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「テーマ創出が出来た後はどのような見通しでしょうか?」と言われたのは部下に数十人の技術者を抱えるA常務取締役でした。数年前、その会議室にはA常務の他に、部下の方がお一人。それに私を加えた三人で会議をしていました。筆者は顧客の潜在ニーズを解決するテーマ創出方法についてコンサルティングをしています。そのコンサルティングをご利用いただくに際しての打ち合わせをしていました。打ち合わせの内容と言えば、テーマ創出にかかる期間の調整、関わる技術者の選定、かかる予算等いくつかの事務的なことで、実施に際して必要なことでした。しかし、A常務の関心はそこにはありませんでした。テーマ創出の目的は、面白みのあるテーマを創出することです。面白みのあるテーマとは、自社では出てきそうにないテーマのこと。A常務配下の技術者は長年テーマ創出に取り組んできており、面白みのあるテーマを出すことが出来ないでいる状態で、私のところに相談に来られていました。
打ち合わせで事務的なことを打ち合わせすると、面白みのあるテーマが創出できそうだということが見えてきたようです。というのは、例えば、打ち合わせ事項の一つに人選があります。面白みのあるテーマ創出がしやすくなるように「どのような人」を「なぜ選ぶ」のかを検討します。そうすると、A常務は「なるほど」と頷かれます。もちろん人選だけでなく、期間、予算などについても打ち合わせをしましたので、A常務の「なるほど」が増えました。A常務の頭の中には、「面白みのあるテーマ創出ができそうだ」という道のりが浮かんだようです。その見通しが浮かんだところで、A常務が気になったのはその先でした。「面白みのあるテーマが創出できた後はどうするべきなのか?」ということです。冒頭の質問になったという訳です。
1. 面白みのあるテーマの世界 従来の考え方がいらない世界
A常務の質問に対して私はこう答えました。「今回の取り組みをすれば、面白みのあるテーマが出てくると思います。ただ、そのまま投資すれば良いかと言えば、不安になるかも知れません。」「どういうことでしょうか?」とA常務は私に訊きました。私はどのように伝えれば上手に伝えられるのか、しばらく思案しました。ストレートに言えば失礼になるような気がしましたし、とはいえ言っておかなければならないことだったからです。
確認のために説明しますが、「面白みのあるテーマ」とは、下図のアンゾフの成長マトリックスの緑に着色した領域、つまり、技術軸(横軸)または顧客軸(縦軸)で何らかの新しい要素があるテーマです。左下の既存テーマではありません。しかし、ほとんどの会社では、既存テーマ...
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「テーマ創出が出来た後はどのような見通しでしょうか?」と言われたのは部下に数十人の技術者を抱えるA常務取締役でした。数年前、その会議室にはA常務の他に、部下の方がお一人。それに私を加えた三人で会議をしていました。筆者は顧客の潜在ニーズを解決するテーマ創出方法についてコンサルティングをしています。そのコンサルティングをご利用いただくに際しての打ち合わせをしていました。打ち合わせの内容と言えば、テーマ創出にかかる期間の調整、関わる技術者の選定、かかる予算等いくつかの事務的なことで、実施に際して必要なことでした。しかし、A常務の関心はそこにはありませんでした。テーマ創出の目的は、面白みのあるテーマを創出することです。面白みのあるテーマとは、自社では出てきそうにないテーマのこと。A常務配下の技術者は長年テーマ創出に取り組んできており、面白みのあるテーマを出すことが出来ないでいる状態で、私のところに相談に来られていました。
打ち合わせで事務的なことを打ち合わせすると、面白みのあるテーマが創出できそうだということが見えてきたようです。というのは、例えば、打ち合わせ事項の一つに人選があります。面白みのあるテーマ創出がしやすくなるように「どのような人」を「なぜ選ぶ」のかを検討します。そうすると、A常務は「なるほど」と頷かれます。もちろん人選だけでなく、期間、予算などについても打ち合わせをしましたので、A常務の「なるほど」が増えました。A常務の頭の中には、「面白みのあるテーマ創出ができそうだ」という道のりが浮かんだようです。その見通しが浮かんだところで、A常務が気になったのはその先でした。「面白みのあるテーマが創出できた後はどうするべきなのか?」ということです。冒頭の質問になったという訳です。
1. 面白みのあるテーマの世界 従来の考え方がいらない世界
A常務の質問に対して私はこう答えました。「今回の取り組みをすれば、面白みのあるテーマが出てくると思います。ただ、そのまま投資すれば良いかと言えば、不安になるかも知れません。」「どういうことでしょうか?」とA常務は私に訊きました。私はどのように伝えれば上手に伝えられるのか、しばらく思案しました。ストレートに言えば失礼になるような気がしましたし、とはいえ言っておかなければならないことだったからです。
確認のために説明しますが、「面白みのあるテーマ」とは、下図のアンゾフの成長マトリックスの緑に着色した領域、つまり、技術軸(横軸)または顧客軸(縦軸)で何らかの新しい要素があるテーマです。左下の既存テーマではありません。しかし、ほとんどの会社では、既存テーマ(左下)を遂行するために会社組織が出来ています。そのため、組織とテーマがミスマッチするという問題が生じるわけです。
どういうことかと言えば、面白みのあるテーマには既存のマネジメントはそぐわないということなのです。以下では、「既存マネジメントがそぐわない」という点について簡単に説明します。
2. 面白いテーマをどう扱うか?
