~活用とその課題 半導体を活用しよう(その1)

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1. 半導体産業 ~ 国家や企業の命運分けるカギに

 いわゆる米中半導体戦争が報じられ、国家の威信をかけた半導体産業の攻防が行われています。一方、半導体業界では1兆円を超す金額の買収劇が繰り返され、企業の生き残りも熾烈(しれつ)になってきました。

 どうして半導体が国家やグローバル企業の命運を懸ける対象となるのでしょうか。それは先端技術を用いる多くの領域で、半導体が競争力を生み出し価値を創出するからです。言葉を換えれば、半導体を満足に活用できなければ、国家の安全保障や企業の生き残りにも関わるということです。その本質は、規模を問わず小規模かつ少量生産の組込機器に向けて開発される製品においても変わりはありません。

 そこで今回は、少量生産の組込機器開発で半導体を活用することの利点、課題とその対策について概要を説明します。以下では半導体を詳細に分類して扱わず、できる限り共通事項を扱います。

2.  米中半導体戦争とは

 米国の規制や圧力によって、中国への米国技術を用いた先端半導体の輸出が大幅に制限されたことは周知の通りです。中国は2015年に「中国製造2025」で半導体自給率を2020年に49%、2030年に75%まで引き上げるとうたいました。2030年には、半導体サプライチェーンを世界先端レベルに引き上げるとされています(図1)。結果として米国政府は危機感を抱き、米中貿易戦争から半導体戦争へとエスカレートすることとなりました。


 現在、国家戦略に関わる先端技術としては最新モバイル通信規格の5GやAI、自動運転が挙げられます。このいずれにおいても、十分な競争力を実現するには高性能な半導体が不可欠です(図2)。

 高性能な半導体とは

  1. 大量のデータを短時間で高精度に処理できる(処理性能)
  2. 多くの回路・機能を内蔵している(高集積)
  3. 外形が小型で体積・面積あたりの実装効率がよい(高集積)
  4. 以上を満たしながら相対的に消費電力と発熱が小さい(処理性能)
  5. 独自の処理方式を実現できる仕組みが内蔵されている(処理性能)

 全部を満たすのは至難ですが、少なくともこのいくつかを満足させるのが高性能半導体です。高性能半導体があれば、現実世界をリアルタイムで学習しながら運転を改善できる自動運転車や、同じ面積・電力で何倍も何十倍も処理能力の高いデータセンターがより容易に実現できます。高性能半導体を持たないと、競争が圧倒的に不利になることは明らかです。

 半導体を活用することで競争力を実現する原理は、最先端技術を用いた高性能半導体に限らず、すでに成熟している半導体技術・製品でも本質は同じです。ライバルに先駆けて半導体を上手く製品に活用できれば、新機能や性能改善で製品価値を増すことも、部品コスト削減や小型化により製品コストを抑えることも可能となります。

3.  半導体活用の課題

 では身近なところで開発している組込機器を、半導体を用いて差異化し、ひいては製品の競争力を増すにはどうすればいいでしょうか。

 残念ながら、多くの組込機器開発の実態は『半導体で差異化』どころではないのではないでしょうか。期待する機能を実現させる開発(ハード設計、ソフト開発)に専門知識が必要なことに加え、生産数量が少量の場合は所望の半導体製品入手が容易でなく、入手できても価格や納期を満足できない場合があります。開発が完了しても、何年か後には製造中止(EOL)となる可能性もあります。加えて動作条件、実装条件(保存やリフロー条件)などで標準仕様外の保証を求めても、半導体メーカーは簡単には認めません(図3)。


 これらの課題が生じるのは、半導体製品が大量・少品種生産を大前提としているところに起因しています。半導体のビジネスは、納入数量を最優先します。生産ラインやサプライチェーン、ビジネスモデルのすべてが大量生産、大量販売が前提です。少量生産への柔軟な対応は一般に困難です。さらに短期間で製...

