簡易版DX/IoTから機械学習への移行

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◆ DX(デジタル・トランスフォーメーション)を使えばコスト削減と納期短縮が可能に

 産業界のニュースなどをインターネットで読んでいると、DX(デジタル・トランスフォーメーション)やIoT(インターネット・オブ・シングス)の話題で溢れています。「今話題になっているから」とか「新技術に乗り遅れないために」などという理由だけでDXやIoTを始める人はいないと思いますが、一方でDXやIoTができることを良く知っている現場の人も少ないようです。産業界のニュースは「DXやIoTを使えば現場の見える化ができます」とか「DXやIoTを使えば異常診断ができます」とか言っています。それは正しいのですが、決してそれだけではありません。リーンシックスシグマを生業とする僕の立場から言えば、DXやIoTを使えばコスト削減と納期短縮が可能になります。

1. 今までの検査プロセス

 先日、検査プロセスのマネージャーからある仕事の依頼を受けました。内容は「検査プロセスで時々不合格品が発生する。製品が悪いのか、それとも検査プロセスが悪いのか、一度見て欲しい」というものでした。

 製品は兎も角として、なぜ検査プロセスまでチェックしなくてはならないのか、その理由をマネージャーに聞くと、「製品が一品一品違うオーダーメイドなので、製品ごとに検査プロセスのパラメータ設定値や合格基準を変えているから」という返事でした。

 そこで現場に行き、オペレータにこれまでの検査履歴情報を見せてもらいました。そしてオペレータが見せてくれたものは、製品シリアルナンバーのリストが印刷された紙に、手書きで製品ごとの合否が記入されてあるものでした。

 「この他に設定パラメータの値や、合否を決める基準や測定結果などは記録していないの?」とオペレータに聞くと、「検査手順書通りに検査をやっているので、合否以外に他のデータは残していない」との返事でした。

 この検査プロセスの唯一の目的は検査不合格品を見つけることだったので、時間やコストを掛けてまで他のデータを記録する必要はなかったようです。アナログ処理で十分、ましてやDXやIoTは無用の長物でした。

2. 新しい検査プロセスとDX(デジタル・トランスフォーメーション)

 「製品が悪いのか、それとも検査プロセスが悪いのかを見極める」というのは表面的な問題解決の課題でした。本当の目的は「製品やプロセスの品質を高めて検査不合格品を減らすことでコスト削減を図り」かつ「検査プロセスのリードタイムを短縮する」というものでした。そしてこの目的を達成するためには、少なくともDX(デジタル・トランスフォーメーション)が必要でした。そこでまず考えたことは、

  •  十分なデータがあれば、統計的なデータ分析ができる
  •  統計的なデータ分析ができれば、検査の合否に影響を与える主要な因子を特定できる
  •  主要な因子が特定できれば、その因子を最適化し、検査プロセスの精度が高められる(不要な不合格品の削減->コスト削減)
  •  主要な因子と最適化された値を用いて数値モデルを作れば、合否を予測し検査プロセスの短縮が図れる
  •  数値モデルを用いれば、製品や検査プロセスのバラツキ(精度)が掴める

 などでした。そのために必要だったものは、回帰分析、最適化、モンテカルロ・シミュレーションができる十分なデータでした。十分なデータを取得するために、製品の測定データや検査プロセスの設定パラメータ、合否の測定値など、測定可能なありとあらゆるデータを記録してもらうようにオペレータに依頼しました。オペレータは製品ごとに手を使ってデータを測定し、手を使って測定データをコンピュータに打ち込みました。アナログからデジタルへの変換です(A/D変換)。ここから検査プロセスのDX(デジタル・トランスフォーメーション)はスタートしました。

情報マネジメント

DX(デジタル・トランスフォーメーション)

3. リーンシックスシグマ的なデータ分析の進め方

 ところで、リーンシックスシグマ的、というよりもDFSS(Design for Six Sigma)的なデータ分析のやり方は、おおよそ形(パターン)が決まっています。考え方と言っても良いかもしれません。考えるパターンを順に説明するとこのようになります。(下図とは異なり、反対の方向から考えます)

  • 分析対象のバラツキは把握しているか?バラツキを把握していないのなら、モンテカルロ・シミュレーションでバラツキを把握する
  • 分析対象は最適な状態か?最適な状態でなければ、最適化する
  • 分析対象を最適化するための数値モデルはあるか?数値モデルがなければ、回帰分析を行って数値モデルを作る
  • 回帰分析が行える良質のデータは揃っているか?良質のデータが揃っていなければ、モデリングDOEを行ってデータを取得する
  • モデリングDOEを行うために、分析対象の主因子は分かっているか?主因子が分かっていなければ、主因子分析(回帰分析の一部)を行う
  • 主因子分析を行えるだけの十分なデータはあるか?十分なデータがなければ、スクリーニングDOEを行ってデータを取得する

