クリーンルーム天井のフィルターカバーについて

更新日

投稿日

 乱流式や混流式のクリーンルームは、超微細加工の工程では使われていませんが、清浄度がクラス1000以下のクリーンルームでは採用されています。写真中央の天井にあるものは、へパフィルターをカバーが覆っている状態です。
 
              クリーンルーム
                           へパフィルターをカバーが覆っている写真
 
 乱流式や混流式のクリーンルームは、このように天井の所々から清浄な空気が供給されます(写真技術を用いて製品加工しているクリーンルームの撮影ですので、黄色い部屋となっています)。
 
 今回は、このフィルターカバーの事故事例を紹介します。へパフィルターのカバーは、正方形の場合は4個、長方形の場合は6個程度のネジで固定されています。空調が稼働している時は、部屋全体が振動しています。その振動は、フィルターカバーにも伝わっています。
 
 過去に、ある工場のクリーンルームで、このカバーの固定ネジが振動で緩み、抜け落ちた事例がありました。落下したネジは、運悪く写真の左側にあるようなドラフト内の硫酸槽の中に落ちてしまっていたという事例です。(該当工場と写真とは無関係です)硫酸の中に入ってしまったわけですから、このネジは少しずつ溶解します。硫酸に金属が溶け込んだ液で加工した製品であり、重大な品質問題になります。
 
 ネジの落下後から発見されるまでの間に処理されたと思われる製品の品質は、恐らく保証できないでしょう。この場合、廃棄処分されることが推測されます。また、硫酸槽も洗浄し液を入れ替える作業が伴います。
 
 ネジの落下がいつなのか不明な場合は、安全側に倒し、該当品よりも多く廃棄されます。この場合良品も含まれているので、その分は売れたはずですが、それも捨てることになります。これは第一種の誤り、あるいは生産者危険と言います。生産者側が損害を被るわけです。
 
 また、発見が遅れると市場、あるいは次の納入先が損害を被ることになります。これを第二種の誤り、あるいは消費者危険と言います。消費者が不良品を買わされるということです。市場に出回ってしまったものは回収するとか、実際に被害にあった消費者や納入先には保証も必要になります。これには多くの費用、時間がかかり、また会社の信頼も損ねることになります。
 
 へパフィルターのカバーのネジは、落下するだけでなく薬品の雰囲気や、製品の加工条件によっては湿度を高めに設定しているクリーンルームもありますから、ネジが錆びることも起きます。その錆が振動によって飛散します。
 
 ただ、日常的に天井やへパフィルターの状態を確認する習慣は無いと思いますので、発見が遅れることもあります。このカバーは非常に重いので、一人での取り付け取り外しには無理があります。つまり、ネジが一つなくなるだけでも、他のネジでこのカバーを支えるということになりますから、カバーの落下や変形にもつながってきます。
 
 最近は、24時間、365日稼働という企業、職種も増えています。こういうところでは、自動化が進み、工場内の人が少なくなります。裏を返せば、24時間不良を作り続けるということにもなりかねません。人は2つの目を持っていますが、減った人数の2倍の目が少なくなるので、発見が遅れることに繋がります。不具合の発見の主役は人だという認識が欲しいです。
 
 クリーン化という観点では、工場、現場を良く巡回し、自分の目を肥やし、多面的に見られるようにしていただきたいです。経営者、管理、監督者、クリーン化担当、オペレータに至るまで、そのような目を養い現場を見ましょう。
 
 良く巡回し、注意深く見れば、色々なことに気が付きます。「クリーン化は感性だ!」と言われます。しかし、いきなり感性が身につくのではなく、このように地道な努力の継続が感性を育てるのです。現場とは、その場に現れると書きます。机に座って、データをまとめて、カッコいい報告書を作るより、現場を中心に置きましょう。
 
 この他、同様にネジが抜けて床に落ちていて踏んだという事例もあります。上から落ちて来たとは気が付かず、こんなところにネジが落ちているというだけで片付けてしまう場合があると思います。折角発見しても、なぜここにあるのか疑問を持たず、拾っただけで問題は消えてしまうわけです。その発見はもったいないですね。
 
