「まとめて作れば安くなる」という思い込みとは

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1.まとめると経済的か?

 世の中には、まとめて買うと経済的という観念が存在します。例えば、食品スーパーでは、じゃがいも1個100円、5個入りだと450円など、まとめ買いにより、1個あたりの価格が下がることで、得した気分になります。

 確かに、買った瞬間は儲かったなと思うかもしれませんが、5個すべておいしいうちに食べることができたら、という条件がつきます。もし、すべて食べきれずに1個捨ててしまったとしたら、4個を450円で買ったことになるので、1個あたり約112円を支払ったことになります。この場合、4個を400円で買った方が、50円儲かるのです。

 まとめ買いが積み重なると、家庭の冷蔵庫や台所の食材保管庫には、いつ買ったのか、いつ使うのかが分からないものであふれ、長期保存できそうなものは床下の収納庫へと押し込まれてしまい、年末の大掃除の時にゴミとして捨てられます。
 まとめて買うと本当に儲かるでしょうか。

 

2.現場でのまとめ生産

 生産現場においても、同じようなことが起きます。「まとめてつくると安くなる」と考えている人が多いようで、実際そのような作り方をしている工場が多いのです。いくつか例を挙げましょう。

 プラスチック成形品を製造するメーカーでは、検査前の仕掛品が山のように倉庫に置かれ、それらの仕掛品を管理する人を配置し、さらに、自社倉庫では間に合わず、別の倉庫を借りています。まとめてつくることで、倉庫管理の人件費、倉庫の賃料という追加費用が重なり、利益を圧迫していくわけです。現場の人は、この副作用には気づきません。

 金属部品加工メーカーでも同様に、1回の生産ロットが大きいため、大量に製品が出来上がります。「いずれ出荷されるだろう」という予測が外れ、作ったのはいいけれど、結局不良在庫となり、決算のときに経営者の頭を悩ませます。この代償も、現場の人は気づきません。

 食品加工メーカーの場合、半製品(包装・梱包する前の完成品)が大量に作られ、賞味期限が切れて廃棄されていきます。現場の人は、年間の廃棄金額を知るまで、この重大さに気づきません。

 「まとめて作れば安くなる」という思い込みは、中小企業だけでなく、大手企業についても同様です。最近話題となっていますが、ある大手電機メーカーでは、大規模な設備投資や大量の見込み生産により、確かに安く作ったのですが、結局は海外との競争激化の中、市場価格が下落し、過剰な在庫を抱えて経営を圧迫しました。しかも、在庫の評価額が下がり、900億円前後の追加損失を計上するなど、経営危機の状況が続いています。

 まとめて作っても、売れなければ意味がありません。ここを勘違いしている人が多いのです。まとめて作ることで、1個あたりの原価が下がり、表面上利益が出たように思えても、従業員の給与やボーナスは増えないのは、どんなに利益が出ていても、現金が手元になければ給与もボーナスも支払うことができないからです。先のじゃがいもの例で言えば、いくら1個あたりの価格が計算上下がったとしても、現金が外に出ていけば、お財布にはお金が残らず、子供のお小遣いを払えないということです。

 

3.なぜまとめ生産してしまうのか

 生産現場で錯覚を起こしてしまうのには、いくつか要因があります。
まず1つ目は、日常生活において、「まとめて買うと安くなる」という思い込みが存在するため、まとめて作れば安くなると、当たり前のように考えてしまうことです。

 2つ目は、機械をセットするのが手間だから、一度セットしたら、ある程度まとめて生産するのが効率的と考えてしまうことです。中には、セットするのに2時間以上かかる場合もあり、何度もセットしていては効率が悪いと、つい考えしまいます。

 3つ目は、原価計算のやり方で、実際に1個当たりの原価が下がるためです。原価計算では、共通するコストは配賦されるので、見かけ上は1個あたりの原価が下がるわけです。

 4つ目は、売上に計上されない製品は在庫として資産に計上されるため、損益計算書だけを見ると、利益が出ているように見えることです。しかも、製造現場では「売れたか、売れないか」という点に関心が低く、「効率的につくったかどうか」が判断基準となるので、売れないものでも、どんどんつくることに抵抗がありません。
 このような要因から、「まとめてつくれば利益がでる」と錯覚を起こしてしまうのです。

 

4.まとめ生産の正しい考え方

 製造現場に潜む錯覚に気づき、「まとめて作ると安くなる」という感覚的な判断を止め、数字を使った客観的な判断ができるようなしくみが必要です。多様化・高度化してくる...

1.まとめると経済的か?