 逆に言えば(つまり下図のような方向)

  • 主因子分析も行えるデータがすでにあり、
  • 主因子もすでに分かっており、
  • 回帰分析を使って分析対象の数値モデルが作れるほどデータは良質であり、
  • その数値モデルを使って分析対象の最適化を行っており、

 分析対象のバラツキも把握していることが、 リーンシックスシグマ的(DFSS的)な理想形なのです。

情報マネジメント

データ分析(統計処理)の進め方

4. 新しい検査プロセスのDX化

 オペレータによるアナログ/デジタル変換によって統計的な分析が行えるだけのデータが揃ってきたところで、上記のような分析を行いました。そして検査で不合格が起こる主因子の特定(原因の特定)を行い、検査プロセスを最適化し、検査結果を予測する数値モデルを使って検査プロセスの簡略化を行いました。また製品の不合格が起こる確率を下げたことで、スクラップ品の数を減らすこともでき、コスト削減に繋がりました。

 これで当初の課題は解決したのですが、さらに精度の高い数値モデルを作り、精度の高い最適化や予測をするためには、さらに多くのデータが必要でした。しかしオペレータがこれまで通り手作業でアナログ/デジタル変換を続けることには限界がありました...

 

◆ DX(デジタル・トランスフォーメーション)を使えばコスト削減と納期短縮が可能に

 産業界のニュースなどをインターネットで読んでいると、DX(デジタル・トランスフォーメーション)やIoT(インターネット・オブ・シングス)の話題で溢れています。「今話題になっているから」とか「新技術に乗り遅れないために」などという理由だけでDXやIoTを始める人はいないと思いますが、一方でDXやIoTができることを良く知っている現場の人も少ないようです。産業界のニュースは「DXやIoTを使えば現場の見える化ができます」とか「DXやIoTを使えば異常診断ができます」とか言っています。それは正しいのですが、決してそれだけではありません。リーンシックスシグマを生業とする僕の立場から言えば、DXやIoTを使えばコスト削減と納期短縮が可能になります。

1. 今までの検査プロセス

 先日、検査プロセスのマネージャーからある仕事の依頼を受けました。内容は「検査プロセスで時々不合格品が発生する。製品が悪いのか、それとも検査プロセスが悪いのか、一度見て欲しい」というものでした。

 製品は兎も角として、なぜ検査プロセスまでチェックしなくてはならないのか、その理由をマネージャーに聞くと、「製品が一品一品違うオーダーメイドなので、製品ごとに検査プロセスのパラメータ設定値や合格基準を変えているから」という返事でした。

 そこで現場に行き、オペレータにこれまでの検査履歴情報を見せてもらいました。そしてオペレータが見せてくれたものは、製品シリアルナンバーのリストが印刷された紙に、手書きで製品ごとの合否が記入されてあるものでした。

 「この他に設定パラメータの値や、合否を決める基準や測定結果などは記録していないの?」とオペレータに聞くと、「検査手順書通りに検査をやっているので、合否以外に他のデータは残していない」との返事でした。

 この検査プロセスの唯一の目的は検査不合格品を見つけることだったので、時間やコストを掛けてまで他のデータを記録する必要はなかったようです。アナログ処理で十分、ましてやDXやIoTは無用の長物でした。

2. 新しい検査プロセスとDX(デジタル・トランスフォーメーション)

 「製品が悪いのか、それとも検査プロセスが悪いのかを見極める」というのは表面的な問題解決の課題でした。本当の目的は「製品やプロセスの品質を高めて検査不合格品を減らすことでコスト削減を図り」かつ「検査プロセスのリードタイムを短縮する」というものでした。そしてこの目的を達成するためには、少なくともDX(デジタル・トランスフォーメーション)が必要でした。そこでまず考えたことは、

  •  十分なデータがあれば、統計的なデータ分析ができる
  •  統計的なデータ分析ができれば、検査の合否に影響を与える主要な因子を特定できる
  •  主要な因子が特定できれば、その因子を最適化し、検査プロセスの精度が高められる(不要な不合格品の削減->コスト削減)
  •  主要な因子と最適化された値を用いて数値モデルを作れば、合否を予測し検査プロセスの短縮が図れる
  •  数値モデルを用いれば、製品や検査プロセスのバラツキ(精度)が掴める

