市場トラブルを未然に防止する設計品質の向上

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1.設計品質とは

 日本品質管理学会による「品質」の定義は「製品・サービス・プロセス・システム・経営・組織風土など、関心の対象となるものが明示されたまたは暗黙のニーズを満たす程度」です。直感的に思い浮かぶ「製品」の品質だけでも、次の3つに分類されます。

  • 市場品質:価格や市場での使用状態など、最終的に顧客が評価する品質水準(要求品質)
  • 設計品質:顧客の要求に合った製品品質を、自社の技術力を考慮して決定した品質水準(狙いの品質)
  • 製造品質:設計品質に基づいて実際に製造した、ばらつきを含む製品の品質水準(できばえの品質)

 製造業の歴史をたどれば、図1のように太平洋戦争後の重要項目は③の製造品質でした。90年代になり、モノが社会に行き渡り、高い製造品質が当たり前になると、顧客要求に応える設計品質②の重要性が高まりました。

(図1)製造業における重要項目の変遷 [筆者作成]

 モノ不足時代は万人向けの仕様を大量生産することが大事で、初期設計に不備があっても、生産しながら改善してゆくTQC活動が有効でしたが、要求の多様化に伴って次第に多種少量生産になりこの手が通じにくくなったことも、設計品質重視と関係しています。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

2.技術経営における設計品質の位置づけ

 日本の製造業はHow to make(どう作るか)に優位性があるものの、What to make(何をつくるか)に課題があるといわれます[1]。均質な教育と単一民族の共通認識という国民性からくる安定感ある製造現場の能力は、今でも国際的競争力があります。一方でWhatとHowの中間領域ともいえる設計工程は、強みと弱みの中間領域でもあります。

 国土交通省が発表する自動車リコールの分析[2]によると、平成28年度リコール届出件数に占める設計起因件数の比率は91%に上り、製造起因9%より圧倒的多数となっています。

 このデータをみても、技術の高度化・複雑化が進んだ現代で、製品の品質を製造段階のみで確保する事は困難になっており、上流工程にあたる設計で品質を確保する重要性は従来以上に高まっており、技術経営の中でも大きく取り上げるべきと考えます。

3.設計開発のプロセスと効果的ツール

 一般的な製品設計プロセスを図2に示します。企画から生産準備までの各段階で効果的なツールが多数あります。ツールの目的は(1)顧客要求の反映、(2)既存知識の活用、(3)設計方針の徹底、(4)設計効率化、期間短縮、(5)製品信頼性の確保などです。図中のツール群中で青く染めた品質機能展開(QFD:Quality Function Deployment)、TRIZ、タグチメソッドは、設計3種の神器とも呼ばれます。QFDで二元表形式を使ったユーザーの要求(VOC:Voice of Customer)から製品仕様を導出し、TRIZでその仕様を満足するための技術的アイデアを発案、さらにタグチメソッドでそのアイデアを具体的に設計することで、設計品質を高め、市場での問題を未然に防止するわけです。

(図2)設計工程と効果的ツール

4.先進企業の導入事例

 上記のような時代背景にあって先進的企業は、図2のような一連のツール群を活用して高い設計品質を向上しています。ここでは3社の事例を紹介しましょう。

(1)パナソニック[3]

 パナソニックでは2000年からQSD (Quality Stabilized Development)活動という名のもと、図3のようにQFD/TRIZ/タグチメソッド(品質工学)を活用して設計品質を安定化し、ひいては製品問題を未然防止する試みで成果をあげてきました。本社直轄の独立採算性組織が「QSD実践スクール」という2週間のプログラムで3手法を用いながら実際の技術課題を解決し、技術者の実践力を向上する仕組みが特徴で、2006年の時点で国内外17拠点において3000テーマの実績をあげています。

(2)オリンパス[4]

 オリンパスでは以前から各種手法の教育制度や推進活動がありましたが、さらに実践的な活動としてQFD/TRIZ/タグチメソッドを組み合わせた開発プロセス改善施策を2009年から導入し、現場のニーズに合わせて各手法を目的別に展開しています。これによって実行者の学習負担が減少し、短時間で手法を習得しながら実務上の成果もあがるようになっています。

(3)アルプス電気[5]

 中国での生産性の高まりに脅威を感じたアルプス電気は、2000年から3Dツールを駆使したデジタルマニュファクチャリングにタグチメソッドとQFDを導入する「一発完動」活動を開始し、プロセス革新を進めました。これによって型起こしから量産開始までのリードタイムを50%削減するなどの...

