銀色の電車が増えた!?進化を続けるステンレス車両のメリットとは

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銀色のステンレス車両(JR東日本東海道線E231系電車)

 

私たちの身の回りにある電車ですが、実は銀色の車両が増えてきています。この記事では、銀色の電車が増えた理由を素材や環境問題の観点から解説します。

【目次】


      1. 銀色の電車が増えてきた

      電車は私たちにとって身近な乗り物のひとつです。首都圏や京阪神など日本の大都市圏の鉄道網は世界でもトップクラスのネットワークを有し、生活に不可欠な存在となっています。
      その電車ですが、銀色の車両がますます増えてきていることにお気づきの方も多いと思います。今ではほぼ全てが銀色の車両となっている鉄道事業者や路線も多く、従来の色とりどりに塗装された車両のほうが少数派になりつつあります。この銀色の車両にはステンレス製とアルミ製の2種類がありますが、今回は全国の多くの路線で運行されているステンレス車両について紹介します。

      2. ステンレスで電車を作るメリットとは?

      ステンレスは鉄にクロムなどを加えた合金鋼で、一般の鋼鉄に比べて錆びにくいことから、身近なところでは食器、キッチンの流し台や水道栓、腕時計のケースやベルトをはじめ、衛生や美観、耐久性などを求められる用途に広く使われています。
      鉄道車両ではこの錆びにくい特性により、腐食による強度低下を見込む必要がなく軽い車体を作れるので運行時のエネルギーが節減でき、また作業の手間がかかり有機溶剤や粉塵による健康被害も懸念される塗装をしなくても済むというメリットが得られます。

      【関連記事:ステンレス鋼】

      日本では1950年代の終わりから導入が始まりました。当初は従来同様の鋼鉄製の骨組に外板のみステンレスを組み合わせていましたが、1960年代に入ると骨組も含めてステンレス製となり、加えて1980年代以降はコンピュータ解析技術の進化を受けた強度設計の最適化により、ますますの軽量化が進みました。

      日本初のステンレス車両(東急5200系電車)日本初のステンレス車両(骨組は従来同様の鋼鉄製)

       

      このように大きなメリットがあるステンレス車両ですが、従来の鋼鉄製の車両に比べて製造コストが高いため、当初は運行やメンテナンスのコスト削減を重視する一部の大手私鉄や地下鉄などから導入が進みました。
      大きな転機は1980年代半ば、当時の国鉄が大量導入を決定し、それに伴って多くの鉄道車両メーカーがステンレス車両を製造するようになったことでした。その後JR各社はもとより私鉄や第3セクター鉄道などへも広く導入されるようになり、今では大都市の通勤電車だけではなく特急列車やローカル線車両まで、各地で多くのステンレス車両が見られるようになっています。

       

      ローカル線でも活躍するステンレス車両(JR東日本大糸線E127系電車)ローカル線でも活躍するステンレス車両

       

      3. より滑らかで美しいデザインに

      さて、こうして改良と普及が進んできたステンレス車両ですが、外観デザインも時代とともに進化しています。

      ステンレスはその材料特性から複雑な形状への加工が難しいことに加え、軽量化のために外板を薄くしているので溶接の熱による歪みが生じやすく、その修正・カバーも無塗装のため困難なことから、1970年代までは側面にコルゲートと呼ばれる波状のステンレス板を張り付けた無骨な、良く言えば実用本位のデザインでした。
      このコルゲート付の車体は外観がゴツいだけでなく、洗車時に汚れが残りやすいというメンテナンス上のデメリットもありました。そこで加工技術や溶接技術に改良が加えられ、1980年代にはコルゲートを廃止して少数のプレスラインによって補強した車体へ、1990年代以降は凹凸のない平滑な車体へと進化してきました。現在生産されている最新のタイプでは連続溶接技術の確立によって外板の継ぎ目がなくなり、さらにすっきりしたスタイルとなっています。
      また電車の「顔」となる前面も、初期にはステンレス材料の加工の困難さから角ばったものが多かったのですが、現在では前頭部のみFRPや鋼鉄を用いる方法が一般化し、多彩なデザインが見られるようになりました。

      1960~70年代のステンレス車両(東急7000系電車)1980年代のステンレス車両(東急9000系電車)1990~2000年代のステンレス車両(JR東日本E233系電車)最新タイプのステンレス車両(東急2020系電車)時代を追って滑らかな外観に進化

       

      電車のもうひとつの重要なデザイン要素である色については、塗装不要というステンレス車体本来のメリットを生かすため、従来は色付の粘着フィルムを窓下などにアクセント的に貼...

      銀色のステンレス車両(JR東日本東海道線E231系電車)

       

      私たちの身の回りにある電車ですが、実は銀色の車両が増えてきています。この記事では、銀色の電車が増えた理由を素材や環境問題の観点から解説します。

      【目次】


          1. 銀色の電車が増えてきた

          電車は私たちにとって身近な乗り物のひとつです。首都圏や京阪神など日本の大都市圏の鉄道網は世界でもトップクラスのネットワークを有し、生活に不可欠な存在となっています。
          その電車ですが、銀色の車両がますます増えてきていることにお気づきの方も多いと思います。今ではほぼ全てが銀色の車両となっている鉄道事業者や路線も多く、従来の色とりどりに塗装された車両のほうが少数派になりつつあります。この銀色の車両にはステンレス製とアルミ製の2種類がありますが、今回は全国の多くの路線で運行されているステンレス車両について紹介します。

          2. ステンレスで電車を作るメリットとは?

