【内発的動機づけの要素である「目的」連載目次】
◆本源的な質問に答えてわかる「目的」
これまで何回かに渡って、内発的動機づけの「自律性」と「熟達」について解説してきましたが、今回は最後のテーマである「目的」です。
1. 三人のレンガ職人
内発的動機づけの要素である「目的」とは、自分の人生の目的のことです。自分にとって充実した人生とは何かということです。目的を見失った目標設定をしてしまうと、その目標を達成しても満足感を得ることはできません。たとえば、目的がお金持ちになることだとどうでしょうか? おカネを手に入れることは考えても、その使い方はあまり考えないことになりがちで、また、目的達成のためには他人に対する配慮や思いやりが欠けてしまうこともありそうです。そのため、どんなにおカネを貯めたとしても不安や憂鬱は消えることがなく、本当の満足感にはつながらないでしょう。お金持ちになることを「目的」とすると苦しい人生になりそうです。では、お金持ちになることを「目標」にするのはどうでしょうか。「目的」にしたときと同じように苦しい人生になるのでしょうか。 そもそも、「目的」と「目標」の違いは何でしょうか。
「目的」と「目標」の違いを考えるために「三人のレンガ職人」の話をします。あるときある場所でのことです。完成まで百年かかると言われている教会の工事現場で3人のレンガ職人が働いていました。そこを通りがかった旅人が3人の職人それぞれに「何をしているんですか」とたずねました。一人目のレンガ職人は「見ればわかるだろう。レンガを積んでいるんだよ」と不機嫌に答えました。二人目のレンガ職人は「レンガを積んで壁を作ってるんです。この仕事は賃金がいいからやってるんですよ」と答えました。三人目のレンガ職人は「教会を作っているのです。この教会が完成すると多くの信者が喜ぶことでしょう。こんな仕事に就けて幸せです」と笑顔で答えました。この3人に共通なものは何でしょうか。3人とも、この日のレンガ積みのノルマや、今やっている作業の期限などの「目標」は持っているはずです。3人とも持っているものは「目標」です。
それでは違いは何でしょうか。それが「目的」です。一人目は「目的」を持っていません。「目標」を達成することだけ考えて作業をこなしているだけです。二人目はおカネが「目的」です。少しでも多くの賃金をもらうことが大切なのです。そして、三人目は人の役に立つことが「目的」です。レンガを積んでいるのではなく、多くの人の喜びをもたらす教会を作っています。
この話は、同じ仕事をして、同じように「目標」を持っていたとしても、「目的」は人によって違う可能性があること、そして、その「目的」により人生も変わることを教えています。それぞれの職人の 10 年後へと話は続きます。
一人目は、10年後も相変わらず愚痴をこぼしながらレンガを積んでいました。二人目は、もっと賃金のよい仕事があったと言って、最も危険な教会の屋根の上の仕事に就いていました。そして三人目の職人は、知識や技術を積み、仲間の信頼も厚かったので現場監督となり、多くの職人を育てる立場になっていました。「自分軸」からはじめるレンガ職人の話からわかるように、「目標」は人から与えられることが多いものです。たとえば、プロジェクトの中での自分の仕事とその期限はプロジェクトリーダーから与えられます。与えられた仕事によって勉強することも決まります。このように、「目標」は設定されてしまいます。
「目標」を設定されて、とにかく与えられた目標を達成することばかりを考えていないでしょうか。これでは一人目のレンガ職人と同じです。また、どうしたらうまくできるのか、どうしたら早くできるのか、どうしたら効果的にできるのか、どうしたら解決できるのか、そんなことばかりを考えてはいないでしょうか。さらに、どうしたら評価されるのか、どうしたらスキルアップするのか、どうしたら成長するのかばかりを考えていないでしょうか。これでは、二人目の職人と同じですね。
人は「目標」を与えられると、それを達成するために「どうしたら」という「方法」ばかりを考えがちです。はじめに「方法」を考えてしまうとそれだけで頭がいっぱいになり、「目的」を考えないで過ごしてしまいます。「目的」は誰からも与えられることがありません。自分が設定しなければいけないのです。でも、「目的」を明らかにするのは簡単ではありませんので、ここからは、その方法について...