雑用に追われる社長を解放する唯一の手段は、強力な助っ人を雇うことではなく仕組みを作ることです。基礎体力を付けることです。基礎体力とは、「人材」「組織の役割」「しくみ」「固有技術力」です。以下に、企業の基礎体力作りのステップを解説します。
1. 経営理念、方針の周知徹底の仕組み
経営トップによる方針・目標を毎年度初めに立案して「経営方針書」を作成します。全社員を集め、社長自ら全社員を集め説明し理解させます。方針と、課題、年間の具体的な施策の実施項目と目標値を設定します。また、経営方針書には、中長期的に会社をどのような方向に持っていきたいのか、つまりどんな商品・サービスをどのように提供し、お客様の満足を得ようとしているのかを明確に記載します。社員一人一人の考えや行動は、この経営方針書の理解の上に立ったものでなければならないのです。
2. 組織の仕組み
【組織図】
社長の理念や方針を実行するためには、その考えに沿った組織が必要になります。つまり、軍隊で言う、どこにどのような役割の部隊を何人の構成で配置するのか、指揮官は誰が適任かを決めなければなりません。要員の訓練も必要になります。組織図も無い、組織の役割も曖昧のまま、人に仕事を依存するゲリラ戦法では、一時的な戦果は得られるでしょうが、いずれは敗退を余儀なくされるでしょう。目安として社員が10人を超えるようになったら、組織図は作成する必要があります。勝ちに行くための組織の重要性を認識する必要があります。「いや、うちにはちゃんと組織図はあるよ」と言われるかもしれません。しかし本当に今必要な、勝つための組織になっているでしょうか、3年前と全く変わらない組織図では、変化の激しい市場、個客にきめ細かく対応できるでしょうか。
【組織の責任権限明確化】
指揮命令系統が曖昧であったり、特定の能力がある個人に仕事が集中している組織は業務処理が非効率であったり、ミスが多発したり、様々な問題が生じます。組織の役割、組織の長、構成員の役割ははっきりと明文化しておく必要があります。ただし、社員の数が絶対的に少ない小規模企業では、助け合い精神で、お互いの仕事をカバーしながら行っていかなければならないことは、もちろんです。とは言っても、組織体系は仕事の分担・責任を明確にするうえで重要な要素となります。ライン業務とスタッフ業務、プロジェクト業務を明確に区分し、どの組織が何に責任をもって主体的に行うのかを明確化します。何をやっているのか分からない建前だけの部署名、役職名は即刻廃止すべきです。
3. 人材育成評価の仕組み
【人材マップ】の作成
社員一人一人の、業務の熟練度、特性などを「見える化」し把握することが人材を有効活用するための基礎として重要となっています。そのひとつの手法として「人材マップ」があります。個人の経歴、能力・技能のスキル、特性などのカテゴリーで「見える化」し採用・配置(ローテーション)・教育・評価の計画立案・実行に役立たせます。それにはまず、トップが会社として必要な人材像を明確にする必要があります。トップの描いた会社の将来像(経営方針書に記載)によって「求める人材像が明確になり、人材マップによって「社員の現状」が把握できれば、それらを引き算すると、人材ギャップが明確になります。将来必要となる人材に対して、現状ではどの職種、専門分野で、どういう能力を持った人材が何人足りない、というように、人材ギャップが質と量の両面で明らかになります。そこで、各個人ごとに教育ニーズも明確になります。
【人材育成計画】
人材ギャップが「見える化」されると、これまで感覚的に行っていた人材育成と人材活用を、よりシステマティックな形に改めることが可能となります。まず、人材育成については、人材ギャップを見ることで、身につけなければならないスキルが明らかになり、組織として優先的に引き上げるべきスキルを特定し教育などを集中的に実施します。特に人材の不足する中小企業においては、人材を固定せず、業務に対して柔軟に対応できる多能工化教育が求められます。直接員、間接員ともに多能工を目指します。
