【SDGs取り組み事例】多文化共生と女性活躍推進に注力 株式会社ヤマヲ(東京都立川市)

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今年、創立70周年を迎え、麺(めん)類、パスタ類の弁当や惣菜などを製造する株式会社ヤマヲ(代表取締役社長 岡部栄一氏)では、多文化共生や女性活躍推進を目標に、従業員教育や快適な職場環境づくりに力を入れています。同社の取り組みを紹介します。

【目次】

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    高い外国籍従業員比率、DE&Iで多文化共生企業へ

    同社は1942年、前身となるヤマヲ岡部商店(個人商店)として創業、戦時中の一時製造中断後は食料受給改善施策の一環として政府から製麺委託工場の指定を受け、乾麺製造を再開。1954年に有限会社ヤマヲを、1974年に株式会社ヤマヲを設立し、今年70周年を迎えました。現在は、コンビニエンスストアで販売される麺類、パスタ類などの弁当や総菜など、1日約40種類・5万~12万食が製造されています。
    SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みは、2016年に米・ニューヨークの国際連合本部で開かれた日本青年会議所主催の国際事業の席にて。岡部社長が、SDGsを構成する「目標を設定し、ゴールを目指す」といった内容と外国人従業員が多い中での同社の目標が馴染みやすいと考えたことから始まります。2017年、社の目標の中にSDGsを取り入れ、多文化共生をはじめ、健康投資や女性活躍、カーボンニュートラル、食品ロス削減を進めてきました。また2022年にそれらを一元化して対応に当たるサスティナビリティ推進部を立ち上げました。
    SDGsへの取り組み以前から外国人従業員との共生に力を入れてきた同社ですが、2017年からベトナム技能実習生を、2019年からは特定技能生の受け入れを開始。現在、ベトナムの技能実習生及び特定技能の合計が240名を超え、自社従業員450人のうち外国人の割合が78%となっています。また女性比率は56%です(派遣従業員を含めると全従業員650人中、外国人の割合が83%、女性比率は64%)。

    写真説明】1998年に設立された現社屋(左)と社員の皆さん(同社提供)

    女性活躍の推進向上にボトムアッププロジェクトチームを運用

    ・2025年プラチナえるぼし認定の取得に向けて

    同社では2019年から、社員の主体性を重視し、部署を越えた横の繋がりを強化することを目的に、労働安全や衛生管理、人材育成、デジタル化推進(作業の効率化)、品質向上の、計6つのプロジェクトを開始。52人の正社員が各プロジェクトに配置され、現在取り組みを進めています。
    なかでも、女性活躍の機運向上をテーマとするプロジェクト「ニコニコプロジェクト」では、女性の働きやすい職場づくりに向けた活動を行っています。
    主な活動内容は①女性の悩みについて聞き取るアンケートの実施②女性のホルモンバランスやハラスメントに関する講習会の開催③健康(体の不調)や食事(栄養)などに関する社内掲示の実施(月1回)④女性活躍推進法の周知⑤女性だけの意見交換会の実施などです。まだ、有給休暇取得や女性管理職の比率など、乗り越えなければならない課題はありますが、当面は「2025年プラチナえるぼし認定の取得」[1]を目標に取り組みが進められています。

    写真説明】左から、国際女性デーに配られたキャンディ、女性が活躍する商品開発の様子、ニコニコプロジェクトが、3ヵ国語で月に1回発行する「ニコニコ通信」(同社提供)

    ・新人育成に注力「世界一挨拶のできる会社」へ

    一方、人材育成プロジェクトでは新人教育の強化に努めています。「教育に強い企業を目指したい」と話す同社。これまでは、既成のビデオを使った講習会だけ行われていましたが、教育方法を大幅に変更。従業員共通の知識や各部署で配属後に必要となるノウハウなどをタブレットに収め、計20日間にわたった個別教育が行われます。学習後はミニテストによる効果の確認まで行い、合格して初めて新人を卒業したものと判定されます。これら取り組みを始めた効果は大きく「各人員が自身の責任を理解した上で作業に当たるようになったため、自社由来のミスによる顧客からの申し出が激減したほか、工場の中もクリーンな状態が保たれるようになった。また、個々の動きも活き活きとし、輝いて見える」と評価しています。「あいさつが元気にできる会社」は今も外部の方から評価を得ています。