 世の中には、まとめて買うと経済的という観念が存在します。例えば、食品スーパーでは、じゃがいも1個100円、5個入りだと450円など、まとめ買いにより、1個あたりの価格が下がることで、得した気分になります。

 確かに、買った瞬間は儲かったなと思うかもしれませんが、5個すべておいしいうちに食べることができたら、という条件がつきます。もし、すべて食べきれずに1個捨ててしまったとしたら、4個を450円で買ったことになるので、1個あたり約112円を支払ったことになります。この場合、4個を400円で買った方が、50円儲かるのです。

 まとめ買いが積み重なると、家庭の冷蔵庫や台所の食材保管庫には、いつ買ったのか、いつ使うのかが分からないものであふれ、長期保存できそうなものは床下の収納庫へと押し込まれてしまい、年末の大掃除の時にゴミとして捨てられます。
 まとめて買うと本当に儲かるでしょうか。

 

2.現場でのまとめ生産

 生産現場においても、同じようなことが起きます。「まとめてつくると安くなる」と考えている人が多いようで、実際そのような作り方をしている工場が多いのです。いくつか例を挙げましょう。

 プラスチック成形品を製造するメーカーでは、検査前の仕掛品が山のように倉庫に置かれ、それらの仕掛品を管理する人を配置し、さらに、自社倉庫では間に合わず、別の倉庫を借りています。まとめてつくることで、倉庫管理の人件費、倉庫の賃料という追加費用が重なり、利益を圧迫していくわけです。現場の人は、この副作用には気づきません。

 金属部品加工メーカーでも同様に、1回の生産ロットが大きいため、大量に製品が出来上がります。「いずれ出荷されるだろう」という予測が外れ、作ったのはいいけれど、結局不良在庫となり、決算のときに経営者の頭を悩ませます。この代償も、現場の人は気づきません。

 食品加工メーカーの場合、半製品(包装・梱包する前の完成品)が大量に作られ、賞味期限が切れて廃棄されていきます。現場の人は、年間の廃棄金額を知るまで、この重大さに気づきません。

 「まとめて作れば安くなる」という思い込みは、中小企業だけでなく、大手企業についても同様です。最近話題となっていますが、ある大手電機メーカーでは、大規模な設備投資や大量の見込み生産により、確かに安く作ったのですが、結局は海外との競争激化の中、市場価格が下落し、過剰な在庫を抱えて経営を圧迫しました。しかも、在庫の評価額が下がり、900億円前後の追加損失を計上するなど、経営危機の状況が続いています。

 まとめて作っても、売れなければ意味がありません。ここを勘違いしている人が多いのです。まとめて作ることで、1個あたりの原価が下がり、表面上利益が出たように思えても、従業員の給与やボーナスは増えないのは、どんなに利益が出ていても、現金が手元になければ給与もボーナスも支払うことができないからです。先のじゃがいもの例で言えば、いくら1個あたりの価格が計算上下がったとしても、現金が外に出ていけば、お財布にはお金が残らず、子供のお小遣いを払えないということです。

 

3.なぜまとめ生産してしまうのか

 生産現場で錯覚を起こしてしまうのには、いくつか要因があります。
まず1つ目は、日常生活において、「まとめて買うと安くなる」という思い込みが存在するため、まとめて作れば安くなると、当たり前のように考えてしまうことです。

 2つ目は、機械をセットするのが手間だから、一度セットしたら、ある程度まとめて生産するのが効率的と考えてしまうことです。中には、セットするのに2時間以上かかる場合もあり、何度もセットしていては効率が悪いと、つい考えしまいます。

 3つ目は、原価計算のやり方で、実際に1個当たりの原価が下がるためです。原価計算では、共通するコストは配賦されるので、見かけ上は1個あたりの原価が下がるわけです。

 4つ目は、売上に計上されない製品は在庫として資産に計上されるため、損益計算書だけを見ると、利益が出ているように見えることです。しかも、製造現場では「売れたか、売れないか」という点に関心が低く、「効率的につくったかどうか」が判断基準となるので、売れないものでも、どんどんつくることに抵抗がありません。
 このような要因から、「まとめてつくれば利益がでる」と錯覚を起こしてしまうのです。

 

4.まとめ生産の正しい考え方

 製造現場に潜む錯覚に気づき、「まとめて作ると安くなる」という感覚的な判断を止め、数字を使った客観的な判断ができるようなしくみが必要です。多様化・高度化してくる市場へ柔軟に対応し、利益を確保していくには、数字による判断が欠かせません。市場は常に変化しており、その変化の速度はますます早くなっています。このような時代には、数値による事実把握と迅速な意思決定の必要性が、今後はますます高まってくるでしょう。

 また、機械をセットするのに時間がかかるのであれば、セット回数を減らして効率化を図ろうとするのではなく、セット時間を短縮して効率化を図るべきです。もし、仮にセット時間が半分になれば、セット回数が倍になっても効率性は変わりません。

 そして、原価計算による利益の算出方法を見直すことが必要です。どれだけ売れてどれだけ現金が入ってきたかという視点が大切です。給与やボーナスを現金ではなく、在庫でもらっても構わないという人はいないでしょう。この感覚を持つことが大切です。

 つくったものが確実に売れるのであれば、まとめてつくっても構いません。売れるとはすなわち、製造現場で出荷日が明確になっていることと考えます。まず、現場に出て、工程間に置かれている仕掛品や倉庫の完成品に対して、「出荷日はいつ?」という問いかけからスタートしてみましょう。

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この記事の著者

近江 良和

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