1. Hさんのエピソード
私の友人にHさんという方がいます。Hさんは応用理学部門の技術士を持っています。地質の専門家です。地震に関しても詳しい方です。そのHさんに関する5年前頃のエピソードについて書きます。
Hさんは地質調査の会社を経営しているので、Hさんの自宅の近所の方もHさんが地質の専門家だということを知っています。
そのこともあり、Hさんの自宅の近所に住む町内会の会長さんから「地震のことをわかりやすく書いた資料を作成してほしい」との依頼がありました。町内会の方々にその資料を配布するためだそうです。町内会の方々にも地震に関することを知ってもらい防災意識を高めてもらうことが目的だそうです。
Hさんは快諾してA4判の用紙2枚で資料を作成しました。Hさんが住んでいる地域の地質の説明、地震の発生メカニズム、首都直下型地震が発生したときのHさんが住んでいる地域での被害想定などをまとめました。
町内会長にその資料を渡す前に、Hさんの会社で働いている2名の女性に資料を読んでもらいました。2名の方とも主婦で地質や地震に関する専門知識を持っていません。
その資料を読んだ2名の方の感想は「内容が難しすぎてわかりません」でした。
私もそのときHさんの会社にいたので資料を読ませてもらいました。確かに、「地質や地震に関する専門知識を持たない一般の方が読むのには難しい内容だ」と思いました。地質や地震に関する専門用語も書かれていました。
Hさんは「わかりやすく書いたつもりだが」と言っていました。
このままでは町内会長にその資料を渡せないのでHさんはすぐに資料を修正しました。
専門家に向けた資料ならば専門用語を使うことができます。しかし、専門知識を持たない一般の方には専門用語を使うことができません。専門用語を使わずに、専門知識を持たない一般の方にもその意味がわかるように書く必要があります。
これが結構大変な作業だったそうです。資料を書き直すのに苦労したそうです。推敲を数回重ねて資料を完成させました。
完成した資料を2名の女性に読んでもらったところ「わかりやすくなりました」という感想でした。
そのときもHさんの会社にいたので資料を読ませてもらいましたがわかりやすくなっていました。Hさんの苦労が資料から読み取れました。
2. わかりやすく書くための条件
専門知識を持たない一般の方に向けて専門的な内容をわかりやすく書くことは難しいです。専門的な内容を掘り下げて理解していることでその内容をわかりやすく書くことができるからです。
“理解したつもり”ではわかりやすく書くことはできません。
例えば、専門用語の意味を掘り下げて理解していることでその専門用語を使わずにその専門用語のことをわかりやすく書くことが...
できます。
Hさんが数回の推敲で資料をわかりやすく書くことができたのは、地質や地震に関することをHさんが掘り下げて理解していたからです。
“書くべき内容(読み手に伝えるべき内容)を書き手が掘り下げて理解していることでそれをわかりやすく書くことができる”
これが、わかりやすく書くための条件の1つです。
Hさんのエピソードを思い出しながら、改めて、このことを認識しました。
【参考文献】
森谷仁著、「技術者のためのわかりやすい文書の書き方」、オーム社、平成27年3月20日