TOC思考プロセスとは

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 inf08TOC思考プロセスは、論理に基づく、問題解決のフレームワークです。ここで言う論理とは因果関係のことで、因果関係の図式化に基づく分析手法が、問題解決のステップごとに用意されています。
 
 名称から明らかなように、TOC思考プロセスは、ベストセラーとなったビジネス小説「ザ・ゴール」シリーズで紹介されたTOC(Theory of Constraints;制約の理論)の1分野です。
 
 TOC思考プロセスの特徴は、因果関係に基づいていることと、問題を分割して解決するのではなく包括的に扱うことで、システム思考(Systems Thinking)をご存知の方には直感的に理解できると思います。
 
 情報工学では、元の問題を扱いやすくするために副問題に分割し、副問題を解くことで元の問題を解くアルゴリズムが広く用いられます。これを分割統治法と言います。分割統治法が機能するのは、解くべき問題が数理モデルなどで定式化され、副問題を解くことによって元の問題が確実に解決されるからです。しかし当然ながら、業務や日常生活で直面する問題は明確なモデルで表されている訳ではありません。問題をよく把握しないまま安易に副問題に分割すると、副問題を解決しても肝心な元の問題を解決できなくなってしまいます。
 
 TOC思考プロセスには、因果関係を図式化することで、問題が発生している状況(CRT:Current Reality Tree)、問題が解決された状況(FRT:Future Reality Tree)、目標を達成するための中間目標と課題(PRT:Prerequisite Tree)、目標を達成するためのマイルストーン(TRT:Transition Tree)、問題解決のステップ(S&T:Strategy and Tactics Tree)を明確にできるという特長があります。括弧内は、TOC思考プロセスで用いられる図式の名称です。TOC思考プロセスの図式にはさらに、利害関係者の対立を表す図式(クラウドまたはEC:Evaporating Cloud)があります。
 
 問題解決には、解くべき問題を適切に定義し、その定義に対して利害関係者が共通の認識をもつことが必要です。TOC思考プロセスの図式は、この両方に役立つ強力なツールです。TOC思考プロセスでは、(1)何を変えるか、(2)何に変えるか、(3)どうやって変えるか、という3つの問いに答えていきます。基本的な図式の使い方としては、何を変えるかを検討するのにCRTを、何に変えるか検討するのにクラウドとFRTを、どうやって変えるのかを検討するのにPRT、TRTおよびS&Tを用います。
 
 上述のようにTOC思考プロセスには多くの図式がありますが、実用上はクラウドが最も重要だと言ってよいでしょう。問題を図式化して利害関係者が共通の認識をもったとしても、利害関係者間の対立を解消できなければ解決の糸口が見つからないからです。
 
 以下(図1)に、小売店の事業戦略に関するクラウドの例を挙げます。新規出店する(D)、新規出店せずに既存店舗での路線を継続する(D’)という対立が生じています。
 
           ec ex図1.小売店の事業戦略に関するクラウドの例
 
 クラウドは哲学でいう弁証法で、対立する2つの行動(主張)DとD’から出発し、それぞれの要求BとCを明らかにして、それらの共通目標Aを考えます。対立する行動から共通目標に至るのは弁証法と言えます。また、行動の背後にある要求を考えることは、マーケティングにおけるウォンツ(wants)とニーズ(needs)の違いを区別することにも通じます。
 
 適切に定義されたクラウドでは、要求BとCは共通目標Aの達成に必要であり、両者はもはや対立しません。したがって、利害関係者はどうやって共通目標Aを達成するかを建設的に議論できます。要求BとCの成立に本当に行動DとD’が必要なのかを吟味することが、対立を解消する鍵となります。
 
 なお、上記のA、B、C、D、D’は、クラウドにおける呼び名の慣例で、この呼び名を用いて議論を円滑に進めることができます。
 
 TOC思考プロセスによる問題解決には、CRTを始めとする図式のすべてを用いる必要はありません。たとえばクラウドだけを用い...
 inf08TOC思考プロセスは、論理に基づく、問題解決のフレームワークです。ここで言う論理とは因果関係のことで、因果関係の図式化に基づく分析手法が、問題解決のステップごとに用意されています。
 