 などでした。そのために必要だったものは、回帰分析、最適化、モンテカルロ・シミュレーションができる十分なデータでした。十分なデータを取得するために、製品の測定データや検査プロセスの設定パラメータ、合否の測定値など、測定可能なありとあらゆるデータを記録してもらうようにオペレータに依頼しました。オペレータは製品ごとに手を使ってデータを測定し、手を使って測定データをコンピュータに打ち込みました。アナログからデジタルへの変換です(A/D変換)。ここから検査プロセスのDX(デジタル・トランスフォーメーション)はスタートしました。

情報マネジメント

DX(デジタル・トランスフォーメーション)

3. リーンシックスシグマ的なデータ分析の進め方

 ところで、リーンシックスシグマ的、というよりもDFSS(Design for Six Sigma)的なデータ分析のやり方は、おおよそ形(パターン)が決まっています。考え方と言っても良いかもしれません。考えるパターンを順に説明するとこのようになります。(下図とは異なり、反対の方向から考えます)

  • 分析対象のバラツキは把握しているか?バラツキを把握していないのなら、モンテカルロ・シミュレーションでバラツキを把握する
  • 分析対象は最適な状態か?最適な状態でなければ、最適化する
  • 分析対象を最適化するための数値モデルはあるか?数値モデルがなければ、回帰分析を行って数値モデルを作る
  • 回帰分析が行える良質のデータは揃っているか?良質のデータが揃っていなければ、モデリングDOEを行ってデータを取得する
  • モデリングDOEを行うために、分析対象の主因子は分かっているか?主因子が分かっていなければ、主因子分析(回帰分析の一部)を行う
  • 主因子分析を行えるだけの十分なデータはあるか?十分なデータがなければ、スクリーニングDOEを行ってデータを取得する

 逆に言えば(つまり下図のような方向)

  • 主因子分析も行えるデータがすでにあり、
  • 主因子もすでに分かっており、
  • 回帰分析を使って分析対象の数値モデルが作れるほどデータは良質であり、
  • その数値モデルを使って分析対象の最適化を行っており、

 分析対象のバラツキも把握していることが、 リーンシックスシグマ的(DFSS的)な理想形なのです。

情報マネジメント

データ分析(統計処理)の進め方

4. 新しい検査プロセスのDX化

 オペレータによるアナログ/デジタル変換によって統計的な分析が行えるだけのデータが揃ってきたところで、上記のような分析を行いました。そして検査で不合格が起こる主因子の特定(原因の特定)を行い、検査プロセスを最適化し、検査結果を予測する数値モデルを使って検査プロセスの簡略化を行いました。また製品の不合格が起こる確率を下げたことで、スクラップ品の数を減らすこともでき、コスト削減に繋がりました。

 これで当初の課題は解決したのですが、さらに精度の高い数値モデルを作り、精度の高い最適化や予測をするためには、さらに多くのデータが必要でした。しかしオペレータがこれまで通り手作業でアナログ/デジタル変換を続けることには限界がありました。

 そこでPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)とソフトウェアを使って、簡単なデータの自動収集システムを構築しました。検査プロセスのDX(デジタル・トランスフォーメーション)化です。

 自動収集したデータは社内ネットワーク上のファイルに自動的に記録され、いつでも何処からでも統計分析ができる環境になりました。ネットワークを使っているので、簡単なIoTシステムと言えるかもしれません。

5. 簡易版DX/IoTから機械学習へ

 自動的にデータが溜まってきたので、そのデータを使って機械学習を試してみました。機械学習を試した目的は、数値モデルの精度(予測の精度)を繰り返し高め、予測結果を使ってさらにコスト削減や処理時間を短縮することでした。つまり検査プロセスで言えば、合格であるにも関わらず不合格品となる製品の割合を減らし(コスト削減)、不要な検査プロセスを削減する(処理時間の短縮)ことでした。

 しかし機械学習のプロセスは、これまで簡易版DX/IoTのプロセスとは異なりました。簡易版DX/IoTプロセスでは事前にデータ取得のための準備をして、良質なデータを取得していましたが、一方機械学習プロセスは、生データ(汚れたデータ)をたくさん取得して、生データを機械学習で使えるレベルの良質のデータに変換する必要がありました。今、簡易版DX/IoTから機械学習へ移行する作業を行っていますが、すでにその目的を達成できる手応えを感じつつあります。

情報マネジメント

DX/IoTから機械学習へ

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この記事の著者

津吉 政広

リーンやシックスシグマ、DFSSなど、問題解決のためのフレームワークを使った新製品の開発や品質の向上、プロセスの改善を得意としています。「ものづくり」に関する問題を一緒に解決してみませんか?

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