デザインによる知的資産経営:イノベーション・ブランドと知的資産(その3)

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 ブランド知的資産経営を語るとき、2つのキーワードがあります。イノベーションとブランド(づくり)です。そこで、これら2つの言葉の意義を明らかにしつつ、イノベーションやブランドと「知的資産」とのつながりを解説します。今回は、前回のその2に続いて解説します。
 

2.ブランド

 

(1)ブランドとは

 
 経済産業省の「ブランド価値評価報告書」(2002年)では、ブランドを「企業が自社の製品等を競争相手の製品等と識別化または差別化するためのネーム、ロゴ、マーク、シンボル、パッケージデザインなどの標章」と位置づけています。他に、外国の研究者による定義づけもありますが、その多くは識別するための「マーク」などとされています。
 
 競争相手と差別化できるマークであればブランドであり、商標=ブランドということになります。マスコミにおいて、「X社は今度Aというブランドを立ち上げる」という報道があります。ここでのブランドは上記の定義に基づいたものだと思います。
 
 しかし、単に競争相手の製品等と識別化または差別化できたからといって、どれほどの意味があるのでしょうか。もちろん、最初に自社の製品を手に取ってもらうには、差別化したマークは必須です。しかし、それだけではリピーターやファンはつきません。企業において「ブランドが資産だ」というためには、識別だけではなく、自社商品(サービス)へのファンがいなければならないのです。
 
 『ブランド戦略・ケースブック』(田中洋著、平成24年、同文館出版)では前記の定義を踏まえたうえで、以下のように記しています。「ここでブランドの定義として必要なことは、消費者にとってのブランドを定義することです。そうすることで私たちはより的確にブランドのことを把握できるように思えるのです。消費者の立場に立って、ブランドは次のように定義できます。ブランドとは、『特定の商品とその表象について消費者がもつ認知システムとしての知識』である」これをかみ砕くと、「特定の商品とその表象」とは、特定の商品およびその商品に使用されている商標(商品の形状やパッケージを含む)であり、「消費者が持つ認知システムとしての知識」とは、その特定の商品とその表象から消費者が感受する商品やサービス、そして企業への知識や信頼感ということだと思います。
 
 この観点からブランドを考えると、ブランドとは「商品・サービスを提供する人とその需要者との間の信頼関係」であり、商標は、その信頼関係を表象する目印と位置づけられることになります。本稿ではこれで進みます。いかに有名であってもファンがいなければブランドではない。そのファンをつくるには、ファンになる予定者(いわゆる、ターゲット需用者)が、「私が好きなこの商品(サービス)」だと見極める「目印」が必要です。商標(目印)はブランドづくりの第一歩であるとともに、ブランドが認知された後には、ブランドを表象し、ファンを維持し、獲得するための最大のツールとなるのです。
 
 よく挙げられる例にBMW(自動車)があります。キドニーグリルと呼ばれるフロントグリルの形状がブランドであるといわれることがありますが、そうではありません。BMWのフロントグリルから需要者が感受する企業のポリシーや企業への信頼が「ブランド」なのです。
 

(2)なぜ、今ブランドなのか

 
 ブランドを「商品・サービスを提供する人とその需要者の間の信頼関係である」と定義すると企業が変わります。これが、デザインによる経営の入り口です。ファンがいてこそブランドが成立します。アップルのファン、無印良品のファンということです。ここでいうファンは、個々の商品にではなく、その企業が市場に出す製品(商品)に対するファンとして捉えなければなりません。個々の商品だけのファンであれば将来につながりません。その背後に隠れた「企業の姿勢」に対するファンでなければなりません。そのようなファンこそが将来につながるのです。
 
 アップルは、iMac、iPod、iPad、iPhoneという一連の商品で、これら個々の商品のファンではなく、アップルという企業へのファン(信頼)を獲得し、ブランドを成立させているのです。
 
 「ブランドは差別化するためのマークである」という定義と「ブランドは信頼関係である」という定義の違いは何でしょうか。キーワードは「需要...
 ブランド知的資産経営を語るとき、2つのキーワードがあります。イノベーションとブランド(づくり)です。そこで、これら2つの言葉の意義を明らかにしつつ、イノベーションやブランドと「知的資産」とのつながりを解説します。今回は、前回のその2に続いて解説します。
 

2.ブランド

 

