今回は、継続的にクリーン化を指導して来たシンガポールのある工場での事例を紹介します。シンガポールでは多国籍の社員で構成されている工場が多く、私が指導していた工場も10カ国以上の方が働いていました。当然英語が彼らの共通語です。日本人だけが通訳を介しての会話ですから、ちょっと肩身が狭いです。
ある現場診断の時に、日本の赴任者と一緒に工場巡回する予定でしたが、緊急会議が入り立ち会えないので、現地の日本語が出来るマネージャーに立ち合ってもらうこととなりました。現場に入って最初の設備の診断を始めたところ、周囲や少し離れたところにいる作業者の視線を感じました。どうしたのかなと思いながらも、その時はあまり気にならず診断を続けました。そして発見した不具合をそのマネージャーに説明しました。「この設備は、こことここが擦れています。擦れた部分から金属粉が発生し落下しています。その下に製品置き場があるので、製品に金属粉が混入してしまいます。不良品になるかも知れません。」と言った内容です。
その場の診断はとりあえず終了し、そのマネージャーに、「次はどの設備を見ますか?」と聞いたところ、「あの設備をお願いします。」と言うので、示された設備のところに行って診断を始めました。ところが指示したマネージャーが来ないので、どうしたのかと思って振り返って見ると、先ほどの場所に周囲の作業者がぱっと集まり、マネージャーから不具合事例の説明を受けていました。また、作業者も代わる代わる発塵個所や金属粉の堆積状態の確認をしていました。先ほど作業者がこちらを見ていると感じたのは、集まるタイミングをはかっていたのだと気付きました。即指導の例です。
一般的な進め方は、その日の診断が終わると放送が入り、「今日の診断は終わります。報告会をしますので職制、関係者は○○会議室にお集まり下さい。」と言った形です。そこで不具合、問題等が報告され、関係職場の管理、監督者は、報告会終了後現場を確認に行くと言うパターンです。
ところが、診断の様子を見ていたり、実際の不具合を確認している作業者の中には、これではいけないと思い、清掃してしまう場合があります。そこに後から確認に入ってもすでに証拠は消え、どこのことなのか分からなくなります。そして対策も取られない場合があります。
ここで重要なことが2つあります。
(1)作業者を育成するには、その場で不具合を見せ、即指導をするということです。百聞は・・・と言うように、視覚から入る情報は桁違いに大きな効果があります。
(2)もう一つは、報告を聞いてから現場を見に行くと、すでに証拠が消えている場合がある。つまり、状態は変化すると言うことです。現場とは、その場に現れると書きますが、その場に現れても時間とともに状態が変化すると言うことです。そこに即指導することの価値があることを認識しておきたいです。
恐らく、日本人が指導したことだと推測しますが、こういう考え方、指導の仕方はお得意のはずの日本よりも東南アジアの方が吸収、定着しているように感じます。
今、日本では、ものづくり企業がどんどんアジアに出て行く、いわゆる国内空洞化が加速しています。その中で、このようなあまり気がつかないノウハウも流出しています。私は、国内空洞化の加速とともに、こう言ったノウハウだけでなく、“ものづくりの心”の空洞化も確実に進んでいるように感じます。見逃しがちな小さなことですが、こういう場に遭遇するにつけ、海外の現場力の強さを感じます。もう、言われた通りに作業をする、単に工数と言う時期は過ぎてしまっています。ただ日本人の目線や意識が変わっていないと言うことです。
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