特許侵害訴訟のリスク事例(サトウの切り餅) 後編

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3.争いを防止するにはどうすればよいか

 さて、前編で説明した状況の下で、サトウ食品の立場から、どうすべきであったか、また、これからどうすればよいか考えたいと思います。

 上述しましたように、最先端技術だけではなく、餅のような身近な製品でも訴えられる場合があります。訴えられた場合には、損害賠償額は膨大なものとなり、訴訟費用も膨大となります。

 したがって、常日頃から適切なリスク管理を行う必要があることはいうまでもありません。例えば、以下のような対策を実施してみてはいかがでしょうか。

 

(1)パテントクリアランス調査の実施

 パテントクリアランス調査とは、製品を市場に出す前に他社の権利を侵害していないか調査することをいいます。パテントクリアランス調査を実施することにより、上市した後に他社から訴訟を起こされるリスクを低減することができます。

 調査の方法としては、例えば、特許電子図書館(URL:http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl )を使用して製品に関連する他社の特許権を検索することが考えられます。

 ただし、侵害の判断には専門的な知識が必要となりますので、判断が難しい場合には弁理士に鑑定を依頼するとよいでしょう。

 

(2)定期的な競合他社特許の調査

 お餅の業界では、特許権を取得せずに、得た知識や技術は業界全体に還元するという慣習があったという話も聞きます。ただし、慣習があるからと安心とした場合には、本件のように不意打ちを受けることになります。 

 ここで、越後製菓とサトウ食品の過去の特許出願動向を見てみたいと思います。

 青線が越後食品であり、赤線はサトウ食品を示します。図のように、サトウ食品は、例年0~2件の出願となっております。一方、越後製菓は1997年に10件、1998年に18件の出願を行い、出願件数を急増させています。したがって、この付近で越後製菓の出願戦略に大きな変更があったと推測されます。

 このように、競合他社の出願動向を継続的に調査することにより、訴訟リスクの高まりを早期に察知できます。調査の方法としては、特許電子図書館を使用して、年1、2回程度定期的に調査を行えばよいと思います。

 

(3)自社技術の特許権化

 下図は、越後製菓とサトウ食品の特許権の件数を技術分野(Fターム)別に示したものです。

 図のように、全体として越後製菓の特許権の件数は多く、サトウ食品とは特許権の件数で大きな差が生じています。

 切り餅は、縦軸の上から3番目の技術分野(Fターム:4B023 LE23 ・餅)となりますが、特許権の件数は越後製菓が9件に対してサトウ食品が2件となっております。したがって、この分野でも特許権の件数に大きな差があります。

 

 特許権の件数に差が無い場合には、互い威嚇・牽制し合うため訴訟となりにくく、また、訴訟が提起された後でもクロスライセンスという手段がとれますので、和解に持ち込める可能性も高まります。

 一方、特許権の件数...

3.争いを防止するにはどうすればよいか

 さて、前編で説明した状況の下で、サトウ食品の立場から、どうすべきであったか、また、これからどうすればよいか考えたいと思います。

 上述しましたように、最先端技術だけではなく、餅のような身近な製品でも訴えられる場合があります。訴えられた場合には、損害賠償額は膨大なものとなり、訴訟費用も膨大となります。

 したがって、常日頃から適切なリスク管理を行う必要があることはいうまでもありません。例えば、以下のような対策を実施してみてはいかがでしょうか。

 

(1)パテントクリアランス調査の実施

 パテントクリアランス調査とは、製品を市場に出す前に他社の権利を侵害していないか調査することをいいます。パテントクリアランス調査を実施することにより、上市した後に他社から訴訟を起こされるリスクを低減することができます。

 調査の方法としては、例えば、特許電子図書館(URL:http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl )を使用して製品に関連する他社の特許権を検索することが考えられます。

 ただし、侵害の判断には専門的な知識が必要となりますので、判断が難しい場合には弁理士に鑑定を依頼するとよいでしょう。

 

(2)定期的な競合他社特許の調査

 お餅の業界では、特許権を取得せずに、得た知識や技術は業界全体に還元するという慣習があったという話も聞きます。ただし、慣習があるからと安心とした場合には、本件のように不意打ちを受けることになります。 

 ここで、越後製菓とサトウ食品の過去の特許出願動向を見てみたいと思います。

 青線が越後食品であり、赤線はサトウ食品を示します。図のように、サトウ食品は、例年0~2件の出願となっております。一方、越後製菓は1997年に10件、1998年に18件の出願を行い、出願件数を急増させています。したがって、この付近で越後製菓の出願戦略に大きな変更があったと推測されます。

 このように、競合他社の出願動向を継続的に調査することにより、訴訟リスクの高まりを早期に察知できます。調査の方法としては、特許電子図書館を使用して、年1、2回程度定期的に調査を行えばよいと思います。

 

(3)自社技術の特許権化

 下図は、越後製菓とサトウ食品の特許権の件数を技術分野(Fターム)別に示したものです。

 図のように、全体として越後製菓の特許権の件数は多く、サトウ食品とは特許権の件数で大きな差が生じています。

 切り餅は、縦軸の上から3番目の技術分野(Fターム:4B023 LE23 ・餅)となりますが、特許権の件数は越後製菓が9件に対してサトウ食品が2件となっております。したがって、この分野でも特許権の件数に大きな差があります。

 

 特許権の件数に差が無い場合には、互い威嚇・牽制し合うため訴訟となりにくく、また、訴訟が提起された後でもクロスライセンスという手段がとれますので、和解に持ち込める可能性も高まります。

 一方、特許権の件数に差がある場合には、防戦一方とならざるを得ません。実際に、2012年5月30日に、越後製菓はサトウ食品に対して、19億1595万円の損害賠償を求める訴訟を、新たに提起しております。

 したがって、攻撃が最大の防御ともいいますが、自社が創出した技術を適切に権利化してゆき、競合他社とのパワーバランスを図ることも必要でしょう。

 

4.まとめ

 特許は、特許戦略の無い企業にとってはリスクとなりますが、特許戦略がある企業にとっては市場をコントロールする有効なツールとなりえます。特許情報を収集するとともに、適切に特許権を取得してゆくことにより、特許訴訟のリスクを低減することが可能となります。御社でも、攻め・守りの面から特許の活用を是非検討ください。

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この記事の著者

川上 成年

「御社の知財部」は中小企業様向けの知財支援サービスです。「御社の知財部」は御社の知財活動を推進します。

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