          ステンレスは鉄にクロムなどを加えた合金鋼で、一般の鋼鉄に比べて錆びにくいことから、身近なところでは食器、キッチンの流し台や水道栓、腕時計のケースやベルトをはじめ、衛生や美観、耐久性などを求められる用途に広く使われています。
          鉄道車両ではこの錆びにくい特性により、腐食による強度低下を見込む必要がなく軽い車体を作れるので運行時のエネルギーが節減でき、また作業の手間がかかり有機溶剤や粉塵による健康被害も懸念される塗装をしなくても済むというメリットが得られます。

          【関連記事:ステンレス鋼】

          日本では1950年代の終わりから導入が始まりました。当初は従来同様の鋼鉄製の骨組に外板のみステンレスを組み合わせていましたが、1960年代に入ると骨組も含めてステンレス製となり、加えて1980年代以降はコンピュータ解析技術の進化を受けた強度設計の最適化により、ますますの軽量化が進みました。

          日本初のステンレス車両(東急5200系電車)日本初のステンレス車両(骨組は従来同様の鋼鉄製)

           

          このように大きなメリットがあるステンレス車両ですが、従来の鋼鉄製の車両に比べて製造コストが高いため、当初は運行やメンテナンスのコスト削減を重視する一部の大手私鉄や地下鉄などから導入が進みました。
          大きな転機は1980年代半ば、当時の国鉄が大量導入を決定し、それに伴って多くの鉄道車両メーカーがステンレス車両を製造するようになったことでした。その後JR各社はもとより私鉄や第3セクター鉄道などへも広く導入されるようになり、今では大都市の通勤電車だけではなく特急列車やローカル線車両まで、各地で多くのステンレス車両が見られるようになっています。

           

          ローカル線でも活躍するステンレス車両(JR東日本大糸線E127系電車)ローカル線でも活躍するステンレス車両

           

          3. より滑らかで美しいデザインに

          さて、こうして改良と普及が進んできたステンレス車両ですが、外観デザインも時代とともに進化しています。

          ステンレスはその材料特性から複雑な形状への加工が難しいことに加え、軽量化のために外板を薄くしているので溶接の熱による歪みが生じやすく、その修正・カバーも無塗装のため困難なことから、1970年代までは側面にコルゲートと呼ばれる波状のステンレス板を張り付けた無骨な、良く言えば実用本位のデザインでした。
          このコルゲート付の車体は外観がゴツいだけでなく、洗車時に汚れが残りやすいというメンテナンス上のデメリットもありました。そこで加工技術や溶接技術に改良が加えられ、1980年代にはコルゲートを廃止して少数のプレスラインによって補強した車体へ、1990年代以降は凹凸のない平滑な車体へと進化してきました。現在生産されている最新のタイプでは連続溶接技術の確立によって外板の継ぎ目がなくなり、さらにすっきりしたスタイルとなっています。
          また電車の「顔」となる前面も、初期にはステンレス材料の加工の困難さから角ばったものが多かったのですが、現在では前頭部のみFRPや鋼鉄を用いる方法が一般化し、多彩なデザインが見られるようになりました。

          1960~70年代のステンレス車両(東急7000系電車)1980年代のステンレス車両(東急9000系電車)1990~2000年代のステンレス車両(JR東日本E233系電車)最新タイプのステンレス車両(東急2020系電車)時代を追って滑らかな外観に進化

           

          電車のもうひとつの重要なデザイン要素である色については、塗装不要というステンレス車体本来のメリットを生かすため、従来は色付の粘着フィルムを窓下などにアクセント的に貼って運行路線や鉄道事業者の区別をはかるのが一般的でした。しかし最近ではステンレス車両の普及が進み、どこに行っても銀色の電車が見られるようになったことから、路線や事業者のイメージをより一層差別化するために、あえて車体全面を粘着フィルムによるラッピングや塗装などで着色するケースも増えてきています。

           

          イメージカラーに合わせてラッピング(小田急1000形電車)路線のイメージカラーに合わせてラッピングした例

          4. 時代に合わせてさらなる進化へ

          このようにして広く人々の移動を支えるようになり、デザイン面でも日本の都市や地域の風景を形づくる重要な要素となっているステンレス車両ですが、環境問題への注目度が高まった近年では軽量化による省エネルギー効果に加え、廃車の解体によって発生したステンレスくずを新車に使うステンレス素材に再生できるリサイクル性の高さも注目されています。
          ステンレス車両はこれからも進化し続け、新しい時代が要求するモビリティを担っていくに違いありません。

          都市の風景となったステンレス電車(京急新1000形電車)

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          この記事の著者

          嶋村 良太

          商品企画・設計管理・デザインの業務経験をベースにした異種技術間のコーディネートが得意分野。自身の専門はバリアフリー・ユニバーサルデザイン、工業デザイン、輸送用機器。技術士(機械部門・総合技術監理部門)

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