発達ロボティクスの視点から見たロボット基盤モデル

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    ロボティクスと未来:急速に進む機械とAIの融合

    早稲田大学工学部表現工学科教授  同大次世代ロボット機構 AIロボット研究所 所⻑ 尾形 哲也 氏

    π0が残したインパクト:乾燥機から衣類を取り出して畳む

    機械とAIの融合はこの2、3年で急速に進んでいる。移動ロボットを例に挙げると従来の制御は全く使われず、強化学習といわれるシミュレーションの中における学習のみで作動している。また、スイス・連邦工科大学のマルコ・フッター教授らのグループが開発した技術が市民化したことで、学生でも簡単に再現することが可能になった。バランス制御だけであれば、20年ほど前に、日本でも多くの二足歩行ロボットが作られたが、今ではほとんどのプロジェクトは解散し、事業化されたことはなかった。
    なぜならば「歩く」、「走る」、「階段を登る」など、バランス制御の部分では問題はなかったが、人間型ロボットに期待されていた「人間とコミュニケーションを交わしながら、物理世界に対し働き掛ける」という作業面がクリアできず、最大の問題として残されてしまった。ただ、昨年11月に発表されたロボットAI基盤モデル「π0(パイゼロ)」のように、乾燥機から衣類を取り出し、畳むといった作業は、ロボットを人間が操縦することで集めた膨大なデータを学習させ、実現に至っている。衣類など柔軟物がロボットの外側にある場合、シミュレーション環境における学習だけでは作動させることは難しく、実現には1万時間にもおよぶデータを集めている。このように、大量のデータによって事前学習したモデルを作っておき、実世界に合わせてファインチューニング(追加学習)することがロボットでも機能することが証明された。1万時間は人間に例えると、寝ず食わずの状態で1年以上活動しているようなもの。ここまでのデータが本当に必要かという、議論があるにせよ実際にデータを集め、作業...

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    【目次】

      ロボティクスと未来:急速に進む機械とAIの融合

      早稲田大学工学部表現工学科教授  同大次世代ロボット機構 AIロボット研究所 所⻑ 尾形 哲也 氏

      π0が残したインパクト:乾燥機から衣類を取り出して畳む

      機械とAIの融合はこの2、3年で急速に進んでいる。移動ロボットを例に挙げると従来の制御は全く使われず、強化学習といわれるシミュレーションの中における学習のみで作動している。また、スイス・連邦工科大学のマルコ・フッター教授らのグループが開発した技術が市民化したことで、学生でも簡単に再現することが可能になった。バランス制御だけであれば、20年ほど前に、日本でも多くの二足歩行ロボットが作られたが、今ではほとんどのプロジェクトは解散し、事業化されたことはなかった。
      なぜならば「歩く」、「走る」、「階段を登る」など、バランス制御の部分では問題はなかったが、人間型ロボットに期待されていた「人間とコミュニケーションを交わしながら、物理世界に対し働き掛ける」という作業面がクリアできず、最大の問題として残されてしまった。ただ、昨年11月に発表されたロボットAI基盤モデル「π0(パイゼロ)」のように、乾燥機から衣類を取り出し、畳むといった作業は、ロボットを人間が操縦することで集めた膨大なデータを学習させ、実現に至っている。衣類など柔軟物がロボットの外側にある場合、シミュレーション環境における学習だけでは作動させることは難しく、実現には1万時間にもおよぶデータを集めている。このように、大量のデータによって事前学習したモデルを作っておき、実世界に合わせてファインチューニング(追加学習)することがロボットでも機能することが証明された。1万時間は人間に例えると、寝ず食わずの状態で1年以上活動しているようなもの。ここまでのデータが本当に必要かという、議論があるにせよ実際にデータを集め、作業させた点では非常に強いインパクトを残した。

      衣類を畳むロボット(尾形氏提供)

      写真説明】衣類を畳むロボット(尾形氏提供)

