デザインによる知的資産経営:各部門の役割(その5)
2016-07-15
前回のその4に続いて解説します。知的資産経営において、企業の知的資産を集積して利用することが重要であり、全部門の力が必要です。今回は、最終回として開発部門と管理部門がどのように知的資産経営に関わるかについて解説します。
社内の各部門が上述のような活動をすれば、新商品の開発に際しては、従前になく多くの質的に異なる情報が取得できるはずです。そして、それらの情報の源は社内にあり、いつでも使える具体的な情報です。加えて、各社員が個々に保有する情報もデータベースに取り込まれるならば、新商品の開発に必要な「需用者の潜在願望」を探し出す作業も比較的容易になり、視野も広がるものと思います。
その結果として、今までの市場調査や顧客情報という外部情報を頼りにしていた商品開発から、自社独自の情報に基づいた独自の視点からの商品開発に移行するという変化が期待できます。すなわち、マーケット追随やマーケットイン、そしてプロダクトアウトからの決別です。
ここで留意すべきは、「企業理念」や「規範」というバックボーンがあるとしても、自社が保有する(各部門から集積された)膨大な「知的資産」を読み解いて新商品の方向性を決定し、開発するために、それなりのスキルが必要であるということです。「こんな商品」という方向性が提示された下での開発とは全く次元が異なります。
知的資産のデータベース構築におけるデータベースの設計には工夫が必要であり、データを読み解くスキルの学習も必要になると思います。このように言うと腰が引けてしまうかもしれませんが、とっかかりとしては、既存製品に知的資産から得た知見で「味付けした」製品を商品化するところからスタートすればいいでしょう。その商品が成功すれば、「味付け」の重要性が社員に共有され、「味付け」の度合いが徐々に高まり、真にイノベーティブな商品を開発できるようになるのです。
各部門から提供される知的資産の情報、そして前号までに述べた従業員個人が保有する情報を集めたデータベースは、いわゆる経営管理部などで構築され、管理されることになると思いますが、データベースは検索のしやすさが命です。この構築・設計に際しては十分な検討が必要です。
ここで注意したいのは、データベースに情報があるだけでは足りないということです。データベースに登録される情報は情報のエッセンスであり、その情報を詳しく知るには元情報にアクセスする必要があると思います。元情報にアクセス可能であることは、データベースに必須です。
以上のように各部門が機能するならば、自社の情報、市場情報、顧客情報が集約され、それらと「企業理念」を照合して企業の進む方向を策定し、新商品を提案できるように...
なると思います。すなわち、市場で独自の立場をつくることができるということです。
ここまで製造業を対象として話してきましたが、これはサービス業にも当てはまるはずです。セントラルキッチンを持ったファミレスチェーンの場合、セントラルキッチンは「製造部門」であり、店舗で働く従業員は「営業部員」に対応します。上述のように、営業部員すなわち顧客・市場と直接的に接する人たちが、どのような情報を開示してくるかということが極めて重要です。