 人は物を踏んだ時、敏感に反応します。瞬時に避けようとか、影響を少なくしようとし...
 乱流式や混流式のクリーンルームは、超微細加工の工程では使われていませんが、清浄度がクラス1000以下のクリーンルームでは採用されています。写真中央の天井にあるものは、へパフィルターをカバーが覆っている状態です。
 
              クリーンルーム
                           へパフィルターをカバーが覆っている写真
 
 乱流式や混流式のクリーンルームは、このように天井の所々から清浄な空気が供給されます(写真技術を用いて製品加工しているクリーンルームの撮影ですので、黄色い部屋となっています)。
 
 今回は、このフィルターカバーの事故事例を紹介します。へパフィルターのカバーは、正方形の場合は4個、長方形の場合は6個程度のネジで固定されています。空調が稼働している時は、部屋全体が振動しています。その振動は、フィルターカバーにも伝わっています。
 
 過去に、ある工場のクリーンルームで、このカバーの固定ネジが振動で緩み、抜け落ちた事例がありました。落下したネジは、運悪く写真の左側にあるようなドラフト内の硫酸槽の中に落ちてしまっていたという事例です。(該当工場と写真とは無関係です)硫酸の中に入ってしまったわけですから、このネジは少しずつ溶解します。硫酸に金属が溶け込んだ液で加工した製品であり、重大な品質問題になります。
 
 ネジの落下後から発見されるまでの間に処理されたと思われる製品の品質は、恐らく保証できないでしょう。この場合、廃棄処分されることが推測されます。また、硫酸槽も洗浄し液を入れ替える作業が伴います。
 
 ネジの落下がいつなのか不明な場合は、安全側に倒し、該当品よりも多く廃棄されます。この場合良品も含まれているので、その分は売れたはずですが、それも捨てることになります。これは第一種の誤り、あるいは生産者危険と言います。生産者側が損害を被るわけです。
 
 また、発見が遅れると市場、あるいは次の納入先が損害を被ることになります。これを第二種の誤り、あるいは消費者危険と言います。消費者が不良品を買わされるということです。市場に出回ってしまったものは回収するとか、実際に被害にあった消費者や納入先には保証も必要になります。これには多くの費用、時間がかかり、また会社の信頼も損ねることになります。
 
 へパフィルターのカバーのネジは、落下するだけでなく薬品の雰囲気や、製品の加工条件によっては湿度を高めに設定しているクリーンルームもありますから、ネジが錆びることも起きます。その錆が振動によって飛散します。
 
 ただ、日常的に天井やへパフィルターの状態を確認する習慣は無いと思いますので、発見が遅れることもあります。このカバーは非常に重いので、一人での取り付け取り外しには無理があります。つまり、ネジが一つなくなるだけでも、他のネジでこのカバーを支えるということになりますから、カバーの落下や変形にもつながってきます。
 
 最近は、24時間、365日稼働という企業、職種も増えています。こういうところでは、自動化が進み、工場内の人が少なくなります。裏を返せば、24時間不良を作り続けるということにもなりかねません。人は2つの目を持っていますが、減った人数の2倍の目が少なくなるので、発見が遅れることに繋がります。不具合の発見の主役は人だという認識が欲しいです。
 
 クリーン化という観点では、工場、現場を良く巡回し、自分の目を肥やし、多面的に見られるようにしていただきたいです。経営者、管理、監督者、クリーン化担当、オペレータに至るまで、そのような目を養い現場を見ましょう。
 
 良く巡回し、注意深く見れば、色々なことに気が付きます。「クリーン化は感性だ!」と言われます。しかし、いきなり感性が身につくのではなく、このように地道な努力の継続が感性を育てるのです。現場とは、その場に現れると書きます。机に座って、データをまとめて、カッコいい報告書を作るより、現場を中心に置きましょう。
 