      実際にロボットはモデルを作り制御するのではなく、大量のデータを集めることで様々な作業が可能になるだろうということは、ディープラーニングが出てきた段階で容易に想像ができた。まさに今、そういう時代が到来してきたと感じている。ただ、無闇にデータを多く集めれば良いというものではなく、ロボットで集めたデータは、ロボット個々の体の作り方により、意味合いが変わるため、数千にも及ぶ一つのタスクにおいて、その一回に対する定義付けなど調整が難しい面もある。

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       生成AI:自由エネルギー原理とAI

      発達ロボティクスは、昨今のディープラーニングブーム以前から日本を中心に行われてきたが、人間を知るに当たり、人間の行動観察や脳を分析するのではなく、ロボットや計算モデルによるシミュレーションを駆使して人間を理解しようという分野だ。例えば、赤ちゃんに備わっている筋肉や神経の配線、もしくはそこで最も自然に行われる最もシンプルな学習メカニズムといったものを通じ、生まれてくる複雑な行動を理解しようという研究領域で、現在は欧州でも研究が進んでいる。脳科学全てが使えるわけではないが、その中のエッセンスが今後、AIの中に利用できる可能性も十分にあると考えている。最近は、生成AIでも行動とそれに対するレスポンスを行っている最中に学習を重ね、その観察や情報から結論を導くといった脳の自由エネルギー原理と類似した考え方が出てきている。少し前までは、膨大なデータで学習させれば良いと言われていたが、今はChatGPTのように、高速に推論を掛けることで出力結果をより良くして行くことができるといった考え方が注目されている。これは、脳の考え方に影響されたともいえるが、まさにこのような2つの知的システムの方向性というのは似てきている。

      自由エネルギー原理(同氏提供)

      図説明】自由エネルギー原理(同氏提供)

       現在のトレンド:大規模な基盤モデルとロボットとの連携

      これは、10年ほど前にタオルを畳むというタスクをニューラルネットワークで実施した時のものだが、一つのタスクに人間が50回の操作を行った。まさに、生成AIの考え方で今、見ている画像から次に起こるであろう将来の画像をリアルタイムに生成していく。その生成する対象は、画像だけではなく、自身の移動となる。これは全く同じメカニズムで生成できるわけだが、予測できたということは、生成できたということと同じといえる。この際に重要なのが、リアルタイムに推論していくというプロセスだ。50回の操作では、学習としては完璧にならないが、その予測誤差を意識しながら推論を繰り返すことで、自身の関節角度の変化、つまり仮想の知覚を修正することで運動が調整され、タオルを畳むとことができた。これら技術は、今では産業用ロボットに応用され、実際にラインでも利用されている。

      写真説明】深層予測学習のデモより(同氏提供)


      基盤モデルにおける現在のトレンドは、Open-X Embodiment Datasetを基にRT-Xモデルを開発。100万種類のデータセットを集めたことで「ICRA2024」においてベストペーパーを取っている。データは人間が集めることが本質と考えるが、作業も大変なため事前に3Dの物体を使い認識させたあと、ターゲットとなる本物の物体を学習させることで、より高い認識精度を出すことができる。実際、事前学習したことに対し、新たな学習を加えると矛盾が生じることもあるため、簡単には進まない点もあるが、人間の学習や発達というものは、これを自然に実現できている。
      最新の研究では、事前にモーターバブリングを行い、そのあと対象となるタスクデータを使用し、追加学習をさせることで、データ数を減らすことができるのではないかとの推論の下、実験を行った結果、一部のタスクで汎化パフォーマンスの向上が確認された。つまり、少ない学習回数であっても事前学習、つまり直接タスクと関係ない仕事をさせていている方が実を言うと成功率が上がってくる事が分かった。
      このほか、オンデマンド配信では、国立研究開発法人産業技術総合研究所で進められている活動や内閣府主導のプロジェクト「ムーンショット」における研究内容などについても紹介しているので、興味を持たれた方は、オンデマンド配信を視聴してほしい。

      次ページ「半導体業界の最新動向とAIデータ活用」合同会社アミコンサルティング セミビズ変革アドバイザー 友安 昌幸 氏

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