技術企業の高収益化:できる経営者は直感を磨いている

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◆ 高収益経営者の判断基準とは

1、「そんな基礎的な調査はうちではできんから横においとき」

 A社での夏の暑い会議室の席上、メンバー10人くらいの前で社長はこんなことを言いました。その一言で、ムシムシした会議室の空気が一瞬凍ったのを記憶しています。「横においとき」というのは、要するに「やめておけ」ということ。社長の「鶴の一声」でそのテーマは取りやめになりました。

 そのテーマがどんなテーマだったかというと、A社がこれまで取り引きがない会社と取引開始しようとした際に、取引条件にはなっていなかったものの、相手先のエースとおぼしき人物がふと漏らした一言にフォーカスしようというのがその会議でのテーマでした。

 A社は金属加工の会社で、加工技術の精度の評価方法についてこれまでごく一般的な評価はしていましたが、競合会社がやっていないような評価方法で評価をすることはありませんでした。A社の社員は、お客様のエースがA社に委託する製品について「こんなことについて評価できないかな?」とつぶやいていたのを、聞き逃さなかったのです。そして、開発テーマとして上げました。

 このテーマを詳しく公開できればいいのですが、守秘義務があるため開示できません。私なりの考えでいうとかなり面白いテーマで実際、A社社員と話をしていて「この技術なら原理に迫れるかもね、そうなったら原理的な特許が取れそうだよね。」という話が盛り上がるほどユニークなテーマでした。

 原理とは、現象が起こる根本の理屈のこと。こうした原理に迫った研究開発は、最も効果性が高くなりますし、特許を強くします。「やめとけ」しかし、です。テーマの説明を少し聞くなり、社長が冒頭の一言を言われました。要するに「やめとけ」ということです。

 理由については、非常に単純明快だったと思います。続けて社長はこんな言葉を言われました。「そんな、カネにもならなさそうなテーマやっても、儲からん」ということ。

 この言葉を聞いて、私を含めて一同が絶句しました。少々短気な性格で話に勢いのある社長だけに、一度話し始めると止められない部分がありました。そのため、冒頭の説明のように夏の暑い会議室が凍ったような雰囲気になったというわけです。私も「その場で説得を試みても、この社長の場合は無駄だな」と思って発言は控えました。

 結果として、この会議室でのやり取りにより、テーマ自体はやらないことになったことは、非常に残念に思いました。なぜ残念かというと、A社に対し私は以下のような評価をしていたからです。

 A社では従来、こうしたテーマを扱わなかったようですが、私には以下のような特徴が魅力的に映っていました。

  • お客様が明確には要望していないが、要望している
  • 競合が実施していない評価方法である
  • 根本原理に迫れそう
  • 原理の特許になり得るアプローチである

2、高収益経営者:変節

 経営者にとってこの4つが魅力と感じられるかどうかは、それぞれの考え方次第だろうと思います。センスといえばセンスですが、すべての項目に合理的な理由があるため、知識といえば知識です。

 コンサルタントの立場からいえば、経営者であれば、この点には直感(センス)が働くようになっていてほしいのです。この4つがそろったテーマには「これはいい!」と直感でいえるようにしてほしいと思います。

 さて、A社の話に戻ります。後日、A社社長は先般の会議では魅力と受け取らなかったあのテーマについて私は直接説明を試みました。なぜかというと、A社社長は分かる人だと信じていたからです。

 なぜA社長が分かる人だと思うのか、A社社長は直感力の高い方です。直感力の高い方は、理由さえ分かればすぐに考えを変えられます。良い意味で自説に固執しないのです。逆に、直感が鈍い方は、いろいろと考えますが、行動しない傾向にあるように思います。

 時を選んで社長と話し合って、説明すると社長はすっきりと理解を示し、結局このテーマは実施することになったのです。さらに「そういうことなら、お金も必要なだけ使ってください」とのことでした。まさに、朝令暮改といいましょうか。オーナー企業ならではの事態が起こりました。喜んだのは私だけではありません。テーマ発案者の方も喜び、評価装置を購入して評価するに至りました。

 「結果は、、、」新装置で評価した結果ですが、予想通りの結果の部分もあれば、そうでない部分もあり、加工の時に「何が起こっているのか」を考えるのに有用な材料が得られました。

 詳しくは、本稿の趣旨から逸れるため書きませんが、A社ではその後特許を出願し、出願済みの状態でお客様に提案に行くといううれしい結果を実現できたのです。その後は現在進行形ですが、業界の常識を変える加工方法を提案できるかもしれない、とA社では画策しています。

 今回、何を本稿で書きたかったのかというと、直感を大事にして欲...