 

1. 半導体産業 ~ 国家や企業の命運分けるカギに

 いわゆる米中半導体戦争が報じられ、国家の威信をかけた半導体産業の攻防が行われています。一方、半導体業界では1兆円を超す金額の買収劇が繰り返され、企業の生き残りも熾烈(しれつ)になってきました。

 どうして半導体が国家やグローバル企業の命運を懸ける対象となるのでしょうか。それは先端技術を用いる多くの領域で、半導体が競争力を生み出し価値を創出するからです。言葉を換えれば、半導体を満足に活用できなければ、国家の安全保障や企業の生き残りにも関わるということです。その本質は、規模を問わず小規模かつ少量生産の組込機器に向けて開発される製品においても変わりはありません。

 そこで今回は、少量生産の組込機器開発で半導体を活用することの利点、課題とその対策について概要を説明します。以下では半導体を詳細に分類して扱わず、できる限り共通事項を扱います。

2.  米中半導体戦争とは

 米国の規制や圧力によって、中国への米国技術を用いた先端半導体の輸出が大幅に制限されたことは周知の通りです。中国は2015年に「中国製造2025」で半導体自給率を2020年に49%、2030年に75%まで引き上げるとうたいました。2030年には、半導体サプライチェーンを世界先端レベルに引き上げるとされています(図1)。結果として米国政府は危機感を抱き、米中貿易戦争から半導体戦争へとエスカレートすることとなりました。


 現在、国家戦略に関わる先端技術としては最新モバイル通信規格の5GやAI、自動運転が挙げられます。このいずれにおいても、十分な競争力を実現するには高性能な半導体が不可欠です(図2)。

 高性能な半導体とは

  1. 大量のデータを短時間で高精度に処理できる(処理性能)
  2. 多くの回路・機能を内蔵している(高集積)
  3. 外形が小型で体積・面積あたりの実装効率がよい(高集積)
  4. 以上を満たしながら相対的に消費電力と発熱が小さい(処理性能)
  5. 独自の処理方式を実現できる仕組みが内蔵されている(処理性能)

 全部を満たすのは至難ですが、少なくともこのいくつかを満足させるのが高性能半導体です。高性能半導体があれば、現実世界をリアルタイムで学習しながら運転を改善できる自動運転車や、同じ面積・電力で何倍も何十倍も処理能力の高いデータセンターがより容易に実現できます。高性能半導体を持たないと、競争が圧倒的に不利になることは明らかです。

 半導体を活用することで競争力を実現する原理は、最先端技術を用いた高性能半導体に限らず、すでに成熟している半導体技術・製品でも本質は同じです。ライバルに先駆けて半導体を上手く製品に活用できれば、新機能や性能改善で製品価値を増すことも、部品コスト削減や小型化により製品コストを抑えることも可能となります。

3.  半導体活用の課題

 では身近なところで開発している組込機器を、半導体を用いて差異化し、ひいては製品の競争力を増すにはどうすればいいでしょうか。

 残念ながら、多くの組込機器開発の実態は『半導体で差異化』どころではないのではないでしょうか。期待する機能を実現させる開発(ハード設計、ソフト開発)に専門知識が必要なことに加え、生産数量が少量の場合は所望の半導体製品入手が容易でなく、入手できても価格や納期を満足できない場合があります。開発が完了しても、何年か後には製造中止(EOL)となる可能性もあります。加えて動作条件、実装条件(保存やリフロー条件)などで標準仕様外の保証を求めても、半導体メーカーは簡単には認めません(図3)。


 これらの課題が生じるのは、半導体製品が大量・少品種生産を大前提としているところに起因しています。半導体のビジネスは、納入数量を最優先します。生産ラインやサプライチェーン、ビジネスモデルのすべてが大量生産、大量販売が前提です。少量生産への柔軟な対応は一般に困難です。さらに短期間で製造技術が進化しますので、積極的に製造中止しなければ採算が取れません。

 結果として、半導体部品の入手は諦めて市販ボードやモジュールを用いる場合もあると思われます。この場合は、少量でも比較的安価で容易に入手でき、ユーザーが多いものならば利用事例や参考資料も多いでしょう。最新半導体の難易度の高い基板実装や、電源を含む周辺回路を設計する煩わしさからも解放されます。しかしながら予期しない仕様変更や生産中止、入手難はあり得ますし、望むような特別仕様対応はほとんど望めません。


参考文献】

  1. 特集「半導体ウォーズ」、日経ビジネス、No.2064、 pp.24-41 (2020)
  2. 株式会社 エイジアム研究所:『平成29年度製造基盤技術実態等調査』、p.68 経済産業省(2018)
  3. 「偽造品をつかんでしまうかも…、製造中止で生じるリスク」EE Times Japan(2020/12/14)

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この記事の著者

脇本 康裕

コンピュータとソフトウェアを用いた組込機器(IoT/エッジ)が得意です。 マイコン制御やメディア処理、車載映像機器・セキュリティ、行動解析、電波センサに関わってきました。技術に挑戦しイノベーションを達成しましょう。

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