下請け企業における自社製品立ち上げ

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 自社製品を立ち上げたいと考えている下請け企業の経営者は多いと思います。国内の人口減少に伴う市場縮小、グローバル化のさらなる進展など、下請け企業にとっては厳しい社会環境となりつつあるのが理由の一つではないでしょうか。自社製品立ち上げは、今後の市場で勝ち残るための数少ない手段の一つだと思いますが、下請け企業にとって、自社製品を立ち上げることのハードルは低くありません。大きな投資をして失敗すれば、経営が揺らぐリスクもあります。
 
 自社製品立ち上げマニュアルがあればよいのですが、各企業の技術水準や、市場の状況などにより変わるため、万能な方法は存在しません。中小企業の製品設計支援を行っている筆者も、下請け企業が自社製品を立ち上げることのハードルの高さを現場で強く感じています。金銭面、人材面の不足に加え、自社製品立ち上げまでのプロセスが、経営者にとって見えにくいこともその一因だと思われます。
 
 自社製品を立ち上げるためには、マーケティングから設計・開発、製造、品質保証、アフターサービスに至るまで、様々な能力が必要になります。経営資源の乏しい下請け企業が、いきなりすべての能力を構築することは非常に困難です。では、どのようなやり方があるのでしょうか。私は、海外の電子機器企業が、自社製品の立ち上げに成功したプロセスが非常に参考になると考えています。
 
 それは、OEM(original equipment manufacturing:製造受託)から始めてODM(original design manufacturing:設計・製造受託)、そしてOBM(original brand manufacturing:自社製品メーカー)になったプロセスです。いきなり自社製品を立ち上げるのではなく、顧客から受託する仕事を利用して自社の実力を高め、その後、低リスクで自社製品を立ち上げるという戦略です。
 
 自社製品を立ち上げるプロセスの一例として、図のような進め方を紹介します。自社製品を立ち上げることを前提にすると、それぞれのステップにおいて、様々なことを顧客から学べることに気付くはずです。
 
       OEM      
図.自社製品を立ち上げるプロセス
 

◆自社製品を立ち上げるプロセス

<STEP1> 製造受託(OEM):製造のみ実施
 
 顧客から図面や仕様書を入手して製造のみを担当します。入手した図面や仕様書からは、顧客が製品を投入しようとしている市場のニーズや、要求される品質レベルなどを読み取ることができます。自社製品を設計する際に考慮すべき要求事項や、注意すべき不具合など様々なことを学ぶ事ができます。
 
<STEP2> 製造受託(OEM):製造+顧客設計への改善提案
 
 製造に加えて、顧客に対してコストダウンや品質向上などの「設計に関する改善提案」を行います。提案ぐらいであれば簡単だと思うかもしれませんが、設計的な知見がなければ、顧客に対して価値のある提案をすることは意外と難しいものです。また、「コストダウン提案するため」と称して、顧客の設計者に設計意図を聞いてみることも重要なことです。設計者が思った以上に深く検討している点もあれば、ほとんど何も考えずに設計している点もあるなど、これまで見たことがなかった、設計の本来の姿を垣間見ることができます。
 
<STEP3> 設計・製造受託(ODM):顧客設計業務一部取り込み
 
 製造を担当すると共に、顧客の設計業務を一部取り込みます。設計部門はほとんどの企業で慢性的な人不足です。取り合い部分や製造側(自社)との調整が必要な部分の設計など、顧客が面倒だと感じるような設計業務の一部は自社で受託できる可能性があります。一部でも設計業務を受託できれば、設計基準や耐久性評価方法など、顧客から一定の範囲で機密情報を入手することができます。これまで知ることができなかった情報に触れることは、自社製品を立ち上げるために有益なものになると思います。
 
<STEP4> 設計・製造受託(ODM):顧客設計業務完全取り込み
 
 製造を担当すると共に、仕様書以外の顧客設計業務を完全に取り込みます。多くの企業が人員削減や効率化の圧力を受けているはずです。少量品やノンコア部品などに関しては、設計の外注化を希望する企業も多く、設計業務を受託...
 自社製品を立ち上げたいと考えている下請け企業の経営者は多いと思います。国内の人口減少に伴う市場縮小、グローバル化のさらなる進展など、下請け企業にとっては厳しい社会環境となりつつあるのが理由の一つではないでしょうか。自社製品立ち上げは、今後の市場で勝ち残るための数少ない手段の一つだと思いますが、下請け企業にとって、自社製品を立ち上げることのハードルは低くありません。大きな投資をして失敗すれば、経営が揺らぐリスクもあります。
 