    ・社内に日本語学校設け、職場のダイバーシティを推進

    外国籍従業員に対しては、社内に自社講師による日本語学校を設けており現在、日本語検定の1級資格を持った従業員が1名、2級の従業員が13名在籍します。また外国籍の社員が14名採用されており、新人教育テストや動画・新聞作成の際、翻訳(ベトナム語、ネパール語)を担当、社内のルールを標準化して誰でも理解できるようになっています。このほか、社内で問題が発生した際や必要な情報は、デジタル推進部と連携し、注意喚起や改善に関する動画を作成、社内モニターや掲示などを使い、周知に努めています。
    また、寮生活をするベトナム籍従業員のため、文化の違いから近隣トラブルがないよう、生活面での細かな指導が行われています。特に若い女性が多く、母国とも離れて生活していることから交換日記を使ったメンタルケアや通院時の付き添いといったサポートを行っているほか、コーポレートパートナー契約を結ぶJリーグJ1・東京ヴェルディの試合観戦やサッカーチーム(ベトナム籍)への補助、バーベキューなどを開き、親睦を深めています。
    これら様々な取り組みを続けた結果、同社ホームページを見て「女性が活躍できる環境で働きたい」との動機から就職を希望する求職者が増えています。また、今年度は新卒の女性社員も入社。女性活躍推進を続けてきた成果として全社を上げて歓迎し、ともに成長していけることを楽しみにしています。

    写真説明】日本語学校で外国籍従業員に対して行われる社内教育の様子(左・中央)と、ベトナム人従業員で結成されたサッカーチーム(同社提供)

    食品廃棄は切実な問題

    ・CO2削減へ製造設備の更新とエネルギー消費の少ない製造計画

    カーボンニュートラルへの活動では「2025年までに、CO2排出量を、2018年比で8%削減」を目標としています。工場では製麺機や茹(ゆ)で麺機など大型機械が作動し、大量の電気やガス、水を消費するため、節電をはじめ、CO2排出量の少ないボイラー等設備の更新を行い、製造管理によって、エネルギー消費の少ないスケジュールを立てています。また、日商エネルギー環境ナビの「地球温暖化対策行動宣言」に登録。電力デマンド[2]を監視することで、無駄な電力の削減にも努めています。

    写真説明】自動茹麺機(左)と使用電力量を「見える化」することで、工場の省エネ活動を推進(同社提供)

    ・見込み生産に変わる仕組みを

    調理の過程で発生した野菜の不可食部などは100%がリサイクルに回されていますが、コンビニからの受注数が確定するまでのタイムラグで、先行して作るために発生した余剰食品は使用期限の関係で大量に廃棄対象となってしまいます。さらに、週ごとの新メニュー変更によっても、不要になる業務用の材料が処分の対象に。食品の無駄(製造ロスや廃棄ロス)は、社会的にも大きな問題となっていますが、「安心安全の担保は重要だが、食料不足や飢餓対策の為に、仕組みの改善をフードチェーン全体で考えていかなければならない」と考えています。

    エンゲージメント調査で課題を見える化

    同社では「従業員みんなを巻き込まなければ、取り組みは進まない」との考えからエンゲージメント調査を始めました。第一回の内容はワークインライフ(「人生の中の仕事」という考え方)、多文化共生、健康経営、女性活躍推進、カーボンニュートラル、食品ロスの6テーマにおいて、50項目からなるアンケートを行うというもの。集計の結果、日本語学校の取り組みとカーボンニュートラルに対する共感度が高かった一方、メンタルヘルスの相談窓口や高齢者に対する配慮については、共感度が低い傾向に。「徐々に浸透してきているが、低かった項目は今後の課題として取り組みを進め、従業員のエンゲージを高めていきたい。まだ始まったばかりだが、何かが変わってきたという意識が従業員の表情に徐々に見られるようになってきた」と実感があるとのこと。
    今後について「えるぼし認定のプラチナ取得のほか様々な認定の上位を目指し、SDGs目標の達成に向け、取り組みを進めていきたい。また生きがいと働きがいが共存する会社となることで職場環境に還元されるだけでなく、地域にも貢献できて社会を変えていけるそんなロールモデル企業となることを目指しています」と語ってくれました。

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    記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂


    【用語解説】

    [1] プラチナえるぼし認定:2020年6月から、えるぼし認定マークの上位認定版として設けられた。「えるぼし」取得企業の中でも、特に優良な企業を認定する制度。えるぼしマーク取得に必要な条件として、女性管理職の比率向上や非正規から正社員への雇用転換など、5つの評価項目を満たさなければならない。
    [2] 電力デマンド:デマンド時限すなわち、30分間という区切られた時間での平均使用電力(kW)のこと。一定期間のうち最も高かったデマンド値が、最大デマンド値(最大需要電力)となる。


    会社概要
    株式会社ヤマヲ
    所在地:東京都立川市
    HP:http://www.yamawo.co.jp/


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