人的資源マネジメント:セルフコントロールはレジリエンスを高める「やらない力」(その2)

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 前回のその1に続いて解説します。
 

4. 心理的距離のコントロール(Self-distancing)

 
 やらない力、誘惑に打ち勝つ力であるセルフコントロールですが、どうやって鍛えるのか、その方法を紹介したいと思います。まず最初の方法は、心理的距離をコントロールするというものです。これは、当事者となっている自分と、その自分を客観的に見る傍観者としての自分とを切り替えるスキルです。文章では伝えにくいところがありますが、車の運転を例にとって説明したいと思います。
 
 車を運転していてドキッとしたことを例にしてみましょう。たとえば、いつも通り慣れている見通しが悪い交差点で、人や自転車に当たりそうになった経験はないでしょうか? 次のような感じで、そのときのことを思い出してみてください。
 
 その日は、帰宅直前に上司に怒られたことが気になって、何が悪かったのかとか、レポートをどうやって修正すればいいのかなどで頭がいっぱいになっていた。家へ帰る時もレポートのどこを修正するのかを考えながら運転していたが、いつもの通り慣れた道なので何の問題もなかった。しかし、自宅近くの交差点を横切ろうとしたとき、自転車が突然あらわれたと同時にキーッという急ブレーキの音がした。無意識にブレーキを力一杯踏んでいたが、体中の血液は逆流し、心臓はバクバクと音を立て、手足は固まってしばらく動かなかった。少し時間が経った後、ぶつからなくて良かったという安堵と同時に、急に出てきた自転車に対する怒りがこみ上げてきて、車の中で怒鳴っていた。
 
 このように、自分が見えていたもの、聞こえていた音、感じていた空気や温度などを細かなことまで具体的に思い出してください。さらに、そのときどんなことを思い、感じ、考えていたのかも思い出してください。これが当事者としての自分です。
 
 次に、会社を出てから見通しの悪い交差点での出来事までを、まるでテレビの再現ドラマやニュースを見ているかのように、上空の遠いところからさっきの当事者としての自分やその周りの状況を客観的に観察していると想像します。上司から怒られていた自分はどう見えますか。いつまでクヨクヨと考えているんだと思うのではないでしょうか。怒られたことをずっと考えながら運転している自分はどう見えますか。運転に集中しないと危ないぞ、何をやっているんだと思うのではないでしょうか。飛び出してきた自転車と自分の車、そして、そのときの自分はどう見えますか。見通しが悪いのだからもっとスピードを落として注意しなければダメじゃないかと思うのではないでしょうか。
 
 こうやって自分を遠くから客観的に観察しているときには、観察している自分に対して何を思い、何を感じ、何を考えるでしょうか。これが傍観者としての自分です。
 
 当事者でありながら、必要に応じて、傍観者として自分を観察することができれば、本来優先しなければならないことに注意を向け、自分の感情や思考をコントロールすることを可能にします。とくに、嫌な出来事や腹立たしい出来事があったときに、当事者と傍観者とを切り替えて、その出来事を再体験することがセルフコントロール力を高める練習になります。
 
 人的資源マネジメント
 

5. 心理対比と実行意図 (Mental Contrasting and Implementation Intention)

 
 セルフコントロール力を鍛えるもうひとつの方法は「心理対比と実行意図」です。これは、何かに取り組むときの姿勢、考え方です。何かに取り組むとき、失敗しないようにやるにはどうしたらいいのか、どうやると効率よくできるのかといった「どうやって」という手順や方法に意識を向けがちです。どうやってを考えるのではなく、まず、自分にとっての目標を考えることからはじめるのが最初のステップです。自分にとってその目標にはどういう意味があるのかを考えるということです。
 
 次のステップでは、その目標を達成すると自分にどういう良いことが起きるのかを考えます。さらに、目標達成の障害となるものを想像します。目標達成の意味と、設定した目標を達成したときに自分に起きる良いことと目標達成を阻害することの両方を考えることで、目標に対する一次的欲求と二次的欲求が具体的になります。これが心理対比です。
 
 そして最後のステップとなるのが実行意図です。心理対比によって明らかになった目標設定の障害のひとつひとつについて、い...
 前回のその1に続いて解説します。
 

4. 心理的距離のコントロール(Self-distancing)

 
 やらない力、誘惑に打ち勝つ力であるセルフコントロールですが、どうやって鍛えるのか、その方法を紹介したいと思います。まず最初の方法は、心理的距離をコントロールするというものです。これは、当事者となっている自分と、その自分を客観的に見る傍観者としての自分とを切り替えるスキルです。文章では伝えにくいところがありますが、車の運転を例にとって説明したいと思います。
 
