マングローブの植林を通じ「驚きと感動」が作り出す環境保護への思い
カネパッケージ株式会社(埼玉県入間市)
目次
1.「空気をきれいにする夢のパッケージ」のご提案
2.目標は“ゼロカーボン”:グループ売り上げの0.1%を植林活動費用に
3.CO2排出量の削減:徹底した軽量化とダウンサイジング、省資源化を追求
4.バイオマスプラスチック「プラシェル」で資源の再利用
5.社内外で環境保全教育に尽力
6.マングローブ植林を通じて育まれた地域貢献への高まり
1.「空気をきれいにする夢のパッケージ」のご提案
カネパッケージ株式会社(埼玉県入間市・金坂良一代表取締役社長)の創業は1976(昭和51)年。主に精密・医療機器の輸送に使われる各種衝撃材・梱包材(段ボール製)の開発設計・試作評価を行い、トータルの梱包設計並びに物流設計提案を行っています。また、同社ではコア技術である緩衝設計を駆使し、衝撃材などのダウンサイジング、省資源化、物流改善を図るなど、徹底した環境負荷低減への取り組みが進められています。本社では設計と開発に特化し、製造は取引先に近い、現地のサプライヤーに発注。関連会社と提供し、物流コストやCO2の削減を目的とした「空気をきれいにする夢のパッケージのご提案」をモットーに事業活動(国内外25拠点)を推進しています。
2.目標は“ゼロカーボン”:グループ売り上げの0.1%を植林活動費用に
「2030年に向けた達成目標は“ゼロカーボン”」。そんな同社のCSRやSDGsにつながる起点となったのは1996(平成8)年。主要顧客だった大手電機(家電)メーカーの生産拠点移転(フィリピン)に伴う、同社初の海外工場進出でした。今では、フィリピンを中心にベトナム、タイ、インドネシア、香港、メキシコに展開、同社売上の約8割を占める海外事業ですが、発拠点となったフィリピンでは納期遅れや品質問題など課題も山積していたため、金坂社長(2000年当時の役職は、カネパッケージフィリピン社社長)が現地で指揮を執り、技術ノウハウの提供をはじめ、現地で品質管理と生産を行うと同時に、技術力・品質向上や人材育成ほか、雇用創出を進めるなど、永年にわたる地道な取り組みを続けたそうです。
金坂社長帰国後の2007(平成17)年、フィリピンやタイなどでエビの養殖を目的としたマングローブの乱伐が行われていることを知った金坂社長は、梱包材が森林資源を使用していることから、同社の事業を通じて排出されるCO2のオフセット(ゼロカーボン)とフィリピンへの恩返しを目的に、2009(同19)年から同国自然保護区内における森林保全活動として、マングローブの植林を開始しました(目標:7、13、14)。
植林は単に本数を増やすだけでなく生態系に沿った形で行われ、活動には同社グループ全体売り上げの0.1%を充て、これまでに同国の5島で約1,200万本(2021年9月現在)の植林が行われ、年間約24,000トン-CO2の二酸化炭素を吸収しています。植林には全従業員(契約社員、パート含む)はじめ、最近では取引先などにも参加を呼び掛けています。
【写真説明】生態系に沿った形でマングローブの植林を行う同社従業員(同社提供)
また、大手飲料メーカーと共同で「空気を綺麗(きれい)にする夢の自動販売機」を埼玉県内や取引先企業に設置し、販売収益をマングローブ植林の費用に充てています(目標:9、13、14)。同社によると、例えば清涼飲料水10本でマングローブ1本(年間約5kgのCO2を吸収)の植林が可能となり、同飲料水を1ケ月間に100本購入すると年間約6tのCO2削減が可能ということです。
また、植林以外の地域貢献では2011(同21)年からオランゴ島とバナコン島(2013年)ほか、2016(同28)年にはタンハ市とオランゴ島(2016年)に幼稚園(3棟)と小学校(1棟)を建設。現地教育施設の普及に努める一方、安全安心な水の供給を目的とした淡水化装置をバナコン島に寄付し、同園完成時には、金坂社長が出向き、園児らに『忠犬ハチ公』の紙芝居を披露しているそうです(目標:4、11、12、17)。さらに2017(同29)年のメキシコ大地震の際は金坂社長自らが現地に向かい、物資(毛布、マットレス、水、食糧、子供用玩具等)を手渡すなど被災地住民らを支援。進出国との関係構築や支援に努めています(目標12、15)。