面白いテーマが出てきたら投資すればいいじゃないか、と思いますよね。しかし、いざ投資しようと思うと問題が発生します。ここでは3つの問題をご紹介します。
1つ目は、面白みのあるテーマに人やお金を割いたら、既存テーマができなくなってしまうということです。「既存業務は儲からないのだからしなくても良いだろう」と思うのですが、会社経営層にはそんな簡単な問題にはなりません。ステークホルダー(株主)を背負っているからです。収益を犠牲にするかも知れないことをやりたくないと思うのは当然です。A常務も例外ではありませんでした。
2つ目の問題はマネジメントです。面白みのあるテーマは、既存テーマではありません。そのため、既存のマネジメントの枠に入り切らないのです。一般に企業経営者(特に日本に多い内部昇格経営者)は、既存事業の顧客や技術に精通しています。A常務も例外ではありませんでした。そのため、既存事業の範囲内で色々な判断が出来ます。極端な話、箸の上げ下げにまで口を出すマイクロマネジメントまで出来てしまいます。
しかし、面白みのあるテーマは既存事業からはみ出しているのです。A常務の知らない顧客を、A常務の知らない技術で解決しようというものです。そうなるとどうなるでしょうか?
そう、A常務がマネジメント出来ないのです。面白みのあるテーマを検討する部下の方がそのテーマについて知っていますから、上司は指示できない。そのため、部下から見れば上司に報告してもムダになります。なのに、部下に通常通りの報告を求めているようだと仕事が進まないのです。
3つ目の問題は上司の存在意義です。上記のように「部下の方が詳しい」状況が生まれますと、上司の存在意義がなくなります。報告を受けて指示をするのが上司の仕事だと思っていたA常務には、面食らうところがあると思いました。
A常務世代に限らず、今も日本の新入社員教育では「ホウレンソウは大事」と教えているのではないでしょうか。確かに大事な時はあるのですが、それは既存事業の話。極端な話ですが、少なくとも面白みのあるテーマを進める上で既存事業の上司向けのホウレンソウは、ムダになることもあります。
その他にもありましたが、本稿では割愛します。要するに、面白みのあるテーマを創出するには、A常務が今まで生きてきたマネジメントや組織の姿とは異なるものが求められる、ということなのです。では、私はA常務にどのように答えたのでしょうか?
3. テーマ創出後の組織のあり方
面白みのあるテーマの進行は、極端な話ではありますが、上司がいらない世界になります。もしテーマ創出が出来た暁にはそれに投資するわけですが、そうした場合、上司がいらないフラットな会社が望ましいということです。
これをA常務の会社に当てはめると、A常務の望む面白みのあるテーマが出た場合、それを実行するにはA常務がいないほうが望ましいという意味にもなります。とはいえ、私にとっては、「あなた(依頼主であるA常務)がいらなくなる組織になりますよ」とは言いにくい話です。
しかし、A常務の質問でもありますので、なんとかお答えしなければなりません。私はA「常務はどういう反応を示すのだろうか?」と思いながら回答しました。
一般論ですが、私がこのような質問に回答した時に、反応は2つあります。一つは「そんなはずはない」という拒絶反応です。コンサルタントに依頼している以上、どんな改善提案もオープンに認めたいものですが、自分の仕事がなくなるというのは認められないものです。
もう一つの反応は、自分がいらなくなることも歓迎するものです。「やはりそうでしたか」とか「会社がそうならないといけないと思います」などという好意的な反応をされます。
このような反応の相違はどのような結果の相違を生むでしょうか?違いを示すと上図のようになります。しっかりと組織変革をする会社(左)と、スルーする会社(右)です。結果の違いは明らかで、左の会社は事業化に成功するだけでなく、テーマ創出体質になります。一方、右の会社は事業化に成功しないだけでなく、体質も手に入れられないのです。
私は、上記のような説明を踏まえて「その後は組織変革をするかしないかで、その後の会社が変わりますよ。」と伝えました。さて、A常務の反応はどんなものだったでしょうか?
A常務はスッキリした表情で「そういう組織変革をしなければならないと、どこかで思っていたんですが、やっと順番が理解できました」と言われました。「組織を変革しなければテーマは出ないと思っていた一方で、テーマもないのに組織変革というのもおかしいと思っていた」ようです。スッキリしたということ。
自身の仕事がなくなってしまう可能性についても一定の理解をしつつ、「会社を変えていくことが自分の最後の仕事です」とスッキリした表情をされたのです。上司の潔い言葉に、同席された部下の方も納得されたように頷かれたのです。
さて、読者の皆さんは「自分の仕事がなくなるかも知れない」という時にどのように反応されるでしょうか?現状維持・保身のために拒絶反応を示すのが普通かもしれませんが、もうそういう時代でもありませんよね。コラムにご登場頂いたA常務のように積極的に認められると良いと思います。
そのために必要なのは自分自身のサバイバル力。今風に言えば、リスキリングでしょうか。会社が変わっても良い実力を備え、自分自身の仕事が要らなくなるような組織変革を積極的に提案できるようにしたいものですね。
次回に続きます。
【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載
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