1.設計品質とは

 日本品質管理学会による「品質」の定義は「製品・サービス・プロセス・システム・経営・組織風土など、関心の対象となるものが明示されたまたは暗黙のニーズを満たす程度」です。直感的に思い浮かぶ「製品」の品質だけでも、次の3つに分類されます。

  • 市場品質:価格や市場での使用状態など、最終的に顧客が評価する品質水準(要求品質)
  • 設計品質:顧客の要求に合った製品品質を、自社の技術力を考慮して決定した品質水準(狙いの品質)
  • 製造品質:設計品質に基づいて実際に製造した、ばらつきを含む製品の品質水準(できばえの品質)

 製造業の歴史をたどれば、図1のように太平洋戦争後の重要項目は③の製造品質でした。90年代になり、モノが社会に行き渡り、高い製造品質が当たり前になると、顧客要求に応える設計品質②の重要性が高まりました。

(図1)製造業における重要項目の変遷 [筆者作成]

 モノ不足時代は万人向けの仕様を大量生産することが大事で、初期設計に不備があっても、生産しながら改善してゆくTQC活動が有効でしたが、要求の多様化に伴って次第に多種少量生産になりこの手が通じにくくなったことも、設計品質重視と関係しています。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

2.技術経営における設計品質の位置づけ

 日本の製造業はHow to make(どう作るか)に優位性があるものの、What to make(何をつくるか)に課題があるといわれます[1]。均質な教育と単一民族の共通認識という国民性からくる安定感ある製造現場の能力は、今でも国際的競争力があります。一方でWhatとHowの中間領域ともいえる設計工程は、強みと弱みの中間領域でもあります。

 国土交通省が発表する自動車リコールの分析[2]によると、平成28年度リコール届出件数に占める設計起因件数の比率は91%に上り、製造起因9%より圧倒的多数となっています。

 このデータをみても、技術の高度化・複雑化が進んだ現代で、製品の品質を製造段階のみで確保する事は困難になっており、上流工程にあたる設計で品質を確保する重要性は従来以上に高まっており、技術経営の中でも大きく取り上げるべきと考えます。

3.設計開発のプロセスと効果的ツール

 一般的な製品設計プロセスを図2に示します。企画から生産準備までの各段階で効果的なツールが多数あります。ツールの目的は(1)顧客要求の反映、(2)既存知識の活用、(3)設計方針の徹底、(4)設計効率化、期間短縮、(5)製品信頼性の確保などです。図中のツール群中で青く染めた品質機能展開(QFD:Quality Function Deployment)、TRIZ、タグチメソッドは、設計3種の神器とも呼ばれます。QFDで二元表形式を使ったユーザーの要求(VOC:Voice of Customer)から製品仕様を導出し、TRIZでその仕様を満足するための技術的アイデアを発案、さらにタグチメソッドでそのアイデアを具体的に設計することで、設計品質を高め、市場での問題を未然に防止するわけです。

(図2)設計工程と効果的ツール

4.先進企業の導入事例

 上記のような時代背景にあって先進的企業は、図2のような一連のツール群を活用して高い設計品質を向上しています。ここでは3社の事例を紹介しましょう。

(1)パナソニック[3]

 パナソニックでは2000年からQSD (Quality Stabilized Development)活動という名のもと、図3のようにQFD/TRIZ/タグチメソッド(品質工学)を活用して設計品質を安定化し、ひいては製品問題を未然防止する試みで成果をあげてきました。本社直轄の独立採算性組織が「QSD実践スクール」という2週間のプログラムで3手法を用いながら実際の技術課題を解決し、技術者の実践力を向上する仕組みが特徴で、2006年の時点で国内外17拠点において3000テーマの実績をあげています。

(2)オリンパス[4]

 オリンパスでは以前から各種手法の教育制度や推進活動がありましたが、さらに実践的な活動としてQFD/TRIZ/タグチメソッドを組み合わせた開発プロセス改善施策を2009年から導入し、現場のニーズに合わせて各手法を目的別に展開しています。これによって実行者の学習負担が減少し、短時間で手法を習得しながら実務上の成果もあがるようになっています。

(3)アルプス電気[5]

 中国での生産性の高まりに脅威を感じたアルプス電気は、2000年から3Dツールを駆使したデジタルマニュファクチャリングにタグチメソッドとQFDを導入する「一発完動」活動を開始し、プロセス革新を進めました。これによって型起こしから量産開始までのリードタイムを50%削減するなどの成果をあげています。
以上の事例において、ツールはあくまで目的ではなく道具であって、単に使えば良いというものではありませんが、正当な目的意識のもとで適切に導入すれば大きな成果が期待されます。現状のやり方に甘んずることなく、これら実績のあるツールの活用に挑戦していただきたいものです。前記、設計3種の神器については、来月以降個々に詳細を解説します。

(図3)パナソニックのQSD(品質安定化開発)活動

【参考文献】
[1] 藤本隆宏, 「日本のもの造り哲学」, 日本経済新聞社, 2004
[2] 国土交通省自動車局, 「平成28年度リコール届出内容の分析結果について」, P54, 2018
[3] 甲斐野真次, ”未来を開くQSD品質安定化設計手法”,標準化と品質管理, Vol.59, No.6, pp.31-35 (2006)
[4] 緒方隆司, 「製品開発は“機能"にばらして考えろ」, 日刊工業新聞社, 2017
[5] 谷本勲, ”アルプス電気の技術革新活動”, MMRC Discussion Paper, No.147, pp.9-13, 2007

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この記事の著者

熊坂 治

ものづくり革新のナレッジを広く共有、活用する場を提供することで、製造業の課題を解決し、生産性を向上します。

ものづくり革新のナレッジを広く共有、活用する場を提供することで、製造業の課題を解決し、生産性を向上します。


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