【写真説明】同社拠点のフィリピンに建設された保育園で学ぶ子どもら㊧と小学校校舎寄贈式のようす(写真右は金坂社長・同社提供)
【写真説明】バナコン島に設置された淡水化装置㊧とメキシコ大地震の被災地での支援活動のようす(同社提供)
3.CO2排出量の削減:徹底した軽量化とダウンサイジング、省資源化を追求
「創業時から続く『いかに包装材を無駄なく、材料も最小限に、かつコンパクトにするか』が、当社ビジネスの根幹」という同社。取引先からの「今後、発泡材は使用しない」という方針転換をきっかけに、それまで続けてきた発泡材(ポリエチレン・PE)から段ボール製緩衝材への切り替えを余儀なくされた同社ですが、変更可能となるよう設計を見直し、徹底した軽量化とダウンサイジング、省資源化を追求。さらに流通条件に合わせた落下・振動試験など試行錯誤を繰り返した結果、現在では最適な梱包と物流時における混載や運航頻度のムダなどを改善し、CO2排出量の削減に努めています。
このほか、同社設計の段ボール製プロテクターの中に生卵を入れ、高度200mから落とした実験(2013年)では、プロテクター内の生卵は割れず、その設計力の高さが評価されています。これら設計技術は、日本パッケージングコンテストにおいても評価され、2014(同26)年から4年連続で適正包装賞(大型医療支援ロボット)、ロジスティック賞(AIロボット)などを受賞しています。
また、同社では有害化学物質の管理のため、他社に先駆け2007年から蛍光X線分析装置を導入。全拠点でRoHS(特定有害物質使用制限指令)指令に対応した検査・納入が行われています。
【写真説明】同社設計の段ボール製プロテクター㊧と製品(AIロボット)用パッケージ(同社提供)
4.バイオマスプラスチック「プラシェル」で資源の再利用
一方で創業時からプラスチック材料も扱っていた実績を基に、廃プラスチック類といった再生可能材料を活用した物流パレットなどの開発も進められています。その中でも、注目された取り組みが卵殻など60%(卵殻55%、卵殻抗菌剤5%)を使用したバイオマスプラスチック「プラシェル」です(目標9:12)。これは同社と埼玉県内に事業所を持つ2社が共同で開発したもので、既存の工程と金型の流用が可能。射出成型機で食器や箸(はし)、スプーンなどさまざまな形に加工できるため、新たな設備投資も不要となります。この取り組みは「エコ玉プロジェクト」と銘打ち、県内外に展開され現在、備品などの買い替えをする際、プラシェルの導入を行うことに同意した企業46社が参加しています。同社の高村賢二常務取締役も「目標は100社」と話しています。
このほか、卵殻10%配合の名刺「カミ(紙)シェル」や紙ファイルの製造に続き、コロナ禍では大手飲料メーカーと共同で茶殻を配合したマスクケースほか、段ボール製の飛沫(ひまつ)防止パーテーションを考案。マスクケースは同市が買い取り、市内の飲食店に配布されたほか、パーテーションは市内小中学校に提供されています。
【写真説明】同社が地元小学校に提供した段ボール製の飛沫防止パーテーションを使い、授業を受ける子供たち(同社提供)
5.社内外で環境保全教育に尽力
これらSDGs活動に取り組む同社ですが、座学を通じた環境保全教育にも注力しています。2018(同30)年には、マングローブ群落の再生に向け研究を行っていた同社従業員が博士号を取得したほか、東京商工会議所主催の「環境社会検定試験(eco検定)」にも積極的に参加。全従業員が合格に向け、社内勉強会を行うなど全社を挙げ、環境改善に対する取り組みが進められています。
また、社外活動では、2021年度に「カネパッケージマングローブ奨学金」(公益財団法人埼玉県国際交流協会主催)を設立。REDD+[1]やカーボンオフセットなどに関心を持つ埼玉県在住大学生などを対象に奨学金(55万円)が支給されます[2]。このほか、地元小学校ではマングローブの生態などについて公開授業を実施し、VR(Virtual Reality)技術を使い、自然環境と子どもたちの生活との関わりについて、事例を交えながら説明がされたということです(...