【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その165)へのリンク】
これまで五感を一つ一つとりあげ、それぞれの感覚のイノベーション創出における意義と、そこに向けての強化の方法について解説してきましたが、前回、前々回とアナロジー(注1)と体感についての解説を行い、前回の最後に「アナロジーは新しい思考空間へのドア/体感は新しい思考空間で発想を多いに広げるツール」と述べました。しかし、それまで体感を経由して得た経験・知識を活用して新しい思考空間で発想を広げる機会は、アナロジーだけではないように思えます。今回から、アナロジーを含めて体感を活用して「思考の扉を増やす」様々な機会について考えてみたいと思います。
(注1) アナロジーとは説明しにくい物や事を説明する場合に、すでに知っている他のもっとわかり易い物や事になぞらえて説明することです。たとえば蜘蛛の巣を説明する場合に(蜘蛛の巣を見たことの無い人を対象にと仮定して)、蜘蛛の巣は魚の網にとりもちがくっついているようなものなどと、その人がすでに知っていると思われるものを例に説明することです。
1.「他人」という扉を通じて思考の扉を増やす
人間は個人レベルで、その人生の中でその人固有の様々な体験をしてきています。我々が日々接する人(個人)という扉の向こうには、我々にとっては未知のその人が経験してきたその人固有の広い空間が、広がっています。我々の思考の空間を広げるのに、前回解説したアナロジーと比べても格段に広い空間、そして個人毎の様々な異なる空間がそこにはあるように思えます。それら扉とその向こうにある空間を、イノベーションに活用しない手はありません。
2.「他人」は様々で大きな広がりを持つ
身近に「他人」は沢山います。家族から始まって、親戚、知人、会社の同僚、上司、顧客、その他取引先の人、さらには電車の中で隣り合わせた人など。また、その外側にも沢山います。人間は現在地球上に80億人存在しています。それらの人達は80億人それぞれ固有の体験を重ねてきています。
さらに、思考空間を利用できるのは、現代に生きている人だけではありません。過去に存在し、記録に残っている人も数多く存在します。そして、実在しない「他人」も活用することができます。小説家、漫画家や芸術家が、自分達の体験や調査から、小説上の登場人物のように仮想の人物も生み出しています。
3. 多様性追求の先には「他人」の活用がある
多様性の追求はまさに、自分や自分達のグループ以外の人たちの知識や思考パターンをイノベーションに活用し...
4. 少し離れた人たちを深く理解する
自分と個人的に深い関係のある自分の家族のことや友人のことは、もちろん知らない部分はあるものの、かなり良く知っています。しかし、そのすぐ外側の人たちについては、作ろうと思えば比較的に容易に知る機会を作ることができるにもかかわらず、知らないことは極めて多いものです。
たとえば、製薬会社のエーザイは、自社の社員に潜在的な顧客である患者さんやその家族と触れる機会を作ることを重視しています。そうすることで、表面的な知識だけではなく、患者さんやその家族のことを深く理解しようとするものです。その対象も社員全員で、本社の総務部や経理部の人も対象となります。
5. 深く理解するとは共感すること
ここで求められるのは、エーザイの例で言えば、単に患者さんや家族に関する知識だけではありません。さらに踏み込んで、これらの人たちの心の部分をしること、すなわち共感を求められています。知識は単なる知識です。しかし共感は、その知識と関連してそこで対象者が日々どのような思いをし、楽しさ、喜び、苦しさ、不安を感じているかまで理解しようとするものです。
次回に続きます。