を目指す傾向が続いていたが、近年は企業が社会の一員として、法令順守をはじめ環境対策や労働安全、人権擁護(ようご)、社会貢献などを目標とし、株主や従業員、地域社会などのステークホルダー(利害関係者)に対する説明責任を果たして、企業価値を高めることが世界的に求められる風潮に変わってきています。

       同社も戦略の中で「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)としての持続的成長」を掲げ、社会貢献活動を模索する中、長野県が行っていたSDGs登録制度を知り、参加を決めたといいます。同社経営企画部の林道明部長は「特に海外企業と新規取引が始まる際、技術情報より先にSDGsに対する活動などについて求められる機会が増えた」といい、さらに就職活動でも「企業がどのような社会貢献を行っているかといった点を企業選びの基準とする学生が増えてきた。世の中の価値観が変わってきている」と話します。

      資格認定制度を設け社内に周知

       現在、同社では17の目標の内「11・住み続けられるまちづくりを」と「12・つくる責任つかう責任」、「4・質の高い教育をみんなに」を軸に取り組んでいますが、開始当初はSDGsを社員に理解してもらうため、社内研修会や資格認定制度を設け、今では92人が合格(2月2日現在。80点以上が合格)し、家庭などで余っている食材を寄付するフードドライブへの参加をはじめ、社内SDGsアイデアコンテストや地域清掃活動(クリーンウォーク、諏訪湖清掃)などを行っています。同社も「まずは製造業である以上、より小さい環境影響でより大きな価値を創造することを重視している。単に“二酸化炭素を減らしましょう”ではなく、限りある資源を使って、いかに生産性良く価値あるものを作っていくかという考えを念頭に、環境効率の指標を設定し検証しながら、環境負荷を抑えるために厳しい数値を掲げ取り組んでいる」といいます。

      SDGs社内研修会㊧と諏訪湖畔で行われた清掃活動(同社提供)

      【写真説明】SDGs社内研修会㊧と諏訪湖畔で行われた清掃活動(同社提供)

      参加者が楽しみ共感得る「学びの場」に

       次のステージとして同社が臨んだのは「地域課題の解決」。高齢化が進む中、若者が都会に移住してしまうといった“子どもの枯渇”は採用担当の林部長としても大きな懸念材料だったことから、生徒学生らに地域やものづくりの魅力を伝え「地元で働きたい」という意識を持ってもらうため、学校教育へ参画することに決めたそうです。そんな中、家庭など様々な事情から起こる不登校や引きこもりといった社会問題があることを知った同社は、市内で不登校相談や食事・食料支援などを行うNPO「みんなのお家すまいる」と協働し、子どもや親をはじめ、社員や地域住民が参加する「学びの場」を提供し、人材育成や地域課題の解決を目指すことになりました。

       まず、昨年11月に「こども食堂」を開催。イベントには社員や児童・生徒とその親、高校生ボランティアら約100人が参加。同社は社員食堂を提供し、エシカル食事会のほか工場見学、ものづくり・お菓子作り体験などを行ったそうです。食事会では、同法人に食材などを寄付している企業などから提供された材料を使い、カレー作りに励んだほか、金切りばさみを使ったストラップ作りなどを楽しみました。

       イベントを通じ、参加した親からは「うちの子でも、できそうだと感じ、希望が持てた」、「製造業に対する見方が変わった」、「子どもが登校するようになった」などの意見が寄せられ、同社も「働くためには勉強が必要と自覚してもらえるなど、きっかけづくりの一つとなった。参加した全員が楽しみ、共感し合う『学びの場』となった」と手応えを感じているようです。

      昨年11月、参加者全員で楽しんだ「こども食堂」のカレー会㊧と工場見学(同社提供)

      【写真説明】昨年11月、参加者全員で楽しんだ「こども食堂」のカレー会㊧と工場見学(同社提供)

      同社がイベント会場として提供している「テクノロジーセンター輝」(同)

      【写真説明】同社がイベント会場として提供している「テクノロジーセンター輝」(同)

      社員の考え方や価値観に変化

       また、イベントを振り返り「地域課題に協力できたという気持ち以上に、社員が地域の課題を知り活動したことで、考え方や価値観に変化がみられ、主体的に動くようになってきた。参加したことで推進する側と参加者がともに学べる、ただのボランティアではなく“SDGsの理念の下に集まった仲間”という、日頃の業務だけでは体験できない学びの機会が得られた」といいます。

       イベント以外で「『4・質の高い教育をみんなに』に今、一番注目している」という同社では市と連携し、市内の中・高校や短大に出向き、授業の中で地域の魅力やキャリア教育、仕事で得た経験談などを紹介しています。このような活動の結果、授業を受けた生徒が同社に入社したり、インターンシップにもつながるなど「理想的な形」(同社)になってきているそうで、同社も「生徒・学生が進路活動の際『自分たちが暮らす地域に、このような活動を推進している企業がある』と選択肢の一つに加えてもらえればうれしい」と話しています。

       

      企業と住民が一つとなり新しい価値創造

       現在、長野県が設けた「SDGs推進企業登録制度」に参加する企業、法人、団体、個人事業主の数は547(2月16日現在)に上り、同制度に対する関心の高さがうかがえます。同社も「例えば、長野県は自動車の横断歩道停車率が全国1位であったり(諏訪地区であれば)、日本三大奇祭の一つとされる御柱祭は地域住民が一つとなって取り組むなど、人に対する思いやりや人助けのほか、地域の子どもや伝統を守ろうといった意識が強い。このような考えはSDGsの掲げる『誰一人取り残さない』という理念に近く、県民性を反映しているかもしれない」とみています。

       ゴールとなる2030年までに向けた目標について「SDGsの多岐にわたる切り口から自社の活動に当てはめると、弊社として何をすれば課題解決につながるのかが分かってくるため、そこから新しい価値ビジネスを展開したい。その課題解決の積み重ねは結果としてESG経営の実現にもつながってくる。会社をはじめ地域の同志が連携し、ワンチームとして価値を創(つく)っていく、これこそがVUCA時代に打ち勝つ唯一の方法だと確信している」と話しています。

       また、SDGsを通して「『真善美』の考え方が人を育む」と考えている同社は「自身の仕事が『世のため、人のため』にもなっていると認識できることは大きな意義があり、それは社員の働きがいや意欲にもつながる。特にミレニアル世代といわれる若者たちは社会との接点を模索している傾向が強くあるため、仕事を通して社会に貢献できることを誇りと思えるような、社員のエンゲージメント向上にもつながれば」と語ってくれました。

      記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂


      【用語説明】

      • フードドライブ:家庭で余っている食品を集め、フードバンク団体や福祉施設などに寄付する活動
      • エシカル:「倫理的な」、「道徳上の」といった意味。近年は環境や社会に配慮していることを指す形容詞として使われる。
      • ESG経営:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った3要素を指す。企業が長期的な成長を遂げるため、この3分野に配慮した経営スタイルをいう。
      • VUCA:ビジネス環境や市場、組織、個人など全てを取り巻く環境が変わり、将来予測が困難になっている状況を意味する造語。「Volatility:変動性」、「Uncertainty:不確実性」、「Complexity:複雑性」、「Ambiguity:あいまい性」という、4つの単語の頭文字から成る。
      • エンゲージメント:「深い関わり合いや関係性」を意味するが、企業活動で使う場合、従業員の愛社精神や企業に対する愛着のほか、顧客が企業やブランド、サービスなどに抱く愛着を指す。

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