【信賞必罰】
一般の会社は、「信賞必罰」と口ではいいつつも、何を賞するか、何を罰するかはあまり明文化していません。極端に言うとすべて社長の胸先三寸です。そして、このような制度の曖昧な会社は不公平感がはびこっており、概して社内が暗いのです。組織を活性化し、メリハリをつけるために、信賞必罰制度を運用する仕組みを構築します。会社の求めるスキルを持った人材、実績評価基準が明確化されれば、おのずと誰もが納得いく信賞必罰制度の構築が可能です。透明性と、普遍的な基準を設けることによってそれは実現可能となります。
4. 業務の見える化
経営の状況(売上、経費、生産性・・・)、改善活動の進捗状況など、半期または年間の指標を明確にし、その達成度・推移のグラフを見えるところに張り出し、実績管理を行います。「見える化」する事によって、新たな問題点も見えてきます。日常業務で「見える化」する項目としては、次の様な内容です。
・受注計画と実績、生産計画と実績、売上計画と実績
・工程不良率、クレーム件数
・生産性、リードタイム
5. 改善活動の仕組み
日常の改善活動を定着させます。でも、決してQCサークル活動を始めてはいけません。QCサークル活動は、数々の矛盾を抱えた改善活動であり、はっきり言って、改善効果は得られません。もっとも問題なのは、発表会でウソ発表を行うことです。QCストーリーは、日常業務の改善には役に立ちません。特性要因図や、パレート図など、QC7つ道具もあとからつじつま合わせ、発表のためのものに変質してしまっています。もしQCサークル活動を行っているのなら、即刻中止すべきです。時間とお金のムダ使いというしかありません。では、どのような日常改善活動をすればいいでしょうか。以下に、私が指導しているある会社の例を紹介します。
【毎日夕会】
日常の問題点、課題の整理と優先付けを毎日30分~1時間の会議でディスカッションを行います。(夕方または早朝に開催)役職者に経営者が加わり、司会と記録(議事録)は当番制にします。すぐ解決できる項目は、分担を決めて実行し、次回の会議で結果を報告します。実行に移した項目は、ルール化(手順書、業務マニュアル化)していきます。また、問題が複雑で原因究明や対策の試行が必要な、中長期で解決しなければならない項目、部門横断的な仕組みの構築が必要な項目はリストアップして、各部門が作成する年度「業務計画書」の中で取り組む、または専門的な課題に取り組むプロジェクト計画に追加していきます。
【業務計画書】
経営方針書のトップ方針に従って社員(役職者)は「業務計画書」を作成します。トップの方針や目標を達成するため、自部門の範囲で実施する目標を立てます。主な項目としては、半期、あるいは年間のQCDの目標達成するための改善です。
・売り上げ、利益の改善
・品質改善
・生産性の改善
・教育
・経費削減など
これは、日常のすぐに改善できる課題以外の中長期の改善項目・目標として、部門メンバー全員で分担して実施します。毎月実施した改善は、月末にトップを交えてレビューを行います。
6. 業務フロー・マニュアル作成・維持管理の仕組み
【業務フローの明確化】
個人商店では、業務の処理方法や、判断基準は個人の裁量に任されています。ただそれでは人によって仕事のやり方が違ってきます。また、社長はいちいち、それぞれの社員へ指示を出し、また結果を聞いてその都度判断を下さなければなりません。業務量が少ない、少人数の組織では、それは成り立ちますが、業務量が増大し社員数も増えてくるとそうはいきません。聖徳太子でもせいぜい10人の行動を把握できるだけです。そこで、業務処理を一定のルールで動かす必要が生じてきます。社長は、人を直接動かすのではなく、ルールによって業務をうまく回して人を動かすことが必要になってきます。それには、業務フロー、業務マニュアルを作成し、社内をすべて仕組み化して動かすようにします。業務マニュアルは作成して終わりではなく、問題が生じた時、新しい業務が増えた時は、見直しして、書き換えることが必要です。マニュアルを書き換える...