1. 能力資産B/S評価の必要性
筆者は、10年以上前に書籍の中で、コンピテンシー(思考・行動特性)などの無形資産の定量的経済性評価法を試みました。不確実性の高い今こそ、この評価法が自己分析に役立ちます。研究・技術者が生き残りを図り、また財務知識の学習のために、その考え方を試行していただければ幸いです。データのモデルケース分析は、コンピテンシーなどの資産評価を筆者の周囲の技術者に当てはめてみました。データの提供者は、好業績を上げている技術者、シニアマネジメント層、中堅技術者などです。彼らのシュミレーションデータに補正を加えて独自の基準を設定しました。
2. 能力資産B/S評価の手順と事例
バランスシートは、企業の資産や資本、負債や損益などを借方と貸方に分けて表現した表です。それを自己の能力に応用し、資産と負債に表現するのです。表1のA氏をモデルに、その手順とルールを紹介します。 表1 無形資産のB/S
1) 今後定年までの給与+退職金を基準として③④⑤に配賦します。
( 賃金総額 = 脳力資産 + 業務知識資産 + 属性資産 )
A氏(40歳)の事例で算出してみます。平均賃金を1,200万円/年とすると、定年までの賃金総額は1,200×20 = 24,000万円となります。
2) 賃金総額を3等分して③④⑤に記入します。 A氏の場合、3等分すると8,000万円となります。
3) 3分割した各々の額を下位の各々の資産項目に分割(等分)して、表2の評価基準を基に各々を掛け合わせます。
A氏の場合、③行動特性資産の分析力/判断力/情報収集・活用力、実行力および指導力の係数が部門内トップレベルの1.3で、創造力は部門内上位1/3レベルの1.0としました。ここで表示した行動特性資産は前述したコンピテンシーそのものでもあります。
④、⑤も同様に割り当てます。専門知識、人材開発および人間的魅力の係数を1.0で体力を0.7としました。ここでいう「人間的魅力」もコンピテンシーの一つです。
表2 評価基準
4) ⑥の投資は自己評価でポイント制とします。自己評価で3,000万円~500万円を各項目に割り当てます。例えば、自分の能力を100%発揮できる自己啓発に投資するとしたら、自己啓発を1,000万円と記入します。
A氏の場合、自己啓発に年収の5%を投資しており熱心なことから1,000万円を計上しました。学会活動で500万円、難しいテーマにチャレンジして数回失敗経験をもつことで500万円を計上しました。また、特許を15件出願していることから①に1,000万円を計上しています。さらに、数年前、本を出版しているため著作料として300万円、長期的研究テーマを保有している点と現在専門書を執筆中であることから繰延資産として、それぞれ500万円、200万円を計上しています。
②の資格資産については、技術士、弁理士、高度情報処理エンジニアなどの資格取得プロセスで高い能力の伸びが期待できるものを1,000万円としました。また、ISO監査のように市場価値の高い資格も1,000万円としました。
5) 負債の部の①は、自己評価で重大なミスがあった場合に3,000万円を計上します。 A氏の場合、会社の将来性に不安を感じて1,000万円を計上しました。また、国際テロによる環境変化に500万円、子供の進路問題での悩みに300万円、仕事の品質問題トラブルで300万円を計上しました。
6) ②の属性も自己評価で、最大3,000万円を計上します。 A氏の場合、プライドが平均より高く1,000万円を計上しました。
7) 資本の部は、資産合計から負債合計を引いた金額を割り当てます。総資本の1/3以上を外部から充当するのが必須条件です。特に、奥さんがどう評価しているかも重要なポイントとしました。 A氏の場合、奥さんの貢献度を約20%と標準的な値として評価しています。内助の功が認められればこのスコアは40%まで加点します。
能力指数 = 資産合計/今後の賃金総額 と定義して、A氏をモデルにプロフェショナル度を評価してみましょう。ここでは次のように定義しました。
a)1.5≦能力指数 独立も可能で企業外でも通用するプロフェショナルレベル
b)1.2≦能力指数<1.5 企業内プロフェショナルレベル
A氏の計算値で評価をおこなってみましょう。
A氏の能...