 車を運転していてドキッとしたことを例にしてみましょう。たとえば、いつも通り慣れている見通しが悪い交差点で、人や自転車に当たりそうになった経験はないでしょうか? 次のような感じで、そのときのことを思い出してみてください。
 
 その日は、帰宅直前に上司に怒られたことが気になって、何が悪かったのかとか、レポートをどうやって修正すればいいのかなどで頭がいっぱいになっていた。家へ帰る時もレポートのどこを修正するのかを考えながら運転していたが、いつもの通り慣れた道なので何の問題もなかった。しかし、自宅近くの交差点を横切ろうとしたとき、自転車が突然あらわれたと同時にキーッという急ブレーキの音がした。無意識にブレーキを力一杯踏んでいたが、体中の血液は逆流し、心臓はバクバクと音を立て、手足は固まってしばらく動かなかった。少し時間が経った後、ぶつからなくて良かったという安堵と同時に、急に出てきた自転車に対する怒りがこみ上げてきて、車の中で怒鳴っていた。
 
 このように、自分が見えていたもの、聞こえていた音、感じていた空気や温度などを細かなことまで具体的に思い出してください。さらに、そのときどんなことを思い、感じ、考えていたのかも思い出してください。これが当事者としての自分です。
 
 次に、会社を出てから見通しの悪い交差点での出来事までを、まるでテレビの再現ドラマやニュースを見ているかのように、上空の遠いところからさっきの当事者としての自分やその周りの状況を客観的に観察していると想像します。上司から怒られていた自分はどう見えますか。いつまでクヨクヨと考えているんだと思うのではないでしょうか。怒られたことをずっと考えながら運転している自分はどう見えますか。運転に集中しないと危ないぞ、何をやっているんだと思うのではないでしょうか。飛び出してきた自転車と自分の車、そして、そのときの自分はどう見えますか。見通しが悪いのだからもっとスピードを落として注意しなければダメじゃないかと思うのではないでしょうか。
 
 こうやって自分を遠くから客観的に観察しているときには、観察している自分に対して何を思い、何を感じ、何を考えるでしょうか。これが傍観者としての自分です。
 
 当事者でありながら、必要に応じて、傍観者として自分を観察することができれば、本来優先しなければならないことに注意を向け、自分の感情や思考をコントロールすることを可能にします。とくに、嫌な出来事や腹立たしい出来事があったときに、当事者と傍観者とを切り替えて、その出来事を再体験することがセルフコントロール力を高める練習になります。
 
 人的資源マネジメント
 

5. 心理対比と実行意図 (Mental Contrasting and Implementation Intention)

 
 セルフコントロール力を鍛えるもうひとつの方法は「心理対比と実行意図」です。これは、何かに取り組むときの姿勢、考え方です。何かに取り組むとき、失敗しないようにやるにはどうしたらいいのか、どうやると効率よくできるのかといった「どうやって」という手順や方法に意識を向けがちです。どうやってを考えるのではなく、まず、自分にとっての目標を考えることからはじめるのが最初のステップです。自分にとってその目標にはどういう意味があるのかを考えるということです。
 
 次のステップでは、その目標を達成すると自分にどういう良いことが起きるのかを考えます。さらに、目標達成の障害となるものを想像します。目標達成の意味と、設定した目標を達成したときに自分に起きる良いことと目標達成を阻害することの両方を考えることで、目標に対する一次的欲求と二次的欲求が具体的になります。これが心理対比です。
 
 そして最後のステップとなるのが実行意図です。心理対比によって明らかになった目標設定の障害のひとつひとつについて、いつ、どこで、どのようにして自分がその障害を回避するのかを計画します。これが実行意図で、目標を達成することに対する意識(期待値)を上げることができます。
 
 とくに、何かしら自分にとってストレスとなる出来事が起きると、目標を達成できないのではないかという不安な気持ちが大きくなり、目の前の誘惑(一次的欲求)に負けそうになります。そんなときには、目標達成したときの良いことと、障害を考えて、障害を回避するための具体的な計画を考えることで、目標の大切さと目標を達成できる自信を高めることができます。
 
 今回は、レジリエンスを高めるためにはセルフコントロールを高めることが重要であることと、そのセルフコントロールを高めるための方法を紹介しました。繰り返しになりますが、実際にやってみて何度も練習することが大切です。
  

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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