副業を超えた「複業」は、従業員だけでなく企業にもメリットがあり、そして少子高齢化が進む日本の社会全体にも貢献するトリプルウィンです。近江商人のモットーである「売り手よし、買い手よし、世間よし」の“三方よし”を実現する施策と言えるでしょう。本稿では、複業の効用と実現の課題を多角的に論じます。前回のその2に続いて解説します。
4. 富士ゼロックス株式会社の事例で考える
筆者は1987年から2014年までの27年間、富士ゼロックス株式会社に勤務していました。多様性を尊ぶ企業文化で、極めて個性的な人材が揃っており、人事諸制度の設計と運用においても、多様性を重要視しています。また、古くは1980年代末のサテライトオフィスの導入から、介護のための制度設計まで、常に新たな仕事のやり方を模索している企業でもあります。
50歳以上の社員が対象ではありますが、同社が2003年に導入したNewWork 支援プログラムには6種類の制度があり「ダブル・ジョブプログラム」では自らの意思によって社内で兼務することを認め、「フレックス・ワーク制度」では社外での兼業を認めています。
ダブル・ジョブプログラムでは30%まで兼務することが可能で、社内のキャリア相談室などが受け入れ先となっています。社内で実績を積むことにより、独立がしやすくなります。フレックス・ワーク制度を利用すると、社員の身分のままで、兼業・自己啓発のための時間を確保でき、独立への準備を始めることが可能となっています。フレックス・ワーク制度の利用が認められれば、自動的に兼業が認められます。複業は1日単位の曜日で設定し、隔週の設定も可となっていて、40%まで複業に当てることができます。給与は、複業の比率分だけカットされます。
前記は、同社Webサイトで開示されている内容で、従業員視点でのメリットで書かれていますが、企業の視点ではどのようなメリットがあるでしょうか。同社の50歳以上という制限を取り払って考えてみましょう。この支援プログラムの最大のメリットは、組織の新陳代謝が図れることです。部門の人員が固定化してくると、遂行できる業務の見積もりが容易になる反面、なかなか新しい風が入ってきません。人員が固定化する原因が、市場価値が低くて転職できずにしがみついている人の存在ならば、そのような方には市場価値を高めた上で穏便に「卒業」していただくのがいいでしょう。
ポジションが空けば、他企業の経験者や、新しいカリキュラムで学んできた新卒社員が入ってきて、新たな展望が期待できます。もちろん、新しい人員には業務の習熟やトレーニングが必要で、一時的には業務効率が下がることがありますが、中長期的には新陳代謝のメリットの方がはるかに大きいのです。
もうひとつのメリットは「構造改革」を行ったときに、従業員に新たな職場で力を発揮してもらえる可能性があることです。ここで言う構造改革(リストラクチャリング)は、解雇ではなく、事業構造を変革して組織を変え、それに伴う配置転換を行うことです。その際、複業で知識と経験を獲得している従業員には、新たな職場で重要なポジションに就いてもらうことができます。
5. 出戻りOKの寛容さを持とう
大企業の例ではありますが、リクルートやソニーから転職した人は、OBとして職歴を隠さない傾向があります。そして、両社とも、転職先を退職して再度戻ってくる、いわゆる「出戻り」を受け入れていることでもよく知られています。筆者が勤務していた頃の富士ゼロックスでも、出戻りは決して珍し...