◆ MT法などを活用した故障予測
(1)洗濯機のモータ
工程や製造装置ではMT(マハラノビスタグチ)法などのAI手法を活用した故障予測が一般的になってきました.
私もF社時代に半導体プロセスのある製造装置の部品の故障予測の体制構築をMT法で支援したことがあります.その狙いは,ある高価な部品の交換サイクルを適正化することによってダウンタイムを最少に維持しながらコストダウンを達成することにありました.
それ以前までその部品は定期交換対象となっており,劣化によって機能を失うよりもだいぶ前に交換していたのです.まだ十分に機能している部品を交換してしまうのは無駄と言えます.理想は機能を失う寸前まで稼働することです.それによって自社のコストダウンだけではなく資源の有効利用という意味での総合的な損失を減らすこともできます.
一方,一般家庭で使われる家電製品はどうでしょうか.
家電製品は,故障予測の機能がないのが普通ですが,機能が失われたときの損失は決して小さくないということを実感したのです.実は我が家の洗濯機が故障してしまった時のことです.近くの家電量販店で新しい洗濯機を購入したのですが,取り付け工事までに1週間も待たなければならなかったのです.その間はコインランドリーか手洗い...
もし,このモータが機能を失っていたら毎日コインランドリー通いだったでしょう.コインランドリー通いはそれなりに時間がかかるので無視できない損失が発生します.それでも洗濯機なら時間的な損失を許容すれば対応可能ですが,猛暑の中でエアコンが故障してしまったらと考えると話は別です.もし新品の取り付けまで1週間もかかるようなことがあれば熱中症のリスクが高まってしまいます.それは大きな損失ですから,もしすぐに新品交換できない状況が想定されるのであれば,故障予測機能をつける価値もあるような気もしました.故障を前提にすることが建前上は難しいかもしれませんが.あるいは業務用のMFP(マルチファンクションプリンター)のように故障したらすぐにサービス対応する体制を構築することが必要かと思います.
(2)Blu-ray Disc
洗濯機と同様に光ディスクでも再生不能になる前にそれを予測できればメリットがあると思います.
カセットテープやVHSビデオのようなアナログ製品であればテープの劣化に伴って画質も悪化するので再生が困難になる機能限界までの時間をある程度感覚的に予測することができました.ところがDVDやBlu-ray`などのデジタル製品はエラー訂正という機能があるため,基板にキズがついたりほこりが付着しても,ある一定のレベルまでは再生エラーを訂正して元通りの正しい情報を再現してくれるので,お客様はキズやほこりの増加に気が付きません.そしてキズやほこりの付着がある一定のレベル以上となってエラー訂正の限界を超えると突然再生不具合が発生するのです.
つまり機能限界まで機能を正常に維持してしまうのでお客様の感覚としては突発的に壊れたように感じてしまうのです.実際にはキズやほこり付着の量はだんだんと増加するケースがほとんどで,それに伴ってエラーも増加していきます.そのエラーの増加を見える化することは技術的に可能です.それをBlu-rayプレーヤーの新しい機能として搭載すれば便利かと思います.Discが再生不能になる前にそれを知らせてくれればその時点でバックアップを取るなどの対応ができるのですが.そもそもCDやDVDなどの光ディスクはバックアップ媒体でした。
【出典】QECompass HPより、筆者のご承諾により編集して掲載
◆[エキスパート会員インタビュー記事] 品質工学の魅力とその創造性への影響(細川 哲夫 氏)