グローバル物流とSCM

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1. グローバル物流は難しいのか

 皆さんの会社はグローバル企業でしょうか。グローバル企業の定義は難しいかもしれませんが、物流に関してグローバルでモノのやり取りをしている会社は多いことでしょう。中小企業でも海外からモノを調達することは当たり前の時代になりました。実際に海外進出を果たしている会社も少なくありません。海外進出するとなると、現地で物流が発生することになり、より難しい課題に直面することになるでしょう。グローバル・サプライチェーンが当たり前になった現在において、国内だけの物流を考えていても発展はありません。そこで、少しグローバル物流とそれに伴って発生するSCMについて考えてみましょう。
  
 今まで国内だけでモノの流れが完結していた会社の方は、国をまたがってのモノの動きが発生したとたんに困難に直面するようです。これは何というか、見えないものに対する恐れのような感じがします。原則として国内物流であろうと、国をまたがった物流であろうと物流は物流です。ただ、グローバル物流となると、関税の問題が生じます。国内のトラック輸送ですと手軽に手配できたトラックですが、船の手配となるとトラックほど手軽ではないかもしれません。
 
 そこでグローバル物流では第三者に任せて物流オペレーションを実施していくことが多いようです。国内物流はすべて日本語で、しかも手軽にできるということで3PLがまったく発展しません。しかし海外物流となると何となく専門家であるフォワーダーに任せがちです。その背景には船会社との契約や税関提出資料の作成、場合によってはインボイスの作成など、あまり普段なじみのない業務があることが挙げられます。多分、グローバル物流ではこのような手を付けてみれば難しくないのに、何となく煩わしそう、という理由で自ら手を出さずにお金で解決しているのです。一方海外進出していった場合にはそう簡単ではありません。現地での物流のデザインに始まり、物流事業者との契約、日々の物流発注業務など、やることは盛りだくさんです。
 

2. 海外との物流の留意点

SCM
 海外とのモノのやり取りをするときには船の手配や税関提出資料の準備などの他に、実物流の効率化について考えなければなりません。何と言っても輸送距離が国内の比ではありません。まず港までトラック輸送があり、そこで荷物をコンテナに積み替えます。この行為をバニングと呼びます。これを自社の物流ヤードで行って港まで牽引していくのがよいのか、港で積み替えた方がよいのかについて検討が必要です。コンテナには20フィートと40フィートがあります。どちらを使う方が自社に適しているかの判断も必要です。
 
 そして最大の難関が荷姿検討でしょう。海外向けにモノを発送しますので、必ずしも国内と同様の荷姿でよいとは限りません。赤道を通過する場合や、長時間の輸送となる場合には防錆処理を行う必要があります。冷凍品など温度管理が必要な場合には専用コンテナが必要です。このあたりは考え方は国内と一緒なのですが、より考えたうえで実施することが求められます。何故ならそのインパクトが大きいからです。 
 
 荷姿効率を10%向上しただけで輸送コストへの影響は多大なものとなります。荷姿効率向上のためにモノそのものの形状や組立場所の変更が必要なくらいです。あとモノのやり取りにあたって頻度についても重要な要素となります。たとえば20フィートコンテナを使って週2便とするのか、40フィートコンテナを使って週1便とするのかは考えどころでしょう。会社によっては40フィートコンテナで運ぶと場所的に厳しいケースがあります。輸出でも輸入でも、いったんその分だけの在庫置場が必要になるからです。多くの会社は40フィートコンテナを使って輸送し、一時保管しているようです。この場合、輸送コストは下げられますが、保管コストが生じることに注意が必要です。 
 
 次に海外進出した時のことについて考えてみましょう。海外に初めて進出する会社はいろいろなことに注意を払わなければなりませんが、物流については特に重要になってきます。何故なら物流コストが馬鹿にならないほどかかる可能性があるからです。日本国内では輸送距離はたかが知れています。しかし海外でのそれは比較にならないほど大きなものだからです。
 

3. 海外進出時の物流設計

 グローバル物流の中でも海外進出時の物流については経験のない方も多く、注意が必要です。担当される場合の注意点を述べておきたいと思います。その筆頭が日本の物流スタイルをそのまま海外で展開するということです。たしかに日本の物流にはノウハウが詰まっている部分もあります。しかし物流は現地事情で大きく違う点があることも事実です。この点を意識せず、日本流物流をコピーすると上手くいくどころか、失敗する確率の方が大きいでしょう。たとえば、トラック輸送。日本では両サイドが開くウイング車と呼ばれるトラックを使うことが多いでしょう。このタイプは荷役時間も短縮でき、非常に便利なものだといえます。しかし、海外ではウイング車というものはほとんど存在しません。その一番の理由は...

