物流事業者との取引を見直す

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1.「標準貨物自動車運送約款」を見直す

 
 皆さんの会社が、物流を本業としていないとしたら、物流業務は社内で実施するかアウトソースするかのどちらかになります。物流業務の内、輸送業務はアウトソースに頼る部分が大きいと思われます。昔は自社でトラックを抱えて輸送していた会社や、最近では物流子会社を持っている会社でも、物流専業者に仕事をアウトソースしたり、物流子会社を売却したりしています。これは物流を本業ととらえず、ノンコア業務だから外に出すのだ、という考え方が強いのだと推測されます。
 
 日本は少子高齢化社会ですから、働き手が少なくなることは必至です。ここで経済も縮小してってしまうようでは日本の未来はありません。幸いにして通信販売の伸びによって物流も需要が膨らみました。一方で、物流の担い手が増えないため、現時点では供給不足が課題になりつつあるのです。物流を発注する立場の会社とアウトソースの受け皿である物流事業者との関係は、まるで主従関係のように強弱が明確です。
 
 この関係は健全な状態であるとはいえません。なぜこのような関係になってしまったのでしょうか。かつて、物流は規制産業でした。つまり国に守られた産業だったわけです。自分たちで努力しなくても仕事が入って来て利益が出ました。人を育てなくても何とかなる時代を過ごしてきたわけです。この意識が抜けないまま規制緩和が行われ、結果的に他産業に比べて実力的に劣った産業になってしまいました。
 
 自分たちだけで何とかなる、という状況ではなくなりつつあります。自分たちの身は自分たちで守る、それが当たり前の考え方かもしれません。しかし、主従関係のような状況はおいそれと改善できるものではありません。その是非はともかくとして、いよいよ国も見過ごせなくなってきたわけです。
 
 国土交通省は2017年11月から「標準貨物自動車運送約款」を見直すことにしました。これは荷主会社にとっては契約書の書き方が変わるようなものです。荷主会社もこの見直しについて、どのような内容なのかについては認識しておく必要があります。次に、この点について確認しておきましょう。
 
 SCM
 

2.「標準貨物自動車運送約款」見直しのポイント

 
 「標準貨物自動車運送約款」の見直しのポイントは以下の通りです。標準貨物自動車運送約款等について、以下のような改正を行うことにより、運送の対価としての「運賃」及び運送以外の役務等の対価としての「料金」を明確にします。
 
(1) 運送状の記載事項として、「積込料」、「取卸料」、「待機時間料」等の料金の具体例を規定
 
(2) 料金として積込み又は取卸しに対する対価を「積込料」及び「取卸料」とし、荷待ちに対する対価を「待機時間料」と規定
 
(3) 付帯業務の内容として「横持ち」等を明確化 等
 
 たとえば今までA地点からB地点までの輸送を委託していたとします。その時の料金は5万円だったとしましょう。この輸送業務では荷積み作業と荷降ろし作業も運送会社が行っていたとすると、この荷役作業の対価と輸送の対価を分けることになります。荷積み作業の対価を1500円、輸送料金を47000円、荷降ろし作業の対価を1500円、合計で元の価格と同様に5万円ということになります。
 
 もし荷降ろし時に棚入れ作業を行っていればその対価も明確にします。このようにすることで、今まであいまいだった附帯作業についてそれらについても料金が発生することをサービス提供側、利用側で認識することになります。そして今後締結される契約については必ずこのような対価を記載した契約とし、お互いそれに基づいて取引を実施していくことになります。
 
 世の中には「◯◯一式」という契約がありますが、それでは中身がどうなっているのかがわかりませんよね。それに近かった輸送契約をもっとわかりやすくすることが目的です。当然のことですが、荷主責任によるトラック待機についても対価を明確化します。生産が間に合わなかったのでトラックに待ってもらう場合には、荷主はその分の対価を支払う必要が出てきます。
 
 このようなことを国土交通省が発した背景には、運送会社が荷主や着荷主から輸送以外の付帯業務を「押し付けられていた」という認識があるためです。あまり表現はよくないかもしれませんが、強い立場の会社から言われれば断れなかった、という事実があるのでしょう。
 

