2.知的資産の評価・保護
(3)商品の形態(狭義のデザイン)
商品の形態は、夢(企業理念)の後からついてくるものです。こんな商品を作りたい(この発信源は企業理念であり、自社が見いだした消費者の潜在願望です)から対応する形態(狭義のデザイン)を開発せよ、というようなことからデザイン開発が始まるものだと思います。
そして、今回の連載の考え方では、「こんな商品を作りたい」の前に「企業理念」が大きな指針として存在することになります。「こんな商品」を媒介として、「デザイン」が企業理念とつながります。
デザイン開発を外部のデザイナーに依頼するのであれば、企業理念と商品とのつながりを説明する必要があります。そうしないと、企業理念に適合したデザインの提案を受けることは難しいと思います。「企業理念を説明する努力」はデザインをキーワードとした企業経営において避けることはできません。
提案されたデザインの評価においても、単にきれいだとか安く作れるというような観点だけでなく、企業理念を体現しているのか、という観点からの評価が不可欠です。それなくして、(狭義の)デザインをブランド形成の資産とすることはできないのです。
商品の形態は意匠登録により保護されます。不正競争防止法によって、販売開始から3年間は自動的に「模倣」を排除することはできますが、商品の形態を「ブランド形成」に役立てようとするのであれば、意匠登録が重要です。意匠権は登録から20年存続させることができます。
顔がない、区別がつかないといわれてきた日本の自動車ですが、近年マツダがフロントグリルのイメージ統一を打ち出しています。BMWなどの欧州車と同様に、遠くからでもマツダ車だと分かることを目指しているようです。
マツダ車のSKYACTIV TECHNOLOGY搭載車の例※出典:マツダHP(http://www.mazda.co.)
フロントグリルのように商品の「顔」となる部分に特徴を持たせることは、ブランドづくりに大きく寄与するものです(「顔」が企業理念と一致していることが必要です)そのためには、「部分意匠登録」を活用することが重要です。部分意匠というのは「物品の部分の形態」を対象とした意匠登録です。自動車でいえば、ボディ全体の形態が異なっていたとしても、フロントグリルの形態が類似していれば、他人を排除できることになります。しかし、大きな問題があります。同じイメージのフロントグリルとはいうものの、モデルチェンジや新車種の登場により、微妙に変化していきます。これを記号化して示すと、下図のように、A1→A2→A3→B1といった具合です。
微妙に変化していくモデルチェンジのイメージ図
A1について意匠登録を受けたとします。A2、A3はA1の類似の範囲で保護されるとしても、B1は類似の範囲を外れている。他方、B1はA1には類似しないがA3には類似する、ということがしばしば起こります。それならば、「A2、A3、B1も開発されたときに意匠登録を受ければいいじゃないか!」と思われるかもしれませんが、それはできません。
意匠法では、公知の意匠に類似する意匠は登録できないこととされており(2条1項3号)「公知の意匠」には自己の意匠も含まれます。したがって、デザインA1を取り込んだ商品を販売した後にA2、A3を登録することはできないのです。そして、A3とB1が類似するのですから、デザインA3を取り込んだ商品の販売後にB1を登録することはできません。意匠保護はA3で途切れてしまいます。
この対応策は、A1のデザインが公知になる前に、考えられる種々のバリエーションを検討して、出願する以外にありません。実際にこれを行うのはなかなか難しいことですが、これが意匠法による保護の現状です。このとき、すぐに採用しないデザインについては「秘密意匠」とすることをお勧めします。登録から3年間、秘密にしておくことができます。「そんなことを言われても、もう遅い!」という方もいるかもしれません。その場合は、不正競争防止法に頼ることになります。先に述べたように、不競法2条1項1号は、他人の商品・役務と出所混同するおそれのある表示を使用することを禁止しています。商品の形態も出所表示として有名であれば保護の対象になります。したがって、A3が周知であれば、デザインB1を採用した第三者に対して不正競争防止法に基づいて使用の差し止めを求めることが可能です。
また、デザインが商品の出所を表示する程度まで有名であれば、商標登録(位置の商標)を受けることも可能です。商標は新規性を要求されないので、A1の意匠登録の後に、A3やB1の登録を受けることも可能です。「位置の商標」は、2015年から登録の対象となりました。
(4)技術
技術も夢(企業理念)の後からついてくるものです。多くの技術主導でない中小企業では、「こんな商品を作りたいから対応する技術を開発せよ」というようなことで技術開発が始まるものだと思います。そして、本連載の考え方では、「こんな商品を作りたい」の前に「企業理念」が大きな指針として存在することになります。「こんな商品」を媒介として、「技術」も企業理念とつながるのです。同じ機能を達成する技術でも、企業理念に適合するものとしないものがあるでしょう。デザインと同様、開発された技術の採否においては企業理念との照合が必要です。
なお、必ずしも独自に技術開発を行わなくてもいい場合もあるということを指摘しておきます。特許電子図書館で検索すると、特許権が成立しなかった出願をたくさん見ることができます。しかし、特許にならなかったとはいえ、その技術は出願人が一所懸命考えたものです。それなりに価値があるものも多数あるはずです。
技術開発に着手する前に、過去の特許出願を調査することが重要であり、それによって開発期間、コストを低減することが...