 この他、同様にネジが抜けて床に落ちていて踏んだという事例もあります。上から落ちて来たとは気が付かず、こんなところにネジが落ちているというだけで片付けてしまう場合があると思います。折角発見しても、なぜここにあるのか疑問を持たず、拾っただけで問題は消えてしまうわけです。その発見はもったいないですね。
 
 人は物を踏んだ時、敏感に反応します。瞬時に避けようとか、影響を少なくしようとします。それで捻挫や転倒に繋がる場合もあります。また、落下中に人の頭に当たれば、大きなネジですから、怪我をするかもしれません。落下したネジが、床のグレーチィングの穴を通過し、床下の電装系に入り込み、電気的な問題に繋がるかもしれません。
 
 このように、品質問題だけでなく、安全上の問題(事故、災害の発生)に発展することも考えられます。たかがネジ一つでも、馬鹿にはできないですね。人間だって、目に見えない小さな細菌が原因で病気になったり、命を落とすのですから。
 
 

◆関連解説『環境マネジメント』

   続きを読むには・・・


この記事の著者

清水 英範

在社中、クリーン化25年の経験、国内海外のクリーン化教育、現場診断・指導多数。ゴミによる品質問題への対応(クリーン化活動)を中心に、安全、人財育成等も含め多面的、総合的なアドバイス。クリーンルームの有無に限らず現場中心に体質改善、強化のお手伝いをいたします。

在社中、クリーン化25年の経験、国内海外のクリーン化教育、現場診断・指導多数。ゴミによる品質問題への対応(クリーン化活動)を中心に、安全、人財育成等も含め...


「クリーン化技術」の他のキーワード解説記事

もっと見る
クリーン化について(その153)クリーン化の基礎(その15)

   ・前回の クリーン化について(その152)クリーン化の基礎(その14)の続きです。 【目次】 ▼さらに深く...

   ・前回の クリーン化について(その152)クリーン化の基礎(その14)の続きです。 【目次】 ▼さらに深く...


付帯設備の診断-3&-4 クリーン化について(その74)

    1.付帯設備の診断、蝶番の続き 付帯設備の診断、蝶番についての続きです。ここでは、ただ見るのではなく、絞り込んで見ること...

    1.付帯設備の診断、蝶番の続き 付帯設備の診断、蝶番についての続きです。ここでは、ただ見るのではなく、絞り込んで見ること...


クリーン化について(その119)人財育成(その20)

  国内の半導体事業が盛り返してきそうですが、例えば、熊本ではTSMCの第一工場が建設中です。さらに第二工場の建設が決まり、第三工場、さら...

  国内の半導体事業が盛り返してきそうですが、例えば、熊本ではTSMCの第一工場が建設中です。さらに第二工場の建設が決まり、第三工場、さら...


「クリーン化技術」の活用事例

もっと見る
クリーン化視点:ボール紙の芯に注意

 セロテープの芯はボール紙製であり発塵する。クリーンルーム内で使用可能なものはないかと最近聞かれたことがありました。同じようにお困りの方もいるのではないで...

 セロテープの芯はボール紙製であり発塵する。クリーンルーム内で使用可能なものはないかと最近聞かれたことがありました。同じようにお困りの方もいるのではないで...


クリーンルーム清掃手順の事例 その1

 今回は清掃手順について、事例を含めてお話します。  まず清掃の手順は、上から下へ、奥から手前が基本になります。これはクリーンルームやものづくり現場、一...

 今回は清掃手順について、事例を含めてお話します。  まず清掃の手順は、上から下へ、奥から手前が基本になります。これはクリーンルームやものづくり現場、一...


クリーン化活動は日々の巡回、監視から始めよう

 クリーン化の目的は、現場のゴミを減らし、ゴミ起因の品質問題を無くしていくことです。それにより、製品の歩留まりが向上し、不良損失が減り、利益が向上します。...

 クリーン化の目的は、現場のゴミを減らし、ゴミ起因の品質問題を無くしていくことです。それにより、製品の歩留まりが向上し、不良損失が減り、利益が向上します。...