1. 材料の構造を制御して材料の性能を最大限に引き出す
材料研究をどうやって進めるか。画期的な新材料(たとえば、高温超電導や、凄い効率の太陽電池材料)を発見すればノーベル賞も夢ではないのですが、普通には無理です。私の場合、自分の研究者の目標(企業でいう理念)として「材料の構造を制御して材料の性能を最大限に引き出す」ということを掲げました。その理念のもとに、研究開発で成功を収めることができました。
材料は既存の材料なのですが、薄膜にするときに特殊な構造になるように成膜しました。そうすると新しい光学性能が生まれてきて、あるデバイスに組み込むと、光学性能が約5倍向上するという材料を開発しました。実際には精密な(世界最先端の)光学設計のもとに材料を形成しているのですが、やったことは、ありふれた材料をちょと変わった方法で成膜するというだけです。この材料をユーザーに持っていくと、すぐに飛びついてアッという間に実用化しました。
その他にも、結晶の構造を特定の方位にむけることで、その材料のある性能が1.5倍になることがわかったため、その方位に向けるための研究を進め、その結果を複数の企業に売り込むことができました。
いずれも、材料そのものの開発というよりも、構造の制御により、材料の性能を最大限に引き出しています。構造制御のために、材料研究そのものよりも材料を任意の構造に作るためのプロセスの研究が主になっています。中村修二先生のGaNに関しても、材料自身を発見したのではなく、欠陥を含めた構造を制御して、再現性よく品質のよいGaNを作ることに成功したのです。新材料の発見ではありません。
このように、材料研究といっても、新規な材料を開発しなくても既存の材料の構造を制御して、その材料の魅力を最大限に引き出せれば、新しい用途が開けると思います。
2. 材料研究とコンビナトリアル
材料開発をどう進めるかということに関して、「理論的に設計して・・・・」ということもありますが、なかなかうまくいかないのが実情です。特に企業での開発の場合、時間との勝負ですのでできるだけ最短の工数で最大限の効果を上げたいと思います。
私のお勧めのやり方は「コンビナトリアル」です。コンビナトリアルとは組み合わせによる合成(生成)方法です。私の場合は、無機材料の開発なので、組成を振るのに、成長温度を振るのに、コンビナトリアル手法を用いています。
これを用いると、例えば20種類の組成の材料を作るのにこれまでは1ヶ月かかったところが、たったの1日でできてしまいます。さらに、いいことに1回の実験ですべての組成の成長ができるので、バッチごとの再現性の問題は全くありません。
正当なコンビナトリアル法とまではいかなくても、材料をつくるときの成長温度にグラディエーションをつけて成長させると、温度依存性が得られたりします。私の場合だと、6インチウエハを加熱して膜付けをするときに、ウエハを加熱ヒーターに対して斜めに設置したりします。そうすると、加熱ヒーターから浮いているところは基板温度が少し下がります。このようなやりかたで進めれば、一度の実験で異なる基板温度で実験をすることができます。
実験を行う前にいかに効率よくやるかということを考えて、工夫し...
新材料の開発というものはなかなか理論通りにいかず、無力感を感じることがあります。そのためバッチ式で1つずつモノを作っていると、新材料の開発は偶然できればラッキーということになってしまいます。しかも一生をかけてもできる実験回数は限られている。しかしながら、コンビナトリアルはそのための偶然の確率を飛躍的に増やしてくれるます。コンビナトリアル法は、バッチ式でなれた人には慣れるまでに時間がかかるように思います。しかしながら、面白い方法なので、概念だけでも取り入れて材料開発の確立を上げていって下さい。