3. 荷主勧告制度

 
 「標準貨物自動車運送約款」の見直しと同時に、「トラック運送業における書面化推進ガイドライン」及び「トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン」の改正も行われました。特に「トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン」は物流提供者と荷主との間の取引を適正化するために記されたガイドラインであるため、別の機会にきちんと紹介をしたいと思います。荷主会社の多くが認識していないと思われる「荷主勧告制度」について触れておきたいと思います。
 
 輸送過程における事故は第三者に影響を与えることが多く、社会問題化する機会もあることから皆さんもある程度認識はされていることと思います。トラックの事故により犠牲者になる方もおり、これは見過ごせないレベルにあるでしょう。そしてこのような事故は運転者の不注意もありますが、法令違反によって引き起こされるものも少なくありません。
 
 速度超過。皆さんもクルマを運転されるでしょうから、非常に身近な法令違反かもしれませんね。荷主から提示される納期を守ることは当然ですが、場合によっては渋滞や天候不順でやむなく遅れが発生することがあります。その時に速度超過が発生しやすいのではないでしょうか。
 
 過積載。特にトラック積載能力を上回った積載は事故だけでなく、道路や橋梁などの社会インフラに大きなダメージを与えます。トラックの荷台に隙間があるからと荷主が重量を認識せずに追い積みを指示していないでしょうか。
 
 運転者の労働時...

1.「標準貨物自動車運送約款」を見直す

 
 皆さんの会社が、物流を本業としていないとしたら、物流業務は社内で実施するかアウトソースするかのどちらかになります。物流業務の内、輸送業務はアウトソースに頼る部分が大きいと思われます。昔は自社でトラックを抱えて輸送していた会社や、最近では物流子会社を持っている会社でも、物流専業者に仕事をアウトソースしたり、物流子会社を売却したりしています。これは物流を本業ととらえず、ノンコア業務だから外に出すのだ、という考え方が強いのだと推測されます。
 
 日本は少子高齢化社会ですから、働き手が少なくなることは必至です。ここで経済も縮小してってしまうようでは日本の未来はありません。幸いにして通信販売の伸びによって物流も需要が膨らみました。一方で、物流の担い手が増えないため、現時点では供給不足が課題になりつつあるのです。物流を発注する立場の会社とアウトソースの受け皿である物流事業者との関係は、まるで主従関係のように強弱が明確です。
 
 この関係は健全な状態であるとはいえません。なぜこのような関係になってしまったのでしょうか。かつて、物流は規制産業でした。つまり国に守られた産業だったわけです。自分たちで努力しなくても仕事が入って来て利益が出ました。人を育てなくても何とかなる時代を過ごしてきたわけです。この意識が抜けないまま規制緩和が行われ、結果的に他産業に比べて実力的に劣った産業になってしまいました。
 
 自分たちだけで何とかなる、という状況ではなくなりつつあります。自分たちの身は自分たちで守る、それが当たり前の考え方かもしれません。しかし、主従関係のような状況はおいそれと改善できるものではありません。その是非はともかくとして、いよいよ国も見過ごせなくなってきたわけです。
 
 国土交通省は2017年11月から「標準貨物自動車運送約款」を見直すことにしました。これは荷主会社にとっては契約書の書き方が変わるようなものです。荷主会社もこの見直しについて、どのような内容なのかについては認識しておく必要があります。次に、この点について確認しておきましょう。
 
 SCM
 

2.「標準貨物自動車運送約款」見直しのポイント

 
 「標準貨物自動車運送約款」の見直しのポイントは以下の通りです。標準貨物自動車運送約款等について、以下のような改正を行うことにより、運送の対価としての「運賃」及び運送以外の役務等の対価としての「料金」を明確にします。
 