 名称から明らかなように、TOC思考プロセスは、ベストセラーとなったビジネス小説「ザ・ゴール」シリーズで紹介されたTOC(Theory of Constraints;制約の理論)の1分野です。
 
 TOC思考プロセスの特徴は、因果関係に基づいていることと、問題を分割して解決するのではなく包括的に扱うことで、システム思考(Systems Thinking)をご存知の方には直感的に理解できると思います。
 
 情報工学では、元の問題を扱いやすくするために副問題に分割し、副問題を解くことで元の問題を解くアルゴリズムが広く用いられます。これを分割統治法と言います。分割統治法が機能するのは、解くべき問題が数理モデルなどで定式化され、副問題を解くことによって元の問題が確実に解決されるからです。しかし当然ながら、業務や日常生活で直面する問題は明確なモデルで表されている訳ではありません。問題をよく把握しないまま安易に副問題に分割すると、副問題を解決しても肝心な元の問題を解決できなくなってしまいます。
 
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 問題解決には、解くべき問題を適切に定義し、その定義に対して利害関係者が共通の認識をもつことが必要です。TOC思考プロセスの図式は、この両方に役立つ強力なツールです。TOC思考プロセスでは、(1)何を変えるか、(2)何に変えるか、(3)どうやって変えるか、という3つの問いに答えていきます。基本的な図式の使い方としては、何を変えるかを検討するのにCRTを、何に変えるか検討するのにクラウドとFRTを、どうやって変えるのかを検討するのにPRT、TRTおよびS&Tを用います。
 
 上述のようにTOC思考プロセスには多くの図式がありますが、実用上はクラウドが最も重要だと言ってよいでしょう。問題を図式化して利害関係者が共通の認識をもったとしても、利害関係者間の対立を解消できなければ解決の糸口が見つからないからです。
 
 以下(図1)に、小売店の事業戦略に関するクラウドの例を挙げます。新規出店する(D)、新規出店せずに既存店舗での路線を継続する(D’)という対立が生じています。
 
           ec ex図1.小売店の事業戦略に関するクラウドの例
 
 クラウドは哲学でいう弁証法で、対立する2つの行動(主張)DとD’から出発し、それぞれの要求BとCを明らかにして、それらの共通目標Aを考えます。対立する行動から共通目標に至るのは弁証法と言えます。また、行動の背後にある要求を考えることは、マーケティングにおけるウォンツ(wants)とニーズ(needs)の違いを区別することにも通じます。
 
 適切に定義されたクラウドでは、要求BとCは共通目標Aの達成に必要であり、両者はもはや対立しません。したがって、利害関係者はどうやって共通目標Aを達成するかを建設的に議論できます。要求BとCの成立に本当に行動DとD’が必要なのかを吟味することが、対立を解消する鍵となります。
 
 なお、上記のA、B、C、D、D’は、クラウドにおける呼び名の慣例で、この呼び名を用いて議論を円滑に進めることができます。
 
 TOC思考プロセスによる問題解決には、CRTを始めとする図式のすべてを用いる必要はありません。たとえばクラウドだけを用いても、多くの問題を解決することができます。また、複数の問題を一括して取り扱うため、それぞれについて作成したクラウドを1つに統合するという実践的な手法もあります。典型的には3つのクラウドのA、B、C、D、D’について、各内容を含むノードを作成し、1つのクラウドを作成します。TOC思考プロセスは緻密なフレームワークですが、こうした実践的な手法も併せて用いられているのが興味深いところです。
 
 図解に基づく思考法に共通する課題として、図が大きく複雑になることがあります。模造紙と付箋紙では実用的な問題の取り扱いが非常に難しくなるので、専用のソフトウェアを用いることも検討の余地があるでしょう。ただし、TOC思考プロセスを学ぶことに加えて、ソフトウェアにも習熟が必要になるという難点があります。当事者意識を醸成するには利害関係者自身が分析を行うことが好ましいので、初期の分析には紙を用い、ファシリテーターがソフトウェアを使って整理するなど、適材適所で道具を使い分けるのが好ましいと考えます。
 

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この記事の著者

中津山 恒

経営をよくする!問題解決プロフェッショナル 〜 論理的思考とIT活用で目標を達成 〜

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