【連載目次】
2、官能検査の種類 ~ 試験、パネル、分析
前回のその3に続いて解説します。
2.2 官能検査 分析型パネルと嗜好型パネル
官能検査を行うにはまず、評価をするヒトの特性を明らかにする必要があります。ヒトの感覚はそれぞれ異なるのはもちろんのこと、個人でもその時々で判断が変わるのが一般的です。すなわち人間の感覚を測定器の代替とする官能検査は、機器測定とは異なり、本質的にバラツキを伴う事を考慮して実施する必要があります。
そして研究の対象物を評価し客観的なデータを得るためには、その目的にかなった人を選ぶこと、すなわちパネル(panel:官能検査を行うために選ばれた人達の集団)の選定が必須となります。しかし現実には「選ぶ」のではなく研究者の身近にいる人、例えば研究所関係者あるいは、学生などで代替されているのが現状です。もちろん彼らで十分に目的を達する事もあります。ただし一般性を持たせる為には、ある範囲での条件設定が必要となります。
官能検査を行う人の種類は大別すると、次のように分析型官能検査と嗜好(しこう)型官能検査に分類できます。
(1) 分析型官能検査
分析型官能検査とは、検査対象物の特性(例えばケーキの甘味の強さとか、肉の硬さなど)を評価したり、品質間の差異を識別したりすることです。従ってこのような検査を行うパネルには、鋭敏な感度が要求されます。目的に応じ、専門的な教育を必要とする場合もあります(分析型パネル)。工程管理や品質管理などを評価し、人数は1~10人程度の少人数になるのが特徴です。ワインのソムリエがこれに該当します。
(2) 嗜好型官能検査
嗜好型官能検査は、評価する対象物の嗜好(好み)を評価することです。従ってパネルは、食品の好き嫌いの判断ができる人であれば良いのです(嗜好型パネル)。
ただし一般消費者の嗜好を代表するようなパネルを選ぶことが大切です、なお、パネルの属性(年齢、生活環境など)が評価結果に影響を与える恐れがない場合、学生とか社員など身近な集団を利用することもできます。
分析型パネルは検査員個人の持つ感情を入れずに、感覚による客観的な判断をしなければならないのです。これに対し嗜好型パネルは、個人の好みを判断するので、当然その判断は感情によるもので主観的な判断となります。つまり、分析型官能検査はヒトの感覚器官を使ってモノの特性を測ることであり、嗜好型官能検査は逆にモノを使ってヒトの感性を知ることであるといえます。従って自ずと両官能検査のパネルの使い分けが必要となります。
(3) パネルの条件
味覚の感度は、刺激の種類によって変わるといわれています。例えば、甘味に対して鋭敏な感度を持っていても酸味や苦味に対しては必ずしも鋭敏とは限らないのです。また刺激の与え方(水溶液とか固形物)、テストの方法(2点識別試験法とか3点識別試験法)などによってそれぞれ得手不得手があり、検査の方法によって個人の成績が必ずしも一貫しているとはいえません。
また味覚感度は、個人の特性(性格とか経験など)によって変化します。従って色々な方法を取り入れ、総合的な判断によってパネルを選ぶことが大切です。さらにパネルを選定するにあたっては味覚感度以外にも次のように、配慮すべき条件があります。
① 健康であること
まず第1に心身共に健康であること、病気の時、悩みのある時などは判断があいまいになる可能性もあります。パネルは常に判断の安定性や妥当性が要求されます。
② 興味や意欲があること
官能検査に対して興味や意欲のない人、すなわちやる気のない人はパネルに選ばない方が良いでしょう。官能検査を「やらされている」という意識で参加すれば、おそらく真面目に評価しようとはしません。評価意欲の程度は、判断(結果)に著しく影響を与えるものです。
③ 利用しやすいこと
社員でパネルを構成する場合、営業マンのように出張の多い従業員は不適です。三直勤務や出張の多い人などは感度が良くても選ばない方が良いでしょう。
④ 好みに過度の偏りがないこと
言うまでもなく、食品を評価するのに好き嫌いが激しいようでは正しい評価はできません。食品の好みについて事前に調査しておく必要があります。その他慎重さ、集中力、忍耐力、協調性などは官能検査の成績に関係しますが、現実にはこういうことを検査するには時間と労力がかかり、パネルを選定する手段として取り上げることは難しいのです。