1. グローバル物流は難しいのか

 皆さんの会社はグローバル企業でしょうか。グローバル企業の定義は難しいかもしれませんが、物流に関してグローバルでモノのやり取りをしている会社は多いことでしょう。中小企業でも海外からモノを調達することは当たり前の時代になりました。実際に海外進出を果たしている会社も少なくありません。海外進出するとなると、現地で物流が発生することになり、より難しい課題に直面することになるでしょう。グローバル・サプライチェーンが当たり前になった現在において、国内だけの物流を考えていても発展はありません。そこで、少しグローバル物流とそれに伴って発生するSCMについて考えてみましょう。
  
 今まで国内だけでモノの流れが完結していた会社の方は、国をまたがってのモノの動きが発生したとたんに困難に直面するようです。これは何というか、見えないものに対する恐れのような感じがします。原則として国内物流であろうと、国をまたがった物流であろうと物流は物流です。ただ、グローバル物流となると、関税の問題が生じます。国内のトラック輸送ですと手軽に手配できたトラックですが、船の手配となるとトラックほど手軽ではないかもしれません。
 
 そこでグローバル物流では第三者に任せて物流オペレーションを実施していくことが多いようです。国内物流はすべて日本語で、しかも手軽にできるということで3PLがまったく発展しません。しかし海外物流となると何となく専門家であるフォワーダーに任せがちです。その背景には船会社との契約や税関提出資料の作成、場合によってはインボイスの作成など、あまり普段なじみのない業務があることが挙げられます。多分、グローバル物流ではこのような手を付けてみれば難しくないのに、何となく煩わしそう、という理由で自ら手を出さずにお金で解決しているのです。一方海外進出していった場合にはそう簡単ではありません。現地での物流のデザインに始まり、物流事業者との契約、日々の物流発注業務など、やることは盛りだくさんです。
 

2. 海外との物流の留意点

SCM
 海外とのモノのやり取りをするときには船の手配や税関提出資料の準備などの他に、実物流の効率化について考えなければなりません。何と言っても輸送距離が国内の比ではありません。まず港までトラック輸送があり、そこで荷物をコンテナに積み替えます。この行為をバニングと呼びます。これを自社の物流ヤードで行って港まで牽引していくのがよいのか、港で積み替えた方がよいのかについて検討が必要です。コンテナには20フィートと40フィートがあります。どちらを使う方が自社に適しているかの判断も必要です。
 
 そして最大の難関が荷姿検討でしょう。海外向けにモノを発送しますので、必ずしも国内と同様の荷姿でよいとは限りません。赤道を通過する場合や、長時間の輸送となる場合には防錆処理を行う必要があります。冷凍品など温度管理が必要な場合には専用コンテナが必要です。このあたりは考え方は国内と一緒なのですが、より考えたうえで実施することが求められます。何故ならそのインパクトが大きいからです。 
 
 荷姿効率を10%向上しただけで輸送コストへの影響は多大なものとなります。荷姿効率向上のためにモノそのものの形状や組立場所の変更が必要なくらいです。あとモノのやり取りにあたって頻度についても重要な要素となります。たとえば20フィートコンテナを使って週2便とするのか、40フィートコンテナを使って週1便とするのかは考えどころでしょう。会社によっては40フィートコンテナで運ぶと場所的に厳しいケースがあります。輸出でも輸入でも、いったんその分だけの在庫置場が必要になるからです。多くの会社は40フィートコンテナを使って輸送し、一時保管しているようです。この場合、輸送コストは下げられますが、保管コストが生じることに注意が必要です。 
 
 次に海外進出した時のことについて考えてみましょう。海外に初めて進出する会社はいろいろなことに注意を払わなければなりませんが、物流については特に重要になってきます。何故なら物流コストが馬鹿にならないほどかかる可能性があるからです。日本国内では輸送距離はたかが知れています。しかし海外でのそれは比較にならないほど大きなものだからです。
 

3. 海外進出時の物流設計

 グローバル物流の中でも海外進出時の物流については経験のない方も多く、注意が必要です。担当される場合の注意点を述べておきたいと思います。その筆頭が日本の物流スタイルをそのまま海外で展開するということです。たしかに日本の物流にはノウハウが詰まっている部分もあります。しかし物流は現地事情で大きく違う点があることも事実です。この点を意識せず、日本流物流をコピーすると上手くいくどころか、失敗する確率の方が大きいでしょう。たとえば、トラック輸送。日本では両サイドが開くウイング車と呼ばれるトラックを使うことが多いでしょう。このタイプは荷役時間も短縮でき、非常に便利なものだといえます。しかし、海外ではウイング車というものはほとんど存在しません。その一番の理由はウイングがアルミで作られていることもあり、簡単にこじ開けられ、貨物を盗まれる危険性が高いということにありまあす。
 
 リスク管理は海外でビジネスをする上では非常に重要な要素であることは間違いありません。日本とはリスクの高さは全く異なるのです。リスクの視点からいえば、倉庫のつくりと管理も日本とは変えなければなりません。日本では倉庫に保管してある荷物が盗まれることはほとんどありません。しかし海外では頻繁に発生します。これを日本と同じ考え方で設計する人がいますが、これではまともな倉庫運営は成立しません。
 
 このように、海外で物流を展開する場合には現地の事情に精通する必要があるのです。いろいろとリスクを想定し、それに対するマネジメントを織り込んで実施していくことが望まれます。また、現地の物流をよく見てみると、日本より優れた点が多々あることに気づくでしょう。日本がベストではないことを受け入れ、現地流を尊重することも大事なことです。
 
 いかがでしょうか。海外との輸出入や現地進出に伴う物流、そして、サプライチェーンマネジメント。これらに柔軟に対応していく力が私たちに求められています。ぜひ、グローバル化の時代に見合ったサプライチェーンを構築していきましょう。
 

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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