経営者

◆ 高収益経営者の判断基準とは

1、「そんな基礎的な調査はうちではできんから横においとき」

 A社での夏の暑い会議室の席上、メンバー10人くらいの前で社長はこんなことを言いました。その一言で、ムシムシした会議室の空気が一瞬凍ったのを記憶しています。「横においとき」というのは、要するに「やめておけ」ということ。社長の「鶴の一声」でそのテーマは取りやめになりました。

 そのテーマがどんなテーマだったかというと、A社がこれまで取り引きがない会社と取引開始しようとした際に、取引条件にはなっていなかったものの、相手先のエースとおぼしき人物がふと漏らした一言にフォーカスしようというのがその会議でのテーマでした。

 A社は金属加工の会社で、加工技術の精度の評価方法についてこれまでごく一般的な評価はしていましたが、競合会社がやっていないような評価方法で評価をすることはありませんでした。A社の社員は、お客様のエースがA社に委託する製品について「こんなことについて評価できないかな?」とつぶやいていたのを、聞き逃さなかったのです。そして、開発テーマとして上げました。

 このテーマを詳しく公開できればいいのですが、守秘義務があるため開示できません。私なりの考えでいうとかなり面白いテーマで実際、A社社員と話をしていて「この技術なら原理に迫れるかもね、そうなったら原理的な特許が取れそうだよね。」という話が盛り上がるほどユニークなテーマでした。

 原理とは、現象が起こる根本の理屈のこと。こうした原理に迫った研究開発は、最も効果性が高くなりますし、特許を強くします。「やめとけ」しかし、です。テーマの説明を少し聞くなり、社長が冒頭の一言を言われました。要するに「やめとけ」ということです。

 理由については、非常に単純明快だったと思います。続けて社長はこんな言葉を言われました。「そんな、カネにもならなさそうなテーマやっても、儲からん」ということ。

 この言葉を聞いて、私を含めて一同が絶句しました。少々短気な性格で話に勢いのある社長だけに、一度話し始めると止められない部分がありました。そのため、冒頭の説明のように夏の暑い会議室が凍ったような雰囲気になったというわけです。私も「その場で説得を試みても、この社長の場合は無駄だな」と思って発言は控えました。

 結果として、この会議室でのやり取りにより、テーマ自体はやらないことになったことは、非常に残念に思いました。なぜ残念かというと、A社に対し私は以下のような評価をしていたからです。

 A社では従来、こうしたテーマを扱わなかったようですが、私には以下のような特徴が魅力的に映っていました。

  • お客様が明確には要望していないが、要望している
  • 競合が実施していない評価方法である
  • 根本原理に迫れそう
  • 原理の特許になり得るアプローチである

2、高収益経営者:変節

 経営者にとってこの4つが魅力と感じられるかどうかは、それぞれの考え方次第だろうと思います。センスといえばセンスですが、すべての項目に合理的な理由があるため、知識といえば知識です。

 コンサルタントの立場からいえば、経営者であれば、この点には直感(センス)が働くようになっていてほしいのです。この4つがそろったテーマには「これはいい!」と直感でいえるようにしてほしいと思います。

 さて、A社の話に戻ります。後日、A社社長は先般の会議では魅力と受け取らなかったあのテーマについて私は直接説明を試みました。なぜかというと、A社社長は分かる人だと信じていたからです。

 なぜA社長が分かる人だと思うのか、A社社長は直感力の高い方です。直感力の高い方は、理由さえ分かればすぐに考えを変えられます。良い意味で自説に固執しないのです。逆に、直感が鈍い方は、いろいろと考えますが、行動しない傾向にあるように思います。

 時を選んで社長と話し合って、説明すると社長はすっきりと理解を示し、結局このテーマは実施することになったのです。さらに「そういうことなら、お金も必要なだけ使ってください」とのことでした。まさに、朝令暮改といいましょうか。オーナー企業ならではの事態が起こりました。喜んだのは私だけではありません。テーマ発案者の方も喜び、評価装置を購入して評価するに至りました。

 「結果は、、、」新装置で評価した結果ですが、予想通りの結果の部分もあれば、そうでない部分もあり、加工の時に「何が起こっているのか」を考えるのに有用な材料が得られました。

 詳しくは、本稿の趣旨から逸れるため書きませんが、A社ではその後特許を出願し、出願済みの状態でお客様に提案に行くといううれしい結果を実現できたのです。その後は現在進行形ですが、業界の常識を変える加工方法を提案できるかもしれない、とA社では画策しています。

 今回、何を本稿で書きたかったのかというと、直感を大事にして欲しいということです。もちろん、短慮で良いという意味ではありませんし、熟慮してはいけないということでもありません。むしろ熟慮はすべきです。

 しかし特に大手企業と付き合って思うことですが、熟慮の末に機を逃がすことが多いように思えてなりません。「社内に持ち帰ってから、、、」では遅いことはよくあります。

 直感とは、日常的に熟慮している人が機会を得た時に即行動することをいうのだと思います。

 実際、A社では社長の直感が成果に結びつきそうな予感があります。A社社長は日常的に、業績向上のために熟慮しており、機会が現れたときに即行動したといえるでしょう。

 前述で「変節」と書いたとおり、A社社長は考えを変えた訳ですが、本人はケロリとしています。考えを変えることは必要であり、恥ずかしくはないと思っているようです。周りに与える影響は考慮しなければなりませんが、考えを変えることは恥ずかしいことではありません。

 さて、読者の皆さん、あなたは機会が来たときに即行動できるように、日常的に熟慮をしていますか?

 

 【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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