【パテント・ポートフォリオの構築方法、連載目次】
5.パテント・ポートフォリオの「見える化」
パテント・ポートフォリオを事業展開と併せて、特許情報をベースに構築する方法について検討を行ってきましたが、具体的にパテント・ポートフォリオをどのように表現し、管理するかが次の重要な問題です。パテント・ポートフォリオは、「事業目的のために最適化された」特許群ですが、これを単なる時系列的な一覧表にしても目的に応じた管理はできません。最適化の状態を的確に把握できるような「見える化」の工夫が必要であり、そのためには特許群を適切に区分すること、及び特許に対する評価尺度を取り入れることが必要です。
図9.パテント・ポートフォリオ・シート
図9に示したパテント・ポートフォリオ・シートはその一例です。この表において縦軸は、課題、解決手段、用途で構成されていますが、その他に、素材、製造方法(あるいは製造工程)、製品と言った自社のバリューチェーンに対応させた項目で構成することもできます。一方、表の横軸は特許の評価項目で構成されます。評価項目は企業の知財管理の実態に応じて、色々と工夫することができますが、下記はその一例です。
① 特許の実施状況・・・・・現在実施中、実施予定、防衛、等
② 発明の事業への貢献度・・大、中、小
③ 回避の難易度・・・・・・難、中、易
④ 権利の状況・・・・・・・未審査請求、審査段階、登録済み、等
⑤ 残存期間・・・・・・・・満了まで何年を残すか(0~5、6~10、11~20、等)
このような評価は、特許出願の際のアイデア提案書等の段階から、経営者、研究開発担当者、知的財産担当者の密接な連携に基づいて、系統的に積み上げていくことが必要です。
この表の枡目には該当する特許出願(ないし特許)の件数が記入されます。数字をクリックすると特許出願の一覧表が表示され、さらにクリックすれば、個別の特許出願が表示されると言ったソフト上の工夫を行っておけば、管理しやすいシートになるでしょう。このようなシートを開発の初期の段階から作成するようにしておけば、開発・事業の展開に合わせて、継続的にパテント・ポートフォリオの構築を進めていくことができます。
6.知的財産管理
これまで述べてきたことから明らかなとおり、「戦略データ・ベース」の構築を軸とするこの一連の情報処理は、知的財産管理の全ての課題に対応するための効果的で効率的なマネジメント手法であると言うことができます。先進的な企業はすでにこうしたプロセスのかなりの部分を実行していると考えられ、今後、さらに多くの日本企業が知的財産管理に採用していくことを願っています。なお、残念ながらこのプロセス全般をカバーするツールはまだ存在しませんが、市販の様々な特許情報解析ツールあるいはエクセル、アクセス等を駆使することによって効率的にこれらの作業を進める環境は整いつつあると考えられます。
注記(引用文献、参考文献)
1)「「知的財産情報開示指針」2004年1月、経済産業省
2)「戦略的な知的財産管理に向けて-技術経営力を高めるために-」[知財戦略事例集]2007年4月、
経済産業省、特許庁
3)株式会社レイテックの提供データ
4)「TQMのための統計的品質管理」山田 茂他著、コロナ社
5)「特許流通支...