(1) 運送状の記載事項として、「積込料」、「取卸料」、「待機時間料」等の料金の具体例を規定
 
(2) 料金として積込み又は取卸しに対する対価を「積込料」及び「取卸料」とし、荷待ちに対する対価を「待機時間料」と規定
 
(3) 付帯業務の内容として「横持ち」等を明確化 等
 
 たとえば今までA地点からB地点までの輸送を委託していたとします。その時の料金は5万円だったとしましょう。この輸送業務では荷積み作業と荷降ろし作業も運送会社が行っていたとすると、この荷役作業の対価と輸送の対価を分けることになります。荷積み作業の対価を1500円、輸送料金を47000円、荷降ろし作業の対価を1500円、合計で元の価格と同様に5万円ということになります。
 
 もし荷降ろし時に棚入れ作業を行っていればその対価も明確にします。このようにすることで、今まであいまいだった附帯作業についてそれらについても料金が発生することをサービス提供側、利用側で認識することになります。そして今後締結される契約については必ずこのような対価を記載した契約とし、お互いそれに基づいて取引を実施していくことになります。
 
 世の中には「◯◯一式」という契約がありますが、それでは中身がどうなっているのかがわかりませんよね。それに近かった輸送契約をもっとわかりやすくすることが目的です。当然のことですが、荷主責任によるトラック待機についても対価を明確化します。生産が間に合わなかったのでトラックに待ってもらう場合には、荷主はその分の対価を支払う必要が出てきます。
 
 このようなことを国土交通省が発した背景には、運送会社が荷主や着荷主から輸送以外の付帯業務を「押し付けられていた」という認識があるためです。あまり表現はよくないかもしれませんが、強い立場の会社から言われれば断れなかった、という事実があるのでしょう。
 

3. 荷主勧告制度

 
 「標準貨物自動車運送約款」の見直しと同時に、「トラック運送業における書面化推進ガイドライン」及び「トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン」の改正も行われました。特に「トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン」は物流提供者と荷主との間の取引を適正化するために記されたガイドラインであるため、別の機会にきちんと紹介をしたいと思います。荷主会社の多くが認識していないと思われる「荷主勧告制度」について触れておきたいと思います。
 
 輸送過程における事故は第三者に影響を与えることが多く、社会問題化する機会もあることから皆さんもある程度認識はされていることと思います。トラックの事故により犠牲者になる方もおり、これは見過ごせないレベルにあるでしょう。そしてこのような事故は運転者の不注意もありますが、法令違反によって引き起こされるものも少なくありません。
 
 速度超過。皆さんもクルマを運転されるでしょうから、非常に身近な法令違反かもしれませんね。荷主から提示される納期を守ることは当然ですが、場合によっては渋滞や天候不順でやむなく遅れが発生することがあります。その時に速度超過が発生しやすいのではないでしょうか。
 
 過積載。特にトラック積載能力を上回った積載は事故だけでなく、道路や橋梁などの社会インフラに大きなダメージを与えます。トラックの荷台に隙間があるからと荷主が重量を認識せずに追い積みを指示していないでしょうか。
 
 運転者の労働時間のルール違反。運転者は1日の拘束時間や運転時間、連続運転時間などがきっちりとルール化されています。運転者の疲労によって引き起こされる事故は第三社にも被害をもたらす許すことのできない行為です。構内待機時間が存在するためこのルールを守れなくなってしまうようなことはないでしょうか。
 
 このような法令違反はその行為を行った運転者の、そして運送会社の責任です。でももしこのような行為を引き起こす要因が荷主側にあったとしたらどうでしょうか。国土交通省は平成29年7月1日から「荷主勧告制度」をスタートさせました。上記のような行為を行った荷主に対して勧告を行うという制度です。荷主が指示するなど主体的な関与が 認められる場合は即座に勧告となり、社名が公表されることになります。
 
 主体的ではないものの、荷主の関与があった場合には警告が行われ、3年以内に同様の事案が再発した場合に勧告となります。今までは運送事業者の責任にとどまっていましたが、いよいよ荷主にも責任が問われることになりました。ぜひ社内で上記のような事例に関与がないかどうかチェックしておきましょう。
 

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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