(1)ブランドとは

 
 経済産業省の「ブランド価値評価報告書」(2002年)では、ブランドを「企業が自社の製品等を競争相手の製品等と識別化または差別化するためのネーム、ロゴ、マーク、シンボル、パッケージデザインなどの標章」と位置づけています。他に、外国の研究者による定義づけもありますが、その多くは識別するための「マーク」などとされています。
 
 競争相手と差別化できるマークであればブランドであり、商標=ブランドということになります。マスコミにおいて、「X社は今度Aというブランドを立ち上げる」という報道があります。ここでのブランドは上記の定義に基づいたものだと思います。
 
 しかし、単に競争相手の製品等と識別化または差別化できたからといって、どれほどの意味があるのでしょうか。もちろん、最初に自社の製品を手に取ってもらうには、差別化したマークは必須です。しかし、それだけではリピーターやファンはつきません。企業において「ブランドが資産だ」というためには、識別だけではなく、自社商品(サービス)へのファンがいなければならないのです。
 
 『ブランド戦略・ケースブック』(田中洋著、平成24年、同文館出版)では前記の定義を踏まえたうえで、以下のように記しています。「ここでブランドの定義として必要なことは、消費者にとってのブランドを定義することです。そうすることで私たちはより的確にブランドのことを把握できるように思えるのです。消費者の立場に立って、ブランドは次のように定義できます。ブランドとは、『特定の商品とその表象について消費者がもつ認知システムとしての知識』である」これをかみ砕くと、「特定の商品とその表象」とは、特定の商品およびその商品に使用されている商標(商品の形状やパッケージを含む)であり、「消費者が持つ認知システムとしての知識」とは、その特定の商品とその表象から消費者が感受する商品やサービス、そして企業への知識や信頼感ということだと思います。
 
 この観点からブランドを考えると、ブランドとは「商品・サービスを提供する人とその需要者との間の信頼関係」であり、商標は、その信頼関係を表象する目印と位置づけられることになります。本稿ではこれで進みます。いかに有名であってもファンがいなければブランドではない。そのファンをつくるには、ファンになる予定者(いわゆる、ターゲット需用者)が、「私が好きなこの商品(サービス)」だと見極める「目印」が必要です。商標(目印)はブランドづくりの第一歩であるとともに、ブランドが認知された後には、ブランドを表象し、ファンを維持し、獲得するための最大のツールとなるのです。
 
 よく挙げられる例にBMW(自動車)があります。キドニーグリルと呼ばれるフロントグリルの形状がブランドであるといわれることがありますが、そうではありません。BMWのフロントグリルから需要者が感受する企業のポリシーや企業への信頼が「ブランド」なのです。
 

(2)なぜ、今ブランドなのか

 
 ブランドを「商品・サービスを提供する人とその需要者の間の信頼関係である」と定義すると企業が変わります。これが、デザインによる経営の入り口です。ファンがいてこそブランドが成立します。アップルのファン、無印良品のファンということです。ここでいうファンは、個々の商品にではなく、その企業が市場に出す製品(商品)に対するファンとして捉えなければなりません。個々の商品だけのファンであれば将来につながりません。その背後に隠れた「企業の姿勢」に対するファンでなければなりません。そのようなファンこそが将来につながるのです。
 
 アップルは、iMac、iPod、iPad、iPhoneという一連の商品で、これら個々の商品のファンではなく、アップルという企業へのファン(信頼)を獲得し、ブランドを成立させているのです。
 
 「ブランドは差別化するためのマークである」という定義と「ブランドは信頼関係である」という定義の違いは何でしょうか。キーワードは「需要者との信頼関係」です。信頼関係をつくろうと思った瞬間に、信頼関係の源泉をつくる必要を感じるはずです。単に差別化できればいいということであれば、他社にない機能を組み込んだ商品や、他社とは異なるデザインの商品を提供すれば足りるかもしれません。個々の商品のレベルで考えればいいことです。
 
 しかし、信頼関係(ファン)の獲得を想定するならば、それだけでは足りません。1つの商品が大ヒットして、その商品の衰亡とともに消えていった企業も多々あります。その理由は、ヒットに安住し、需要者との信頼関係の構築を行わなかったことにあると思います。もし、こうした企業が、ヒットを契機にブランドづくりを考えたならば、事情は違っていたのではないでしょうか。
 
 次回の最終回では、デザインとブランド、ブランドの源泉は何かを解説します。
 
 

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この記事の著者

峯 唯夫

「知的財産の町医者」として、あらゆるジャンルの相談に応じ、必要により特定分野の専門家を紹介します。

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