 自社製品立ち上げマニュアルがあればよいのですが、各企業の技術水準や、市場の状況などにより変わるため、万能な方法は存在しません。中小企業の製品設計支援を行っている筆者も、下請け企業が自社製品を立ち上げることのハードルの高さを現場で強く感じています。金銭面、人材面の不足に加え、自社製品立ち上げまでのプロセスが、経営者にとって見えにくいこともその一因だと思われます。
 
 自社製品を立ち上げるためには、マーケティングから設計・開発、製造、品質保証、アフターサービスに至るまで、様々な能力が必要になります。経営資源の乏しい下請け企業が、いきなりすべての能力を構築することは非常に困難です。では、どのようなやり方があるのでしょうか。私は、海外の電子機器企業が、自社製品の立ち上げに成功したプロセスが非常に参考になると考えています。
 
 それは、OEM(original equipment manufacturing:製造受託)から始めてODM(original design manufacturing:設計・製造受託)、そしてOBM(original brand manufacturing:自社製品メーカー)になったプロセスです。いきなり自社製品を立ち上げるのではなく、顧客から受託する仕事を利用して自社の実力を高め、その後、低リスクで自社製品を立ち上げるという戦略です。
 
 自社製品を立ち上げるプロセスの一例として、図のような進め方を紹介します。自社製品を立ち上げることを前提にすると、それぞれのステップにおいて、様々なことを顧客から学べることに気付くはずです。
 
       OEM      
図.自社製品を立ち上げるプロセス
 

◆自社製品を立ち上げるプロセス

<STEP1> 製造受託(OEM):製造のみ実施
 
 顧客から図面や仕様書を入手して製造のみを担当します。入手した図面や仕様書からは、顧客が製品を投入しようとしている市場のニーズや、要求される品質レベルなどを読み取ることができます。自社製品を設計する際に考慮すべき要求事項や、注意すべき不具合など様々なことを学ぶ事ができます。
 
<STEP2> 製造受託(OEM):製造+顧客設計への改善提案
 
 製造に加えて、顧客に対してコストダウンや品質向上などの「設計に関する改善提案」を行います。提案ぐらいであれば簡単だと思うかもしれませんが、設計的な知見がなければ、顧客に対して価値のある提案をすることは意外と難しいものです。また、「コストダウン提案するため」と称して、顧客の設計者に設計意図を聞いてみることも重要なことです。設計者が思った以上に深く検討している点もあれば、ほとんど何も考えずに設計している点もあるなど、これまで見たことがなかった、設計の本来の姿を垣間見ることができます。
 
<STEP3> 設計・製造受託(ODM):顧客設計業務一部取り込み
 
 製造を担当すると共に、顧客の設計業務を一部取り込みます。設計部門はほとんどの企業で慢性的な人不足です。取り合い部分や製造側(自社)との調整が必要な部分の設計など、顧客が面倒だと感じるような設計業務の一部は自社で受託できる可能性があります。一部でも設計業務を受託できれば、設計基準や耐久性評価方法など、顧客から一定の範囲で機密情報を入手することができます。これまで知ることができなかった情報に触れることは、自社製品を立ち上げるために有益なものになると思います。
 
<STEP4> 設計・製造受託(ODM):顧客設計業務完全取り込み
 
 製造を担当すると共に、仕様書以外の顧客設計業務を完全に取り込みます。多くの企業が人員削減や効率化の圧力を受けているはずです。少量品やノンコア部品などに関しては、設計の外注化を希望する企業も多く、設計業務を受託できる製品もあると思います。不具合が発生した際の責任は大きくなりますが、不具合の改善業務を通して、自社の設計スキルとノウハウを構築することもできます。
 
<STEP5> 自社製品メーカー(OBM):自社製品を立ち上げ
 
 STEP4(ODM)⇒STEP5(OBM)のハードルは非常に高いと言われており、そう簡単に自社製品を立ち上げることができるわけではありません。しかし、STEP4まで対応できるようになれば、自社製品の立ち上げができるだけの実力がついている可能性が高いと思われます。後は、経営者と設計者の強い意志と情熱により、よい製品を立ち上げるだけです。
 
 このようなステップを踏むことにより、受託した仕事を、自社製品立ち上げのための「お金を頂きながら受ける研修」に変えることができます。経営資源に乏しい下請け企業にとっては、自社製品立ち上げのハードルを低くすることにつながるのではないでしょうか。
 
  この文書は、 2016年2月4日の日刊工業新聞掲載記事を筆者により改変したものです。
 

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この記事の著者

田口 宏之

中小製造業の製品設計の仕組み作りをお手伝いします!これからの時代、製品設計力強化が中小製造業の勝ち残る数少ない選択肢の一つです。

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