「巷ではイノベーションはひらめきの賜物であるから起こそうと思って起こせるものではない」という声もありますが、イノベーションを起こすための方法は存在します。今回は「イノベーションを起こすためには」について解説します。
ひらめきを起こすための方法をオットー・シャーマン博士がU理論で論じていますが、U理論を簡略に説明することは難しいので、ここでは次のヨーゼフ・シュンペーターのイノベーションの定理に沿って(ひらめきとは別に)述べていきます。
- ① 新しい財貨の生産
- ② 新しい生産方法の導入
- ③ 新しい販売先の開拓
- ④ 新しい供給源の獲得
- ⑤ 新しい組織の実現
①はプロダクトイノベーションともいわれ、世間ではこちらが一般的かと思います。③の一例としては、製造業が流通業を通さないで直販して安価に販売するモデル(ユニクロ等)があります。その他の項目も大きな価値を生み出す源泉となった例がたくさんあります。
Vijay Kumar(ヴィジャール・クマール)博士は以下の過程を経てイノベーションを起こすことができるといっています(これはU理論にもかなり似ているプロセスです)。
①調査、②分析、③ビジネスモデル策定、④プロデュース、です。
調査は顧客を知ることです。次いで分析では顧客に対してどのような価値を与えるべきかを解析します。さらにビジネスモデル策定ではどのようなビジネスモデルでマネタイズするかを設計します。最終的にプロデュースでは実際に価値を形にしてビジネスモデルに乗せてビジネス化します。通常①から④までを同じ人が行うよりは別々の部署で行うことがほとんどです。
調査や分析を実施する際にはビッグデータ解析が役に立ちます。例えば弊社で住宅メーカーがどのような時に人は住宅を購入するのか(調査)、どのような人がどのような住宅を欲しているのか(分析)を実施した時の一例を示します。
家を買うのは何かしらの人生の変化のタイミング(結婚・出産・移住等)であることは誰でも分かっていることだと思います。特に子供が大きくなってきたタイミングで家を買う人が多いだろうということで子供向けのキッズデザインの家を売り文句としていた住宅メーカーでの調査結果として、キッズデザインの家を購入した際の参考理由に「老人介護にも便利な家」という視点があることが分かりました。キッズデザインとは家のコーナーの角を危なくないように柔らかく丸めたデザインにしたり、家のどこにいても家中が見回せて子供の様子を見ることができる等の特徴があり、それが介護にもとても便利とのことで好評でした。これに介護用としてトイレに車椅子が入れるよう出入口を広くしたり介護用機能を付け加えることで後々便利だという売り文句でも販売可能となります。
また分析の結果、高気密高断熱に関しては家族の健康を維持してくれる機能、耐震制震は命を救う大切な機能と考えている人が多くいること以外に「終末期医療」など今後の世の中の流れとして、人は病院ではなく自宅で亡くなるようになることを考えても介護に優しい家は価値があるということが分かりました。住宅メーカーの場合③ビジネスモデル策定、④プロデュースは、現在の資産を流用できるので新たに実施するよりは現状の手直しで対応可能となります。
この例とは別に全く新しい商品を世に出す場合は③ビジネスモデル策定、④プロデュースがとても大切な成功要因となります。
もう一つ大切なことは既存ビジネス市場と重なる商品を世に出す場合は、まったく別の企業体としてプロジェクトを進めないと上手くいきません。例えば、既存の商品より10倍の効果がある画期的...